第52話『廃病院ダンジョンアタックⅠ』



「相変わらずサトッチってさ、よくこんなこと思いつくよね」

「そうだよね、向こうの世界でも、魔物をパニックにさせてトラップを起動させていたし、やっぱり安全策を考えるのはサトルくんが一番だね」

「操作は難しいですが、慣れるとこちらの方が楽かもしれません」

「また落ちた、これで二台目、サム次の貸して」


 女性陣の会話の中に異世界にいた頃の俺の話題が出てきた。あっちでのダンジョン攻略でも俺は似たような事をやっていたのか。


「おもちゃだと思ってバカにしてたけどよ、やってみると意外と面白いぜ」

「バカにしすぎなのです。本格仕様のラジコンになると、タンガのバイクよりもお金がかかる場合もあるのです」

「ホントかよ、だったらバイクを普通に買おうぜ、よし、三個目の落とし穴発見」

「ふん、どうやらラジコンの運転は僕の方が上のようですね、四個目を見つけました」

「言ってくれるじゃねぇか、いくらおもちゃでもタイヤ転がす勝負で俺が負けるわけねぇだろ」

「だったら勝負なのです。負けた方が明日の部室の掃除でどうです」

「そのケンカ買った。落とし穴を多く見つけた方が勝ちだ!」

「ルトサ、見届け人を頼むのです」

「りょうかーい」


 今俺たちがやっているのは、ダンジョンアタックだ。

 ゲームではない、この日本に出現した本物のファンタジーの産物のダンジョンだ。装備も日曜日に使った最高の物で身を固めている。俺の腰にも影から取り出せた黒刀を帯刀していた。


 手始めに、入口付近がトラップゾーンだと英雄気取りの突撃で判明したので、みんなで敷地内には入らず。近くの見通しの良い高所に陣取り、ラジコンだけを突入させて走らせトラップを片っ端から発動させている。


 思いつきの提案だったんだけど、レンサクが七つ道具の残り二つのアイディアに悩んでいたので提案してみたんだ。カメラ搭載のラジコンを、本音を言えば興味はあったんだけど高値で手が出ずあきらめていた代物。

 レンサクなら作れないかなとチラッと提案の形で言ってみたら。


「ナイスアイディアなのです」


 レンサクの七つ道具その六として、バッテリーを魔導式に切り替えた偵察から囮までこなすラジコンカーが誕生した、しかも小型のプロペラまで付いていてドローンにもなる高性能。


 落とし穴に落ちても体勢が悪くなければ自力で復帰できるんだけど。


「サム、また穴から出てこなくなった、もう一台貸して、必ず後で回収するから」


 俺の影の中には二十台のラジコンカーを入れてあるので、数台は使えなくなっても大丈夫なのだが、ホカゲは操縦が苦手らしく、これで四台目になる。


「次こそは落ちても復帰できるように頑張る」


 操縦は苦手でも、やるのは楽しいようだ。


「あ、サトルくん、ビーバドーザーが出てきたよ」

「ラジコンでも陽動ってできるんだな」

「出てきたのは全部で三匹だね」

「簡単に壊せると思ったんだろうな、でも、そううまくいくかな」


 タンガとレンサクの操るラジコンカーがワザとビーバドーザーに接近する。


「へ、俺のテクニックに追いつけるか」

「この程度、障害の内にも入らないのです」


 出てきたビーバドーザーは、外園の命令を受けているのだろう。ラジコンを破壊するために追いかけ回している。


「狙い通り外園のヤロー、相当イライラしてきたな」

「これだけの数のトラップを仕掛けるのは、それなりの時間が掛かったはずなのです。それをラジコンで遊びながら破壊されたら怒るのは当然なのです」

「おら、こっちだ、遅いぞ遅いぞ」

「どこを見ているのです。足元がお留守なのです」


 タンガはビーバドーザーの前でラジコンにお尻を振らせて挑発、レンサクに至ってはタンガのラジコンに気を取られた個体の足に体当たりして転ばせた。

 うわ、転ばせたビーバドーザーを今度は二台同時体当たりで落とし穴に落としちゃった。


「ナイスコンビネーション」

「イェーイなのです」


 ハイタッチを交わす二人、さっきまで勝負してなかったか。


「男の子ですね」


 あのヨシカさん、その男の子の中には俺も含まれていますか。


「もう一匹だ」

「シュートなのです」


 穴から這い出てきたビーバドーザーの上に別の個体を倒して、二匹まとめて穴に落とす。


『――――ッ!!』


 聞こえないはずの外園の怒りの声が聞こえた気がする。


 病院の入口や窓から、増援のビーバドーザーがわらわらと現れた。

 怒りで冷静さを失ったな外園、たかがラジコン相手に戦力の出しすぎだ。それに戦略ゲームでもよく言われる。愚策の一つ、戦力の逐次投入になってるぞ。


「よっしゃ、相手はこっちの術中にまんまとハマってくれたぜ」


 成功したらいいなぐらいで、考えていた作戦、相手をラジコンで挑発して戦力を吐き出させる作戦がまさかの成功。


「サトル、ここは俺たちに任せて、お前は先に行け」


 タンガ、お前もそのセリフ好きだろ、最近聞いたばかりだぞ、それにラジコンのコントローラーを持ったまま言っても様になってない。

 作戦その二。チームを二つに分ける。


 外園にジョブ持ち能力者だとバレているのが、俺、ヒカリ、ヨシカ、サリの四人なので、この四人で正面から突入、バレていない三人が身を隠して病院の屋上から侵入する。


 この手の建物型ダンジョンは最上階にボスルームがあることが多いらしい、なので最上階から入ることができれば、一階から順番にフロア攻略する必要がなくなる。

 ダンジョン側も普通は対策をしているらしいが、外園には異世界のダンジョンの常識などない、うまくいけば一気に制圧できる可能性もある。


「そっちもうまくやってくれよタンガ」

「おう」


 俺たちは走って病院の敷地に入ると、ラジコンカーを追いかけているビーバドーザーは反応できず。妨害を受けることなく入口に到着、一階にいた魔物も全てラジコンカーの方へ出払ったらしく、もぬけの殻、階段を上り二階に到着するまでに要した時間は三分以下、ダンジョンマスターは怒ったか、それもと悔やんだか。


 さて、ここからは情報がない、気を引き締めていこうか。


「フロア全体を暗くしているな」

「ここからが本番だね」


 暗闇の中で黒い魔物が動いている。

 本来なら明かりも限られたこのフロア、恐怖にかられるかもしれないが、こっちのメンバーは俺以外全員がレベルカンストで、最弱の俺もジョブが影使い。

 暗闇、つまりは周囲が全て影なわけで、俺には潜んでいる魔物の位置が完璧に把握できている。なので。


「スキル影縄」


 影縄で潜んでいる魔物を全て拘束して引きずり出し、一か所にまとめると。


「ファイアボールシュート」


 焼つくした。


「制圧完了だ」

『――ッ――ッ!!』


 また外園の叫びが聞こえた気がした。


 とにかくこれで二階もクリア、次の三階もこのペースで行きたいと思ったけど。


「けっこう強い気配がする」

「サトルくんも気が付いた。三階層からまったくレベルの違う強者の気配」

「魔力はそれほど多くはありません、近接タイプの可能性が高いと思います」

「不意打ちに注意だね、サトッチ、あたしとヒカッチで前衛やるから、ヨシカッチと後ろで援護お願い」

「わかった」

「サトルさんには指一本触れさせません」


 できればそれ、俺が使いたかったセリフだけど、ヨシカの方が守りは固いからな。

 気配の数は三つかな、フロア中央で止まっていて動く様子はない。

 ダンジョンになっても元は病院、階段はそれほど長くない。昇り始めればすぐに三階に到着した。


 先頭のヒカリが指で突入のカウントダウン。


 3、2、1、今。


 俺たちは一斉にフロアに駆け込む。そこで待ち構えていたのは。


「嘘だろ」

「サトルくん、思考を止めない」

「だって」

「殺意を向けてくるのは敵、事情を聴きたいなら無力化してから」


 そんな事を言ったって、待ち構えていた三人は全員知っている。

 こんな所にいるなんて予想もしていなかった。

 そこに立っていたのは、クラスメートの角森、牧野、そして弓崖さんだった。


 三人とも虚ろな目をして正気では無い事がわかる。

 弓崖さんが手に持っている弓を引き、放ってくる。狙いは俺か、俺の心臓直撃コースだ。


 だが矢は俺にあたる前にヨシカの結界によって阻まれた。


「サトルくん、今だけは思考を切り替えて、あれは敵、そう思わないと命が危ない」


 弓崖さんはヒカリの親しい友人だろ、それを一目見て敵と認識するなんて、いや、ここはヒカリの言っていることが正しいのか、ヨシカの結界が無ければ、俺はさっきの矢で死んでいた。


 不意に記憶の断片が教えてくれた、以前にも似たようなケースがあったのだと。


『ヒカリ、思考を止めるな』

『でもあの子たちは』

『敵意を向けてくるのは敵だ、事情を聴きたいなら倒して動けなくしてからだ』


 あれはレンサクの欲しがる素材を集めるため、高難易度のダンジョンに何日も挑んでいた頃、ダンジョンから少し離れた場所に小さな村があり、俺たちはそこを拠点として活動していた。


 だがある日、ダンジョンから帰ってくると、正気を失った村人たちから襲われた。その中にはヒカリに懐いていた村の子供たちも含まれていて、ヒカリが子供たちに武器を向けられず動けなくなる。


『ヒカリ、思考を止めるな』


 これは、その時に俺がヒカリに言った言葉だ。


 まさか言い返されることになるとは。

 この時はどう解決したのかまでは思い出せないけど、思考を止めてはピンチになるだけだってことは、理解した。

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