第41話『影に入っていたモノⅡ』

「サムの影隠しは生物以外は何でも入れられた」

「だからゴーレムも入っていたと」

「あれはガーゴイル、ゴーレムは魔法は使わないけど、ガーゴイルは使ってくる」


 ガーゴイル・アシュラが出現すると同時に、俺を守るように傍にやってきたホカゲが相手の特徴を教えてくれる。

 悪魔の像はヒカリに狙いを定め、六本それぞれの腕に握られた剣を振り下ろす。それをタンガがカバーに入り大盾で受け止めた。


「ヒカリばかりを狙っているような」

「前に戦った時、ヒカリがあいつの腕を二本斬り落としてるから、多分ヘイトを集めてる」


 もしかして影隠しの中は時間が止まっているのか、それが出てきて解除されたから戦い続けると。ヒカリも手刀の魔力剣で応戦するが、グレイウルフと違って斬り倒すことができていない。


「相手はヒカッチだけじゃないぞ」


 ヒカリにばかり気を取られているガーゴイル・アシュラの足元にリサが飛び込んだ。


「サンダースライディングタックル!!」


 地面スレスレを雷を纏ったサリが滑空して、相手の太い脚を蹴り砕いた。


「からの、レッドカードショルダーチャージ!!」


 スライディングで相手の足を砕いたら、それだけでレッドカード退場ものだけど、追撃で肩に土の棘を作り出してのチャージで、さらに二本の腕を吹き飛ばすが、ガーゴイル・アシュラは止まらない。それどころか再生をはじめ、今度はサリに狙いを変えて攻撃を始める。


 剣の攻撃だけでなく口からは火炎の魔法を放ってきた。緑の芝生に大きな焦げ目をつける。だがそこにはサリはいない。

 タンガの後ろに隠れ、火炎魔法をやり過ごすと、反撃に出る。


「火の魔法勝負、真っ向から受けて立つ、必殺ファイヤーボールシュート!!」


 出たー、サリの代名詞、ファイヤーボールシュートで頭部を完全に粉砕した。

 だがしかし、それでも止まらない、砕かれた頭部も再生を始める。


「やっかいだな」

「だからサムが影の中に封じ込めた」

「なるほど、納得」


 ならばもう一度影の中に入れてしまえば、スキル『影隠し』発動。

 ガーゴイル・アシュラの足元の影が大きく広がると、飛び退かれた。


「あれー」

「影隠しの作動が遅い、あれだと避けられる。広がったと同時に落とさないと」


 つまり俺の技量不足ってことか。昔の俺ならできたんだろうな。


「大丈夫、また特訓すればいずれ使える。それに影スキルが未熟になっても、サムの最強の剣は一欠けらの輝きも失っていない」


 俺の最強の剣って。


『私はサトルくんの騎士、どんな相手も斬り倒す最強の剣になる』


 これは記憶の断片、どこの場面だろう。今朝の続きではない、ヒカリの装備している鎧も立派になっているし、それなりに冒険した後のようだ。


『君の命令が私に限界以上の力を発揮させてくれる。命令して、最強になれって』

『いや、命令はしない、俺はヒカリと並んでいたい、だから命令じゃなくお願いする。どんな相手にも負けない最強になってくれ』

『はぁ、まったくしかたがないなー、わかった、我が主の願いなら命令も一緒。あなたの剣が最強である姿をお見せします』

『よろしく』

『でも、最強へと切り替える合言葉が欲しいな、そうだサトルくん『アシル・イテ』って唱えてよ、そうすればあなたの剣が最強になるから』

『アシル・イテ? 英語か何か』

『英語じゃないよ、たった今思い付いた私が強くなる魔法の言葉、忘れないでね』


 今がピンチかと聞かれれば、それほどピンチでもない。

 ガーゴイル・アシュラは厄介ではあるが、倒せないほどではない。再生されてもダメージは少しずつ入っている。数時間もすれば倒せるだろう。でもヒカリが剣を持てずに苦労をしているのも確か、合言葉を言うだけで強くなれるなら、いくらでも言ってやろう。


「ヒカリ『アシル・イテ』だ」

「えッ!?」


 聞き取り辛かったかな、ヒカリに変化がない。

 ではもう一度。


「ヒカリ『アシル・イテ』!」

「今それを言うの、もうちょっと雰囲気のある場所で言って欲しかったな」


 あれ、パワーアップせずに動揺しているにのか、顔まで赤くなったぞ。


「でもそっか、思い出してくれたんだ。だったらあなたの騎士として、その想いに応えないとね!」


 ヒカリの体から溢れる魔力が視認できるほどに濃く輝き、キレイな黒髪が黄金に変わっていく。

 あれは記憶の断片で見た、金髪バージョンのヒカリ、普段の黒髪もいいけど、金髪になったヒカリも美しい。合言葉を言うだけで、この姿が見られるなら、本当にいくらでも唱えたい。


 力が解放されたヒカリはガーゴイル・アシュラを圧倒、光属性で攻撃された箇所は再生が遅く、ものの数分でガーゴイル・アシュラは手足と頭部を失った。

 どうしてトドメを刺さないんだと思ったら、ヒカリが俺の後ろに現れ抱きかかえると、胴体だけになり倒れているガーゴイル・アシュラの上へと連れてこられた。


「サトルくん私の手を掴んで一緒にトドメ、いくよ」

「え、うん」


 とりあえず手刀剣に言われるがまま手を添えて、まるで結婚式のケーキ入刀をするかのようにガーゴイル・アシュラにトドメを刺した。

 ああ、これで経験値が手に入るのか。


 魔力が少し上がった気がする。レベルアップができたようだ。ただの残骸となった山から下りると、レンサクが嬉しそうに素材を漁り始める。


「もう手に入らないと思っていた石材が大量なのです。これだけあれば、いろいろと製作できますね」


 活き活きと残骸を漁るレンサクを横目に、俺はヒカリ以外の女性陣に取り囲まれた。

 何故か体が勝手に正座までしてしまった。


「サトルさん、あの場面で合言葉は必要なかったと思います」

「そうだよ、ヒカッチはそのままでも強いんだから、パワーアップさせるなら先に私たちにして欲しかったな」

「サム、次は私に言って欲しい」


 俺は何故、女性陣に怒られているのか。

 第一、あの合言葉は主従契約を結んだヒカリにだから効果がある言葉ではないのか。


「あの合言葉で、みなさんも強くなれるのですか」

「「「なれる」」」


 記憶ではヒカリがその場で思いついた言葉だったはず、そこまで強力な魔法なのか。だったら、タンガたち男性陣に使っても。


 タンガに睨まれた。


「俺には効かないから、使うな、絶対に」

「僕もノーサンキューなのです」

「性差別をするつもりはないが、俺たちは親友だ、恋人ではないから効かん」


 女性限定の合言葉ってことか、ア・シ・ル・イ・テの五文字にどんな意味があるんだ。


「ルトサはアナグラムを知らないのですか?」

「アナグラム、聞いたことがあるような気がするけど、なんだっけ」

「「「はぁー」」」


 男性陣に盛大な溜息をつかれてしまった。なんだよ、その鈍感野郎って視線は。


「次にいきましょうサトルさん」

「今度はあたしが活躍するから」

「私も負けない」


 ヒカリの剣を取り出そうとしてるのに、なんでみんなは魔物が出てくる前提で話ているのだろうか。

 今度こそ、ヒカリの剣を呼び出してやる。

 真っ直ぐな剣で、緑の石、真っ直ぐで緑よ来い。


 またもや影が肥大化した。

 影の中から剣、のような角を持つメタルボディーのドラゴンが現れた、ちなみに瞳は緑の石でできている。四本足に背中には翼を持つ金属のドラゴン。


「アーティファクト・メタルドラゴン、古代都市の格納庫に眠っていたヤツなのです」

「飛ばせない!」


 翼を広げ飛び立とうとするメタルドラゴンをホカゲが首に鎖を巻きつけタンガに渡す。


「お願い」

「任せろ!」


 タンガは両足を地面にめり込むほど踏ん張りメタルドラゴンと綱引き、力は拮抗、一メートルほど浮かんだ所でメタルドラゴンは動きを止めた。


「サム、あの言葉をお願い」

「わ、わかった。ホカゲ『アシル・イテ』」

「これは凄い」


 目の前でホカゲが姿を消した。

 角森の加速などお子様レベルに感じてしまうほどの、素晴らしい高速移動。

 まばたき一回分の時間でメタルドラゴンの背中に飛び乗ったホカゲは大鎌で翼を斬り落とし、墜落させた。


「サトッチ、あたしにもお願い」

「サリ『アシル・イテ』」

「おー元気100倍だ、風雷魔法イエローカードカッター!」


 二属性の複合魔法、雷と風を帯びた黄色いカードが手裏剣のように飛び、首を切断して上空へと飛び上がるとブーメランのように戻ってきて、メタルボディーを貫きメタルドラゴンの核を破壊した。


「また経験値が入ってきた。アシル・イテって唱えただけで協力したことになるのか、魔力も減った感じがまったくないのに、すごい魔法だ」

「それ魔法じゃないんだけど、サトッチ、マジで気が付いてない」


 気が付くってなんだ。


「みなさんだけずるいです」

「ごめん、ヨシカッチ、予想以上に力が湧いちゃって」

「次はわたくしが前衛を務めさせていただきます」


 えっと、だからヒカリの剣を呼び出そうとしているだけで、決して魔物を呼び出したいわけじゃないんだけど、この雰囲気だとまた無生物系の魔物を呼び出してしまいそうだ。

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