第54話『廃病院ダンジョンアタックⅢ』
「さてと外園、勧告だ、降伏する意思はあるか」
弓崖さんたち三人を介抱して横に寝かせると俺は外園に問いかける。
『たかが三階層を攻略したくらいで強気に出るじゃないか夷塚、貴様はさっき何もしていなかっただろ』
「こいつらが貴様の切り札だったんだろ、全員無力化した、もうお前に俺たちに対抗できる戦力はないんだろ」
『なめるなよ、三階層までは勇実のヤローを痛めつけるための手加減ゾーンだ、そこの三人も驚かそうと思って用意しただけ、四階からは制限なし、本気のデスゾーンだ』
はい、情報ありがとうございます。
「本気のデスゾーンね、魔物が一番強くてもグレイウルフじゃ俺たちを止められないぞ」
『ただのグレイウルフだと思うな、オレの能力で強化されたグレイウルフは戦闘力が桁違いになっている』
ホントに簡単に情報が出て来るな、もしかして虚偽かな、もっと強い魔物を隠しているのか。
でも、もう、関係ないかも。
スマホにレンサクから『突入する』とメッセージが入った。
『な、なんだ、どこから入ってきた』
ホカゲ、タンガ、そしてレンサクの別働班が、最上階から奇襲をしかけた。
音声はつながったままで、戦いの音が聞こえてくる。
十数秒後。
『ごふぇんなさい、こうふぁくすます』
滑舌が悪くなった外園の降伏宣言がなされた。
『あ、あー、聞こえていますか、こちらレンサクなのです』
「聞こえてるぞ」
『それはよかったのです。ダンジョンシステムを掌握しました。今この瞬間から僕が新しいダンジョンマスターなのです』
「手早い」
見事にダンジョンの屋上から侵入して一気にボスを倒す作戦は成功した。
「どうする。最上階に集合したいけど、角森たちを残していくのは少し心配だな」
『それなら一つ提案があるのです』
「提案?」
『ダンジョンの内部構造を調べたのですが、四階層から六階層までは、罠と魔物を同時配置したなかなか完成度の高い仕様なのです。ただ設置できる罠と魔物のレベルが低いので攻略推奨レベルは15から20、今のルトサに丁度いい推奨レベル、いい機会なので、ルトサのレベル上げに利用しましょう』
「マジですか」
まさか、今まで敵だったダンジョンを使っての特訓を提案されるとは、でも、早く強くなって皆と肩を並べたい。それが今の俺の一番の願い。
「わかった、訓練に使わせてもらおう」
『訓練だと、笑わせる。貴様ら、突破できないと思ったから屋上から侵入するって卑怯な作戦を使ったんだろ、四階層からの仕掛けは手加減していない、あの最弱のバカ夷塚が突破できるわけないだろ、笑わせるな、笑ってやる、アハハッ――』
ザシュ!
『ヒィ、お、俺の眉毛が!!』
「何が起きたんだ」
『静かに怒ったホカゲ嬢が、手裏剣を投げて外園の眉毛を剃ったのです』
「わーお」
『それでどうしますか』
「やるよ」
『それでこそ我が相棒なのです』
「はい、サトルくんが心配なので私は後ろから付いていきます。もちろん危なくなるまで手は出しません」
「わたくしも付いていきます。万が一にもケガをなされた場合、すぐに手当てができますので」
真っ直ぐに心配と言われるのは、落ち込まされる。弱いのはその通りなので反論などできない、だからこそ俺は強くなりたいんだ。ヒカリやヨシカに心配を掛けないくらいの力が欲しい。
「しかたがないな、あたしが残って三人の面倒をみてるよ、サトッチも低レベルダンジョンだからって油断しないように」
そこだけは大丈夫、俺にとっては高レベルダンジョンだから。
腰のベルトの各種ポーションや道具を確認、黒刀を持って準備完了。
「行くぞレンサク」
『いつでも、どうぞなのです』
こうして、はじめてのダンジョンソロアタックを開始した。
背中には安心安全の保険が付いてきてるけど。
四階に到着。
どんな罠や魔物が待ち受けているか。
これでも成長しているようで、フロアに潜んでいる魔物の存在をそこそこ正確に察知できるようになってきた。気配のない罠までは察知できないけど。
魔物の配置を考えると、角に潜めた魔物で驚かして、反対側のスペースに追い込みたい意図があるように感じる。
「だったら、これだろ」
ラジコンカーを取り出して、罠がありそうな場所に走らせると、予想通り槍衾が発動、左右の壁から、逃げ場がない数の槍が突きだした。もっとも人間サイズを想定した罠なので、地面を走る車高が低いラジコンカーは無傷。
他にも似たような箇所があったので、確認してみれば、予想通り罠が発動。
このダンジョンを設計した外園は趣味がブロック作りだってレンサクは言っていた。だからだろうかしっかりと計算されて魔物と罠が設置されている。なので。
「罠の位置がものすごく、読みやすい」
魔物の位置が把握できて、ダンジョン化する前と内部構造の変化が無いとわかっていたおかげだ。
内部構造の変化が無いと三階層までの攻略で判明している。一階の見取り図そのままだったから、このダンジョンは俺との相性が抜群だ。
罠の発動する位置もすべて予測できたから、影縄も使って武装されたグレイウルフを罠に引きずっていき発動させ、俺は無傷で四階層を攻略した。
さらに付け加えるなら、俺は四階層の入り口から動いていない。
「この戦い方でレベルアップできるのかな」
ラジコンを操縦して影縄を少し使っただけなんだけど。
「さすがサトルくん」
「搦め手を使わせたら、並ぶ者なしですね」
『完成度の高さが仇となりました、ルトサに対しては攻略しやすさに繋がったのです』
これじゃダメだな、次の五階層はラジコン禁止、魔物の探知も必要最低限に狭めよう。
自分にしばりを課して、いざ。
五階層へと踏み込む。
今度は入り口では立ち止まらず進んでいく。
曲がり角からグレイウルフが襲ってきた。
探知範囲を狭めても、これくらいは探知できていたので慌てない、体育館裏で遭遇した時よりも強くなっているんだ、攻撃を回避して、黒刀をグレイウルフの首に全力で振り下ろす。
金属にぶつかる感触があったが、問題なく一撃で倒すことができた。
「変な手応えがしたな」
確認してみると、グレイウルフの首には首輪代りなのか鉄のチェーンが巻かれていた。
「これで防御力を高めていたのか」
もしも首への一撃が弾かれていたら反撃をくらっていた。
「これが武装グレイウルフか、もしかして他にも」
武装があるのかなと調べてみれば、尻尾には無数の釘が仕込まれ、体毛の中にはカミソリいや、これはカッターナイフの刃だ、体毛にカッターの刃が仕込まれていた。
「昔の脅迫レターみたいだな」
でも、すれ違った時に体にカスっていたら皮膚がズタズタになっていた、これで体当たりされたら重症モノだぞ。
「エグイ武装させたな、そういえば、前には爆発するグレイウルフもいたな」
こいつが爆発タイプでなくてよかった。
もっと慎重に進んでいこう。
背後から無言の応援が飛んでくる。とてもありがたいんだけど、シリアスに決めたい場面がギャグになりそうだから、ここは無視させてください。
何度かの奇襲攻撃を退け進撃していくと、ひらけたスペースに出た。そこには、あからさまに体中から刃を生やしたグレイウルフが三匹待ち構えていた。
右側に照明が付いた細い廊下がある。あそこに逃げ込めば左右からの攻撃を受けることなく、一頭一頭相手にできるので数の不利を覆せると思いたくなるけど、あからさますぎるんだよ。
「スキル影針」
俺は三頭すべてに全力で影針を撃ち込んだ。だが、いくら全力でも影針ではグレイウルフは倒せない、一時的に動きを止めるのがやっと、だけど少しでも硬直しくれればいいので問題ない。
俺は六色ラムネに偽装された内の一つ、赤のラムネを食べる。このラムネはレンサクが製作したステータス向上のポーション。六色それぞれに効果が別で、赤色は筋力増加効果がある。
「セイヤ!」
黒刀の刃を反し、峰の強打で一頭のグレイウルフを照明のついた廊下へ弾き飛ばす。案の定、罠が設置されていて、飛び出した槍衾によってグレイウルフは動きを止めた。
後に二頭。
振り返りざまに刀を振り下ろす。
これまでのグレイウルフとは装備の厚さが違った。初めて一撃では倒しきれなかった。影針の効果がなくなり二頭のグレイウルフが襲い掛かってくる。
「影縄!」
体に巻き付けた影縄は全身の刃で斬り払われた。足にも巻き付けたのにそっちも効果なし。やっぱり効果が無かったか。
攻撃を回避して、もう一度影縄で縛り付ける。
無駄だとあざ笑うかのように体を犬のようにブルブルさせて影縄を斬り裂いた。
俺を脅威でないと判断したようで、ゆっくりと近づいてくる。
これが野生の獣と魔物の違い、魔物の方が賢いが、人間と同じで注意を払う時もあるし、逆に油断する時もある。
使ったスキル、影針と影縄の威力が弱かった。
だからこそ二頭で同時に襲えば勝てる。そう武装グレイウルフは判断した。だからこそ生まれた余裕であり油断である。
持っていた黒刀を、増加した筋力を使い投げつける。
まさか唯一の武器である刀を投げるとは思っていなかっただろ、刃は眉間を貫き、倒す。これで後一頭だ。
まさか仲間が倒されるとは、驚いた武装グレイウルフだが、もう武器を持っていない俺に真正面から全速で突っ込んできた。
「動きが読めていれば、影縄」
俺は影縄を伸ばす、だがグレイウルフは気にもしない。
このスキルはもう二回も破られている。障害にならないと判断しただろ。
だがそれは命取りだぞ。
伸ばした影縄はグレイウルフではなく、投げて手放した黒刀に巻きつけ俺の元へ引き戻す。その間には最後の武装グレイウルフがいる。そうなるように位置取りをしていた。
戻る黒刀はグレイウルフの足の一本を斬り落とした。狙い通り。
だが、それでも向かってくる。
予想では一度攻撃をやめると思っていたけど、外れた。
このままでは喉元に噛みつかれる。
このままだったらね。
「影抜け」
俺は影抜けで背後に回り込むと、引き戻した黒刀をキャッチして、グレイウルフが振り向く暇を与えず、最後の一頭にトドメを刺した。
「ギリギリの勝負だったぜ」
戦いが終わり、俺は腹にたまった空気を全て吐き出しその場に座り込む。
「やっぱり、三頭が相手でもサトルくんなら、勝つことができたね」
「戦い方も、異世界にいた時と似てきた気がします。サトルさんの成長の早さには驚かされますね」
成長の早さか、確かに階層が上がるにつれて、影スキルの使用とかがスムーズになってきている気がする。ダンジョンに入る前は普通のグレイウルフでも三頭相手には勝てないと思っていた。
それなのに、ここで武装グレイウルフを三頭見た時は、苦戦はするけど勝てると瞬時に判断できた。
もしかして、ダンジョンに入ってから俺の力が急成長しているのか。
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