第51話『疑念元勇者VS自称ダンジョンマスター』

「さぁ、どこからでも来るがいい」


 廃墟となった病院の最上階、元は院長室だったのか知らないが、わりと広めの部屋でオレはペテン師が来るのを待ち構えていた。


「ちょっと情報を教えてやるだけで、ここに奇襲をかけるって高らかに宣言するとか、バカだろ、ホントにバカだろ」


 オレはダンジョンコアを手に入れ世界最強のダンジョンマスターへと進化したんだ。

 普通のダンジョンは何年もかけて成長させていくものだと、コアと契約して知ったが、なんとコアの横に魔力を供給してくれる次元の裂け目が有りダンジョンは急激に成長をした。


 今では七階建ての病院の建物だけでなく、塀で囲まれている敷地内全てがダンジョンとなっている。


「あいつをどう痛めつけてやろうか、今日一日散々貶してくれたからな、ただじゃ済まさないぞ」


 七階層のダンジョン庭付き。

 七階の最上階をボスルームと設定、ここにはボスモンスターとして現代の武器をスキル装具で武装したグレイウルフを待機させ、インテイアとして次元の裂け目から複数落ちてきた紫のフルプレートアーマーの一つを飾っている。


「暇つぶしに、最終確認でもしますか」


 まず、門をくぐってすぐの病院の敷地、車で乗り入れができるよう道は広く、二十台の車が止められる駐車場がある。そこにはビーバドーザーが大小の落とし穴を仕掛けさせた。これは侵入者用ではなく、逃げ出す者を防ぐために設置している罠だ。


「這いつくばって逃走中に落下したら、絶対に面白い、ぜひ動画で撮影したいラストシーンだ」


 一階、元受付フロアーが面積の七割を占めている。トイレや警備員、スタッフの待機スペースにビーバドーザーを隠し、侵入者がきたら襲わせる。ビーバドーザーは弱い魔物、金属バットでも持っていれば、一般人でも勝てる相手だ。


「こいつらを倒し、調子に乗ったあいつを二階で待っているグレイウルフでじわじわとイタブル」


 二階には黒くペイントしたグレイウルフ、窓を全てカーテンで塞ぎ、光源も必要最低限にした階層。ここではあえて致命傷を狙わない、傷つけることを主目的としている。


「次の階にはスペシャルゲストが待機中なんだ、ここまでは生き残ってくれよ」


 三階にはとある秘密兵器を用意した。ぜひともあのペテン師には頑張って三階まで到着して欲しい。


「四階からは趣味の階層だ」


 三階で決着をつける予定なので、四階から六階は手加減無用、考え付く全ての罠を設置して役目の無い魔物全てを潜ませている。例え機動隊が突入してきても撃退できる自信がある。


「ペテン師が幸運にも四階までたどり着けてもだ、今度は遊び無しの殺意全快、だから死にたくなければ三階でボクが満足するほどの惨めな姿を晒してくれ」


 ダンジョンコアが発光、ダンジョンに侵入者が来たことを告げる。


「やっとおいでか」


 コアを操作して、空中に侵入者の映像を投影する。


「おやおや、お仲間もいないお一人で登場ですか、孤高のヒーロー、いやテメェはヒーローじゃないペテン師だった」


 ペテン師の装備は学園の制服に大きな革製のリュックサック、そして野球のバットケースか、おや、バットケースから剣を取り出したぞ。


「金属バットを持ってきたのかと思ったら、西洋剣かよ、あんなのどこで手に入れたんだ、コスプレショップの模造品か」


 映し出された映像では正確にはわからないが、プラスティック制には見えない、もしかして金属でできているのか、どこで手に入れやがった。

 剣を取り出したあいつは、キョロキョロとあたりを見回して、正面の道ではなく駐車場からコソコソと入口へ近づいてくる。


「あれで隠れているつもりかよ、堂々と奇襲宣言しておいて、いや、あれで奇襲のつもりなのか、さっそく面白動画をゲットだ」


 タイトルはカメラに気が付かないペテン師の夜間不法侵入だな。


「クククッ、真っ直ぐに通路から入ってくればいいのに、無い知恵絞って迂回なんてするから、ホラ落ちた、そこは落とし穴ゾーンだぞ」


 でかいリュックが引っ掛かって穴の中でもがいてやがる。


『くそ、落とし穴とはどこまでも卑怯で姑息なテロリストだ、待っていろ、この正義の英雄が貴様を叩きのめす』

「貴様に正義なんて一欠けらもないだろうが」


 入り口に入るまで手を出さないつもりでいたが、いいだろう、その持ってきた剣の性能を試させてもらおうか。

 落とし穴を掘って用済みとなっていたビーバドーザーの一匹をペテン師にけしかける。


 穴から這い出してきたペテン師を待ち受けるビーバドーザー。


 ペテン師も相手に気が付き剣を構え、一振り。


『どうだ、オレの力を見たか』


 剣の一撃でビーバドーザーを倒したか、どうやらあの剣はおもちゃではないようだが。


「しょせんビーバドーザーは魔物の中でも最弱の存在だぞ」


 それに武器の力も見せてもらった、あれではグレイウルフは一撃では倒せない。

 落とし穴を警戒してゆっくりと進み、ようやく入り口にたどり着いたか、遅いんだよ。

 こっちが攻撃したのは一回だけなのだが、落とし穴に三回はまり、すでにボロボロの状態になっている。バカだ。


「ここでリタイヤしないでくれよ」


 一階に待機させている魔物に襲撃の命令を出す。


『不意打ちか、どうやらオレの力に恐れをなしたようだな』


 どっからそんな自信が沸いてくるんだ、恐れてなどいない、すでにズタボロのくせに。

 襲い掛かったのはビーバドーザーが時間差で五匹、背後からペテン師のリュックに穴をあけ中味をぶちまける。折りたたみの椅子にスコップ、懐中電灯に雨がっぱ、いろいろ用意したじゃないか、狙いを変更、あいつが落とした道具を使えなくしてやれ。


『やめろ、なんてことを、おのれ卑怯だぞ』


 道具を壊され悔しがるペテン師、いい気味だ。

 ビーバドーザーは全てやられてしまったが目的は達成できている。

 もはやヤツの道具は剣一本のみ。


 二階へと進むペテン師に笑いが止まらない、その先は地獄だぞ。


『ようやく姿を見せたな狼ども』


 二階の暗闇ゾーンで待機していた黒塗りのグレイウルフが動き出す。


『そこか、我が必殺剣を食らうがいい』


 驚いた、剣が黒塗りのグレイウルフに当たりダメージを与えたのだ。倒すまでには至らなかったが、一対一ではグレイウルフを倒すかもしれない。

 まさか人間で黒塗りのグレイウルフと互角に戦うとは、明るい場所なら岸野や真帆津も倒せていたが、暗闇の中で黒塗りだぞ、人間が相手するのは不可能な相手だろ、察知すら至難の業のはず。


 流石はサッカー部のエース、腐っていても身体能力は本物か、こいつは存在じたいがペテンみたいな野郎だ。


『ははは、暗闇に目が慣れてきたぞ、これなら負けるわけがない』


 おまえの力には驚かされたよ、だがな、オレはダメージを与えるために三匹同時に襲わせた。あくまでもメインは三階、ダメージさえ与えられればいいんだ。

 最初からこの階層は通すつもりだったんだから。


『貴様らの動きはすべて見切った、そこだ』


 突撃からの突きを放ってきた、あいつは暗闇に慣れてきたと言った、これはオレも予想外のことだったが、グレイウルフもペテン師の動きに慣れだしていた。

 ヤツ攻撃はワンパターン。先程から繰り返される同じ攻撃、何度も見せられればグレイウルフだって学習する。さっきは当った攻撃を避け、身をひるがえすとペテン師の突き出した腕に噛みついたのだ。


『うぎゃー!!』


 豪快な悲鳴をあげて、握っていた剣を落す。


『バカな、ありえない、信じないぞ』


 剣を失ったとたんに弱気になったな。

 グレイウルフに取り囲まれて涙目だ。また前回と同じ構図になってきた。この次はどうする。武器を失っても果敢に戦うか、無理だよなおまえは自分が有利の時しか前に出ない男だ。


「ほら、逃げ出した」


 さっきまでの強気はどこに行ったのか、階段を転げ落ちながら逃げ、外に出て、落とし穴に落ち気を失った。


「あっけないなー、三階まで登って欲しかったのに、正直面白くなかったぞ、簡単にやられ過ぎだ、これで覚醒した能力者の中で一番強かったのか、角森や岸野の方が強い気もするが」


 まだまだ仕返しをしたりない。

 あいつにやられた恨みは、このくらいでは静まらない。


「目を覚ましたら、グレイウルフで追い立てて、またダンジョンに挑戦してもらうぞ」


 拍子抜けしたペテン師の襲撃、用意していた仕掛けが全部使えず不完全燃焼。


「ん? なんだ」


 コアが光、侵入者を知らせてきた。

 こんな場所にやってくるなんて、どこかのバカが肝試しにでもきたのか。

 映像をペテン師から新たにやってきた侵入者に切り替えると。


「なんだそれは!!」


 思わず叫んでしまった。

 駐車場で何台ものラジコンカーが爆走して、仕掛けていた落とし穴を発動させまくっていた。

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