第42話『影の中のあったモノⅢ』
次こそは剣を出してやる。
条件をシンプルにするんだ、真っ直ぐな剣で、さっき出したヤツよりも小さめ、今度こそきてくれ剣よ。
影が動き一本の直剣が現れる。
「不意打ちで魔物もセットになってないよな」
タンガ、そこまで俺は信用がないのかい。
盾を構え、ゆっくりと剣に近づき、盾で突いてみるが反応はない、ここまでは普通の剣のようだ。
「レンサク」
「任されたのです」
レンサクがローブに魔力を流すとエアバックのように膨らみ、爆弾処理班が着るようなモコモコのスーツへと変形する。顔にフルフェイスのマスクをかぶり慎重に剣へと近づき、鑑別を行う。
「危険物の反応はありませんね、ケンジはどうですか」
「うん、ただのロングソードだな」
爆発しないことを確認して剣をケンジに手渡す。触った物を鑑定できるケンジが最終点検をしてようやくみんなが臨戦態勢を解除した。
そこまで警戒するモノが俺の影の中にはあるんですね。
「ようやく三回目で成功か」
「でもサトッチ、これヒカッチの剣じゃないよ」
「なんだって」
「鑑定結果はただのロングソードだ、付け加えるならボロボロの使い古し、買い取りに出してもお断りされるレベルの粗悪品だな」
粗悪品だって、そんな物をどうしてわざわざ影の中にしまっていたんだ。過去の俺は。
「多分だけど盗賊の剣だと思うよ、私とサトルくんがまだ二人で活動していた頃に何度か盗賊の捕縛依頼をやっていたんだけど、そのやり方が、影抜けでアジトに潜入して、影隠しで武器庫や宝物庫の中身を没収して捕まえたから」
その時の没収した武器がそのまま残っていたのか。
でもこれで剣の形は把握できた。次も剣を呼び出せるような気がする。
「もう一度挑戦するぞ」
俺の宣言に合わせて盾を構えたタンガが前にでて、その後ろでヒカリとサリが待機する。
「今度こそ、ヒカリの剣よ来てくれ」
影は肥大化しない。少なくとも大型の魔物ではない。
緊張した面持ちで何が出現するか観察していると、先ほどのボロイ剣とは比べ物にならないほどの立派な剣が影の中より突き出してきた。
やった、二回連続で剣の形をしているぞ、でも、装飾に使われている宝石が青であることに気が付いて、またハズレてしまったと肩が落ちる。
「成功だよサトルくん、一番欲しかった剣ではないけど、これは間違いなく私の剣だから、えっと、だから半分は成功かな」
半分成功か、それを成功と呼べるものなのだろうか。
「魔物が出てこなかったんだから、良しとしようよ、段々うまくなってきてるよ」
ヒカリが励ましてくれているのだ、落ち込む姿を見せるな、両足でしっかりと立って胸を張れ、なけなしの男の意地だ。少しでも強くなるって決めただろ。
「ありがとうヒカリ、もう落ち込まない、次で必ずヒカリの剣を呼び出してみせる」
「それなんだけどサトルくん、今回はこの剣で大丈夫だから、次の物を取り出して欲しいかな」
「いいのか」
「うん、これから本当の戦いになるかもしれないから、一本は剣が欲しかったんだ。この剣でもそれなりの性能だから大丈夫」
俺には剣の性能差などわからない、無理をしていなければいいけど、ヒカリやケンジの雰囲気から、ヒカリの剣の取り出しはあくまでも前座であることが、鈍い俺でも察せられた。
「わかった、今回はここまで、次は必ずリクエストに答えられるように努力します」
「期待しているね」
ヒカリの剣の取り出しは一先ず終了。
「次は、何に挑戦すればいい」
「カーバンクルストーンをお願いするのです」
カーバンクルストーン。こちらの世界には無い物質で、数種類の魔力を内包した水晶の事である。カーバンクルストーンは見る角度によって色が変わり、内包している魔力の種類が多いほど浮かび上がる色は多彩になるらしい。
レンサクが興奮気味に説明してくれた。
「ルトサの影の中には、七色に変化するカーバンクルストーンが眠っているはずなのです」
「特徴は」
「手の平サイズの細長い楕円形の水晶なのです。色はさっき言った通り七色に変化します」
細長い水晶か。
これはさっきの剣を探すよりも難しいぞ。
手の平サイズの水晶、色は七色に変化する。これかな。
出てきたのは空き缶に似た筒、中央には不思議な球体がはめ込まれていて、赤、緑、赤と交互に点滅している。
「また、わけのわからない物が出てきた」
「ルトサ、危ないので離れるのです」
「あれは何だレンサク」
「あれは、四魔将軍の一人、発明好きのピポポが作った都市壊滅用魔力爆弾なのです」
「へー、異世界にも爆弾があったのかって、都市殲滅用!?」
マジかよ、都市殲滅用って一都市をまとめて吹き飛ばす威力ってことか、そんな物が俺の影の中にあったのかよ、魔物よりもよっぽど怖いじゃないか。どうする。今から逃げて間に合うか、無理だよな、そうだ、もう一度影の中に戻せば。
影縄を飛ばそうとしてレンサクに止められた。
「ダメなのです。もう起動してしまったので、無理やり影の中に引っ張りこもうとすると起爆です」
「な、なんだって」
「そう慌てる必要はありませんよ、あの程度の爆弾、複数あれば厄介ですが、一つだけなら対処方法はありますから」
「最大物理障壁、多重設置」
ヨシカの透き通る声が聞こえたかと思えば、魔力爆弾が何重もの物理障壁に包まれ、爆発、音量は爆竹一個分くらいに聞こえた。
衝撃はまったく来なかった。
嘘だろ、都市を殲滅できるレベルの爆弾を爆竹レベルまで抑え込んだの。
「はぁ、はぁ、失敗しました」
さすがに辛かったのか、ヨシカがその場で膝を付いた。
「大丈夫なのかヨシカ」
「ええ、体は問題ありません、魔力は殆ど使い切ってしまいましたが、ポーションで回復できます」
「それじゃ失敗って」
「サトルさんに合言葉を言ってもらう余裕がありませんでした」
そっちかーい。
「あの言葉さえあれば、爆発を完全に抑え込めたと思います」
どんだけすごいのあの合言葉。
「とにかく、ヨシカは一旦後ろで休憩してくれ」
後方へ下がるヨシカ、今のはかなり怖かった。俺以外は冷静なままだったけど。
肉体だけでなく、精神力もみんなより未熟なんだと理解させられた。
「サトル、まだやれるか」
「大丈夫、これを機会に俺は強くなりたい」
今度こそ、せめて影隠しだけでも使いこなしたい。それだけでもみんなの役に立てるんだ。
楕円形の細長い水晶、来てくれ。
影が小さく盛り上がり、六角形の水晶が出てきた。
「また、だめだった」
「確かに目的の物ではないが、これはこれで良いモノが出た。強くなりたいサトルには打って付けだぞ」
「ケンジこれは、なんなんだ」
「ブートクォーツ。訓練人形を作り出すアイテムだ」
ブートクォーツ。魔力を流し土の上に置くと、魔力の持ち主と同じ身体能力をもった人形を作り出すことができる。作り出せる人形のレベルは20までらしい。レベル100のみんなには意味のないアイテムだ。
「先程までの戦闘で、サトルのレベルは15まで上がっている。こいつを使うには丁度いいが、どうする」
「やらせてくれるか」
即答した自分にちょっとびっくりしている。過去の記憶に影響されているのか、少しだけ積極性が高くなった気がする。
「わかった、他のメンバーは観戦しながら休憩をしよう。いいか女性陣、この訓練に限りサトルがケガしても本人が求めるまで手当てもサポートも無しだからな」
女子たちが、やや不満そうに了解の返事をする。
ヒカリたちが見ている前で情けない姿はさらしたくない。
強くなるため、このチャンスをものにしてやる。
俺はブートクォーツに魔力を流してグラウンドに置いた。ブートクォーツは魔力を周囲に放ち土を引き押せていく、山となった土は盛り上がり、俺と同じ背丈の人形へと形成された。
よしやるぞ。
「サトルくん」
「サトルさん」
「サトッチ」
「サム」
「「「「アシル・イテ!!」」」」
それって男の俺にも効果あるの、タンガたちが男には効果が無いってさっき、いや。
異性に言うと効果があるのか、でも四人から同時に合言葉を掛けられたのに、俺には何の力も沸いてこないぞ、やっぱり魔法じゃないのか。
アシル・イテ、レンサクはアナグラムって言っていた。どこかで聞いたことが、そうだ、ポリスだ学園名探偵ポリスの中で、犯人が自分の名前を隠すために文字を入れ替えた行為、それをアナグラムって言っていたんだ。
アシル・イテ、文字を入れ替えると、あいる・てし。あいし・るて、まさか!
俺は合言葉の謎が解けたかもしれない。
そして、訓練人形のストレートパンチを顔面に食らった。
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