第60話『忍者ホカゲⅤ』

 煌びやかな正装を纏い、晴れやかな表情で並ぶ勇者パーティー、それを祝う国王の顔には表情は抜け落ちている。勇者を祝うことがとても嫌そうだ。


 第一王女も国王と似たようなポーカーフェイス、並ぶ第二王女だけが嬉しそうで、対照的だ。


 大臣が難しい言い回しで、勇者の功績を讃えている最中に、あくびをする勇者とその仲間たち、まるで学園の朝礼で校長の長話を聞くような雰囲気を出している。

 あなた達の功績を称えているのに不謹慎、正確には勇者たちの手柄じゃないけど、いらないならサムたちと場所を交換してほしい。


「ようやく終わったか」


 大臣の読み上げが終わると、あくびも隠さずにつぶやく勇者。

 異世界に来る前は、真面目な生徒だって印象があったのに、人間、欲に溺れると、あそこまで性格が捻じ曲がるモノなのか。


 大臣の薄い頭に青筋が浮かんでいる。

 落ち着け大臣、ここで怒るとさらに薄くなってしまう。


 授受式は進み、ついに第一王女から宝剣が勇者に賜る。


◆命令:第一王女が、勇者に剣を渡す直前、剣を持つ腕を操り、国王を攻撃しろ。


 サムの仲間、賢者の刻時が大丈夫と言っていた。

 ここは信じて全てを任せる。


 糸と同じくらいに細くなった影縄が数本、第一王女の腕に巻き付いた。腕の動きには干渉しないように巻き付いた影縄に、第一王女が気が付いた様子はない。

 勇者へと渡す前に、第一王女自ら鞘から剣を抜く、授受式は剣を抜いて渡すのが伝統なのだとか、ずいぶん危ない伝統だな。


 この伝統があったがために、第二王女はこの授受式に目を付けた。

 刃の部分が完全に鞘から抜かれたところで糸の影縄が動いた。第一王女の持つ宝剣を国王に向けるために一斉に引かれた。


 だが王女の腕は国王へ向けられることはなく、宝剣は勇者に渡された。

 宝剣を受け取った勇者は第一王女に何かを話かけているが、完全無視して自身の席へと戻っていく。


 糸状の影縄はいつの間にか消えいていた。


「なぜ!」


 思わず声を出してしまった第二王女。

 刻時の対策は成功してくれた。


「おのれ裏切ったな」

「心外、一度も仲間になってない!」


 私は糸の影縄を操り、第二王女を拘束する。


「どうしてわたくしを拘束するのです。第一王女を殺しなさい命令です!」


 あーあ、こんな式典の最中、大勢のいる前で第一王女を殺せって叫んじゃった。

 もうおしまいですね。さようなら。


 私の影縄だけでなく、近衛騎士たちにも押さえつけられる第二王女。

 父である国王に助けを求めていたが、暗殺計画が漏れていたので助けてくれるわけもなく、地下牢へと連行されていった。


 どうして暗殺計画が漏れたのか、それは私が教えたから。

 魔法の契約により漏らすことは禁じられていたが、賢者の刻時の裏技で回避した。

 どうやったのか。


 授受式前夜に、私の元に影抜けでやってきてくれたサムと刻時。


「サム、傷は大丈夫」

「問題ない、血が足りなかっただけで、ヨシカが栄養満点の料理を作ってくれたから」

「そう、よかった」


 あれほどの深い傷だ、きっと大きな跡が残ってしまったはずなのに、サムは気にした様子が一切ない。


「それより、時間が無いんだろ。あの第二王女が何か行動を起こしそうだからな」

「魔法の契約で悪だくみを話すことはできない、でも、雑談ならできるだろ」

「できる」


 私は刻時の質問に答えていく。


「第二王女は第一王女と仲良くしたい」

「それはない、とても恨んでいる。逆恨み」

「第二王女は第一王女を罠にハメたい」

「ノーコメント」


 契約に関することは、答えられないので、ノーコメントと返すしかない。


「第二王女は勇者と結婚したい」

「ありえない、勇者のバカさ加減には第二王女も呆れてた」


 契約の内容に関係ないことなら、素直に返答できる。


「授受式で悪だくみをしている」

「ノーコメント」

 つまりノーコメントと答えた事は正解と同義。


「授受式で第一王女の暗殺を計画している」

「それは違う」


 否定はできたけど、説明しようとすると口が動かなくなる。


「無理にしゃべらなくていいぞ、ケンジが割り出してくれるから」

「私ばかりに頼らないで、お前も思いついたことがあったら質問をしろ」

「了解、思いついたら質問に参加する」

「では質問を続けるぞ、王女では無い、となると、まさか国王の暗殺か」

「ノーコメント」

「勇者を誘惑して、暗殺させるように唆したのか」

「それは違う」

「では勇者パーティーの誰かを唆したのか」

「それも違う」

「ケンジ、もしかしてシャドウさんに第一王女を操らさせて国王を殺そうとしてるんじゃない」

「ノーコメント」

「当たりのようだな、まさかサトルに先に正解されるとは」


 こうして時間はかかったが、第二王女の企みを伝えることができた。

 ちなみに契約の魔法が発動しなかった理由は、刻時が契約内容に手を加え、少しだけ書き足してくれたからである。


◆命令:第一王女が、勇者に剣を渡す直前、剣を持つ腕を操り、国王を攻撃しろ。


 これが、本来の命令であった。これに一単語を加えることで無効にしてくれた。


◆命令:第一王女が、勇者に剣を渡す直前、剣を持つ腕を操り、国王を攻撃しろ。


 勇者の剣は勇者自身がへし折り、サムが復活の儀式を潰してくれたので、永遠に失われたもの、この命令は第一王女が勇者の剣を持つまで発動しない。


 つまり、発動前なので成功にも失敗にもならない、そのため新しい命令も受け付けない。魔法の契約は解除されていないが、解除されたのと変わらない状態になった。

 第二王女から解放された私は、第一王女のはからいでサムのパーティーに加えてもらえることになる。


 これがサムと仲間になった経緯。






「どうしたんだホカゲ、ボーっとしてるぞ」

「少し昔のこと思い出してた」


 ここは廃病院ダンジョンの七階。ダンジョンボスに気づかれずに潜入に成功している。


「では、とっておきのネタを。外園はレンズバットにカメラを持たせて女子更衣室の盗――」

『もういいだろ、黙れや!!』


 壁を一枚隔てて、ダンジョンボス外園の叫びが聞こえてきた。


「レンサクは、さっきから何をしているの」

「サトルから連絡があって、外園の挑発をしている最中だ」

「安心してください、優秀な忍者が全て未然に防いでいましたから」


 ああ、盗撮用のレンズバットを始末した話か、まさか魔物に盗撮されるとは、驚きの発想、こんな発想ができるなら、もっと良い方向に使ってもらいたい。


 挑発も成功したようで、外園が気が付かないうちにヒカリとサリが仕掛けを打ち破った様子。

 その後、サムが降伏を呼びかけるが。


『たかが三階層を攻略したくらいで強気に出るじゃないか夷塚、貴様はさっき何もしていなかっただろ』


 降伏に応じる気はないようだ。


『なめるなよ、三階層までは勇実のヤローを痛めつけるための手加減ゾーンだ、そこの三人も驚かそうと思って用意しただけ、四階からは制限なし、本気のデスゾーンだ』

「レンサク準備は」

「ダンジョンの構造も把握できました。いつでも行けるのです」

「それじゃ、殴りこみますか」


 レンサクがサムに『突入する』とメッセージを送り、私の壁抜けで奇襲をかけた。


「な、なんだ、どこから入ってきた」


 タンガがボスモンスターを押さえつけ、私が外園を確保に動く。

 ダンジョンコアより、魔力の供給があり身体能力が高くなっていた。

 一撃で倒すのは簡単なんだけど、中途半端に強くなった相手は殺さないように手加減するのが難しい。


 つい、力が入り過ぎて。


「ごふぇんなさい、こうふぁくすます」


 降伏宣言をする時には、外園の滑舌を悪くしてしまった。

 降伏と同時にレンサクがダンジョンコアを制圧。ダンジョン全体をこちらの手中に収めることに成功。


 それからは、ゆっくり観戦モードに切り替える。

 元医院長室らしき場所に置いてあった。ソファーを次元の亀裂前に置き、サトルの活躍を観戦しながら、次元の亀裂を観察する。


 ケンジではないので詳しくは分からないが、微かに魔力が異世界より流れ込んでくるのを感じ取れた。ケンジの推測ではこの流れ込んでくる魔力が、サトルの記憶や力をとり戻す切っ掛けに関係している。

 その推測を証明するかのように、サトルは階を上るたびに力が増している。


 もし本当に、この裂け目がサトルの記憶と関係しているなら、この裂け目が無くなってしまった場合、サトルの記憶はどうなってしまうのだろう。


 七階まで無傷で攻略したサトル。ダンジョンボスを一撃で倒す姿は、かつての姿と重なり、嬉しいはずなのに、不安の方が大きくなっていく。


 そして次元の裂け目が、サトルの魔力と共鳴するように拡大を始めた。

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