4章『七日』
第66話『後7日、土曜、リスト』
翌日の土曜日。
翌日と言っても、外園をタンガ連れて行ってから二時間もたっていない早朝六時。
結局一睡もできず、俺はヒカリの家族に見つからないようにこっそりと離れを出て、日時計公園でヒカリたちを持った。
一人でゆっくりと日時計を見るのは久しぶりだな。
一時間ほどすると、ヒカリとヨシカがやってきた。
「サトルくん、私はサトルくんの護衛でもあるんだから先に行かないで」
「人避けの結界もありましたから、そんなに急ぐ理由はありませんでしたよ」
俺と違い、しっかりと許可を取って泊まったヨシカは、ヒカリの母親に誘われた朝食を断ることができず、出る時間を別々にした。
人避けの結界もわかってはいたけど、ここで一人、考えたいこともあったんだ。昨日の告白失敗とか、失敗した告白とか、いろいろ。
「サトルさん、昨夜何かありましたか」
「い、いいや、何もなかったぞよ」
めちゃくちゃおかしな喋りになってしまった。
何かあったのはもろばれだろ。ヒカリも苦笑いしている。
「そうですか、良かったです。まだ決定的ではないのですね」
決定的とはいったい、ものすごく尋ねたいけど、絶対に藪蛇になるので聞かない。
今日はヒカリとヨシカに挟まれての登校。
あいかわらずの注目に、いつまでたっても慣れない。
教室に行けば、外園は普通に来ていて、いつも通り、ヒカリと並んで教室に入った俺を睨んでくる。催眠の効果があったかどうかは、見ただけではわからないが、魔力も感じないので多分大丈夫、あとは様子を見るしかないだろう。
勇者を探してみたが、教室にはいない。
また騒ぎでも起こすのかと警戒していたけど、結局、授業が全て終わってもアイツは姿を現さなかった。
「この静かさがずっと続いてくれるといいんだけどね」
「高望みしすぎは良くないのです」
願望を呟いたら、レンサクにきっぱり否定される。
土曜なので半日で終わった学園、ケンジを除く部員七人が部室に集った。
「今日のお弁当は、私とヨシカの合作なんだ」
「作るのが楽しくて、つい作り過ぎてしまいました。みなさんの協力をお願いします」
おせちに使う重箱で並べられる色とりどりのお弁当。流石は料理スキルカンストとそれに張り合うライバルの合作。
値段を付けたら数万円は取れそうだ。
「遠慮しないで、食べてくださいね」
ヨシカが小皿とお箸をみんなに配りいただきますと宣言して一斉に橋をのばした。
ここで遠慮すれば食べたいモノから消えていくと、蘇った記憶が教えてくれる。好物はのがすなと訴えてくる。
こんな些細な記憶ですら、蘇ったことが嬉しい。
から揚げだけで五種類もあるのか、これは絶対に全部キープだ。
「遠慮が無くなったじゃないか兄弟」
「そうか、前からこうだったと思うけど」
「そうだな、異世界にいた頃から、お前は好物を先にキープする癖があった。だからこそ、それよりも先にキープするのが面白い」
「そうはさせるか」
「タンクの防御力を舐めるな」
タンガは俺が取ろうとした、から揚げの入った弁当箱ごと遠ざけた。だが甘い。
「影法師は搦め手使いだぜ」
俺は影で箸を伸ばして、遠くなった弁当箱の中からから揚げを抜き取る。
「チィ、やるじゃないか」
記憶が戻ったおかげだろう。レベルは変わっていないが、影の扱いを思い出し、細かい操作ができるようになった。
「もう、二人とも、たくさんあるんだから食べ物で遊ばないで」
「「はーい」」
ヒカリに叱られてしまった。
そんな時だ、俺のスマホにケンジからの着信があった。
「起きていて大丈夫なのか」
『部屋の中で作業する分には、問題にならない程度には回復した』
俺はスピーカーモードにしてケンジの声がみんなにも聞こえるようにする。
「ケンジくん、対策の方はどうなった?」
『心配無用だ、奴らの大雑把な術式など半日で解析できた。後は反転術式を刻んだ水晶を次元の裂け目に投げ込めば、トラップは解除できる』
「その水晶ってのはどこで手に入れるんだ」
『今、条件にあう物をネットショッピングで探している。明日くらいまでには見つかるだろう』
「そこはケンジさん一人に任せるのは違うと思います。わたくしたちも一緒に探しますので、条件を教えてください」
一人で探す気になっているケンジにヨシカが待ったをかけた。俺もヨシカの意見に賛成だ、術式の構築など専門知識が必要なことは任せっきりになってしまったけど、ネットで探すだけなら俺でもできる。
「俺も協力するぞケンジ」
『明日はせっかくの休みなんだ、雑用は私に任せてデートでもしてくれば良いモノを』
「それはいいですね。サトルさん、今日中に見つけられたら、明日デートしてくれますか?」
「ちょっとヨシカ、それはずるいよ」
「そうだよ、だったらあたしの方が先に見つけてサトッチとお出かけする」
昨夜の失敗が脳裏にはっきりと思い出されてしまった。この一部の記憶だけをキレイに忘れる魔法は無いものか。
いかん、現実逃避をしている場合じゃない。
いつの間にか、誰が明日のデート権を取るかで話し合っているメンバーの中にホカゲまで参戦していた。
「みんな、ひとまず落ち着こう」
手を叩いて注目を集める。
「俺の案を聞いてほしい、ケンジの時間停止が切れる一週間後までの間の、やりたいことリストを作りたいんだ」
「やりたいことリスト?」
ヒカリが代表して質問してくる。やりたいことリスト。
リミットが一週間と聞いて漠然と考えていた案だった。
まだヒカリから説明を聞く前、死ぬかもしれないと脅えていた時、なんとなくエンディングノートことが頭に浮かんだ。
結局、死ぬは俺の早とちりだったけど、やりたいことリストはやってもいいんじゃないかと思えた。いや、やっておきたいと思ったんだ。
「一人一つ、やりたいことを上げていって、それをみんなで達成していく」
『サトルお前』
「来週の期限までにできることがいいかな、ケンジ、正確にはいつ時間停止が切れるんだ」
『金曜の深夜二十四時までは保証しよう。それ以後はいつ切れてもおかしくない』
今日が土曜日だから、日月火水木金、今日を入れて後七日ってことか。
「ケンジの探している水晶を見つけた人が一番にリストを実行できるってどうだ」
「面白そうな考えなのです」
最初に賛成してくれたのはレンサク、残りのメンバーも反対する理由もなく賛成してくれた。ケンジやヒカリ辺りは俺がどうして、やりたいことリストなんて案を出したのか、気が付いている感じだけど、指摘したりはしなかった。
「では僕からやりたいことを発表するのです」
「乗り気だな」
「フフフ、実は、やりたいことがあったのですが、それを言い出すタイミングを見計らっていた所でした。ですのでルトサの提案は渡りに船だったのです」
「それで、やりたいことって」
丸いメガネがキラリと光った。
「よくぞ聞いてくれました。僕のやりたいこと、それはズバリ、ダンジョン製作なのであります」
ズビシと天に向けて指一本を突き立てた。
「ダンジョン製作?」
「ルトサ、昨日回収したダンジョンコアを出してもらえますか」
「出して大丈夫なのか、次元の裂け目が出現したりは」
『その心配はない、ダンジョンコアに次元の裂け目を作る機能はないと時の賢者である俺が保証しよう』
「ダンジョンの最上階に次元の裂け目があったのは、ダンジョンコアが作ったからではなく、裂け目からコアが落ちてきたので、あの場所にあったのです」
なるほど、そんなカラクリがあったのか。
俺の考えたやりたいことリストとはかなり違うけど、これはこれで面白そうだな。
影の中からダンジョンコアを取り出してレンサクに渡す。
「それではさっそくダンジョンの作製を」
「ちょっと待った、それは他のメンバーのやりたいことを聞いてからにしよう。時間は六日って縛りがあるから、それに最初にやるのは水晶を見つけた人だ」
「はいはいはーい、あたしもやりたいこと思い付いた!」
手を上げてサリが二番目に名乗りを上げた。
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