第53話『廃病院ダンジョンアタックⅡ』
俺は弱い、仲間の中で一番弱い。
そのことを忘れちゃいけない。
ヨシカに守ってもらわなければ、生き残れないほど弱い。
自分の身を自分で守れない。
『驚いたか、これが侵入者用に準備したスペシャルゲスト、いかに能力があろうと、クラスメートを攻撃できまい』
どこから聞こえてきたのか分からない外園の声に反応して角森と牧野がゆっくりと動き出した。
角森は学園の制服、牧野は病衣姿である。
二人とも眼の焦点が合っていない不気味な表情、そして一番歪なのは、角森は腕に厳ついガントレット、牧野は足にこれまた厳ついグリーブをそれぞれ装備していることだ。
どちらも同じダークパープルカラー、こんな目立つ物が体についていたのに、俺はそれすらも気が付かないほど同様していたようだ。
弓崖さんも同じ色のボディアーマーを装備している。まとめると兜が無いフルプレートアーマーができそうだ。
俺がようやく状況の観察を終えたところに、突っ込んできた角森と牧野。
対抗してヒカリとサリも前へ出た。
角森は筋肉増加でマッスルチェンジ、そこから剛拳をヒカリに放ち、牧野は魔力ブーストで助走をつけての飛び蹴りをサリに繰り出す。
角森たちが装備している武具は俺でもはっきりと、わかるくらい禍々しい魔力を発している。
もしかしたら意思を持っていて、角森たちの体を乗っ取っているのか。
ヒカリも同じことを思ったのだろう。
繰り出された攻撃を避けるのではなく、剣で撃ち返した。
反撃もガントレッドのみに集中した連撃。
攻撃されれば撃ち払い、反撃は全てガントレッドに叩き込む。倒すだけなら角森に一撃入れれば終わりだが、傷つけないように戦っているので拮抗したバトルに見える。
剣を持ったヒカリは強い、流石は聖騎士、特別なスキルは発動させず剣技のみで角森を抑え込み、着実にガントレットにダメージを入れていく、援護の必要はなさそうだ。
サリの方は近接遠距離を織り交ぜての機動バトル、接近すれば直接の蹴り合い、二人の足が交錯し、距離があくと牧野が魔力でボールを作り蹴り飛ばしてくる。蹴った時の音がまるで大砲を撃ったかのような轟音だ、もう俺では視認できない剛球だ。
魔力の使いかをわかっていなかった牧野が使いこなしている。やはりあの鎧パーツが操っていると見るべきだな。
「なかなか早いシュートだね、でも私には効かないよ」
炎を纏った足で蹴り返す。
蹴り返された魔力の球は炎が追加され、グリーブに命中して爆発した。
「おお、片足の装甲が弾け飛んだ」
もう一発加えれば勝てる所で弓崖さんが牧野を弓で援護、飛んでくる矢をサリは蹴り落とす。
「――こっちも援護はいらないな」
戦闘の援護は必要ない。
だったら別のことで援護をすればいい。
一つだけ俺にもできることを閃いた。
「おーい、外園、聞こえてるんだろ!」
バタンッ!!
『――イッ!!』
重そうな物を落とした音の後に、足の小指をぶつけたような短い悲鳴が聞こえた。もしかして正体がバレていたことに驚いたのか。
「そとぞのー、だいじょーぶかー」
俺が今できること、それは外園を挑発して冷静な判断をさせないこと、まさか角森たちを拉致して戦力にできるほどの能力を持っているとは思わなかった。まだ他にも隠し玉を持っている可能性がある。
もし隠し玉があるなら、それを適切なタイミングで使わせないため、あいつを怒らせる。それが今の俺にできること。
「ヨシカ、悪いけどよろしく」
「お任せください、どんな攻撃も防いでみせます」
ヨシカがいるから安心して挑発できる。情けないと毎度思うけど、ここは割りきりだ、俺のプライドなんてヒカリたちの安全に比べたら、いくらでも安値で売り払う。弓崖さんからの弓矢攻撃が飛んでくるし。
「弓崖さんって、魔力が戻ってなかったよな」
「はい、教室で感じたことはありません。おそらくあの鎧を着させられて、強引に目覚めさせられたのでしょう」
つまり外園は、魔力の無い一般人を巻き込んだ。それがたまたま魔力に目覚めただけ。
ヒカリたちを敵に回して余裕の態度を取っているから異世界での記憶を思い出したわけではない。
少しだけ残っていた外園に対しての遠慮が、俺の中で消え失せた。こいつは敵だ。
ならば挑発を続けよう。
「どうしたー、そーとーぞーのー、聞こえてるんだろ」
外園調、クラスメートであるが、会話をした記憶は殆どない、異世界にいた時はどうか覚えていないが、学園では席も離れていたので挨拶もしていないと思う。
唯一、外園の印象が残っていることは、ヒカリと並んで登校すると睨まれることだけ。
「どうしたものかな」
外園を挑発する材料が浮かんでこない。
「ヨシカは外園のこと何か知らない?」
「こちらでもあちらでも、接点があまりなかったので、すみません」
「謝る必要はないよ、レンサクなら知ってるかな」
仲間内だけで使用できる魔導式スマホを取りだし、レンサクへ連絡を取ってみた。流石はレンサクの自信作、ダンジョンの中でも余裕で繋がった。
『どうしたのです』
「ちょっと、外園の情報が欲しくて、何か良いネタない?」
『なるほど挑発ですね、音声をスピーカーに切り替えてください』
どうして俺が挑発しているとわかった。
『それがいつものルトサなのです』
心まで読まれた。
流石は相棒か、言われた通りに通話をスピーカーモードに切り替えた。
『外園調、高校二年、身長168センチ、体重はやや痩せ型。趣味はブロック作り、ただいま岸野陽花里に片思い中』
『なッ――』
叫びそうになって必死でこらえる外園の姿がハッキリと見えた。
そうだよな、片思いの相手の名前を公表されるのって、かなり恥ずかしいよな、だがな外園、こんな情報はレンサクにしたらまだ初級だぜ、早く口を開かないと、もっと恥ずかしい目にあってしまうぞ。
『ヒカリ嬢にラブレターを渡そうと徹夜で書き上げた手紙、下駄箱に入れようとしたら、カバンの中に無いことに気が付く。どこかで落としたのかと、学園中を探し、通学路を三往復しても見つからず。人に見られたら生きていけないと、焦りまくったのは約二週間前のこと』
『やめ――』
まだ我慢するか、今は自分の両手で口を塞いだな。
「その手紙はどこにあったんだ」
『なんと、制服の内ポケットに入っていたのです』
「ホントかよ外園、違うなら否定していいぞー」
『――――』
今度は恥ずかしさに悶えているのかな、でも、まだパンチ力が足りていないか、こちらとの会話には乗ってこない。
『まだまだあるのです』
それから語られたのは、外園の恥ずかしい黒歴史のオンパレード、レンサクは一体どこでこんな情報を調べてきたんだ。
『外園が魔力を持っているとわかってから、身辺調査をしましたので』
「探偵みたいだな」
『では、とっておきのネタを。外園はレンズバットにカメラを持たせて女子更衣室の盗――』
『もういいだろ、黙れや!!』
おお、完全にブチ切れた。
それにしても、レンズバットを使ってそんな事をしていたのか。
もしヒカリたちを盗撮していたら、どうしてくれよう。
『安心してください、優秀な忍者が全て未然に防いでいましたから』
ホカゲの存在はまだ秘密にしておきたいので、名前ではなく忍者と呼称したのか。
『あ、あれは盗撮じゃねぇ、情報収集だ!』
「ようやく答えたな外園くん」
『どうして俺がダンジョンマスターだと知っている』
「えッ!? ダンジョンマスターになっていたのか、てっきり調教師だと思っていたけど」
「おそらく主の居ないダンジョンコアに触ったのでしょう。魔力さえ持っていれば主登録はできたはずです」
ヨシカが答えを教えてくれた。主がいなければ、登録は早い者勝ちになるのか。
『こっちの質問に答えろ、どこで俺だとわかった』
「先週末くらいだな」
『そんなに前から知っていただと』
「候補を三人に絞り込んでいた。その内の一人がお前だったのさ、それよりいいのか、会話に夢中になっていて、あっちは終わっちまったぞ」
『なッ!?』
会話に誘い込んだのはこっちだけどね、レンサクと通話が始まったあたりから、もうこっちにしか意識が向いていなかっただろ。
角森のガントレットをヒカリが粉々に斬り刻んで、牧野の残った片方のグリーブもサリが蹴り砕き、外園が俺たちの挑発に乗った後、弓崖さんの鎧もヒカリとサリの二人掛りで引っぺがしていた。
鎧パーツを取り外した三人は、糸が切れた操り人形のように眠りにつく。
『いつの間に』
「外園くん、一つ聞いていいかな」
『な、なんでしょうか岸野さん』
ヒカリがいつもよりも低い声で外園に質問をする。相当な怒りを込めて、それを感じ取ったのだろうビビりながらの返事。
「どうして魔力の無かったミノリまでここにいるの」
『い、いや、それはその、成り行きと申しますか』
「はっきり答えて」
『入院している病院から牧野を浚ってくる時、病室に見舞いに来ていたので、一緒に連れてきてしまいました』
「たったそれだけの理由で巻き込んだの」
おそらくだけど、弓崖に心配されていた牧野に嫉妬したんだろう。
だからって、俺は攫ったりしないけどね。だけど少しだけ、入院した時に女子がお見舞いに来てくれるのは羨ましい。
「モテない俺には外園の気持ちが少し理解できてしまう」
『何を言っているのですかルトサ、下半身爆発しろなのです』
どうして味方のレンサクが俺を攻撃してくる。ヨシカさんもそこで悲しそうにため息をつかないでください。わかっているでしょ、信じがたいけど、モテていたのは過去の異世界にいた時の俺で、今の俺では無いのだから。
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