第37話『ヒカリの騎士Ⅰ』
暴走族ウルフクラッシャーズを壊滅させた翌日の日曜日。
ヒカリはサトルに話があると日時計公園に呼び出された。
どんな話なのか、ワクワクも半分あるが、呼び出しをした時の考え込んだ表情から、楽しい話ではないとの予感もあって、半分は不安。
ヒカリが公園に付くとすでにサトルが二人分の缶コーヒーを買って待っていた。
「ごめん、休みに呼び出したりして」
「うんうん、全然それはかまわないんだけど、話って」
少し思いつめた顔、遊びに行こうとか嬉しい話題では無いことが確定した。
「異世界であったことを知りたいんだ、俺はやっぱり、みんなから相当遅れているから」
遅れているとはレベルの事だとヒカリにはすぐに察しられた。
一人だけレベル10に戻ってしまったサトル、みんなは気にしていないが、本人が強く意識してしまっている。
異世界と違い、この世界ではレベルを上げるのは難しい。
その原因もはっきりっしている。それを説明するにも、異世界の事を放すのは丁度よいと考えたヒカリは、サトルの希望通り異世界について話すことを決める。もっとも最初からサトルにお願いされれば断る気は一切なかったヒカリだが。
「どこから話そうか、レベルアップにつながる話をするなら、最初からにした方がいいかも」
「そうだね、できれば最初の召喚された直後くらいから、レベルが低い時の俺がどんな行動をしていたかを知りたり」
「わかった。でも最初の一週間は一緒に行動してなかったんだよね私達」
「それでもいい」
「了解」
ヒカリは語り出す。
クラス全員が異世界に召喚された日からサトルとの出会い、そして仲間になるまでを。
サトルはヒカリの話を整理しながら聞く。
召喚後にジョブの鑑定がおこなわれ、それによりパーティーを強制的に組まされたのはサトルも覚えている。
初めの一週間はジョブとスキルに慣れるための基礎訓練、その時に影法師という最弱だと思われ、のちに最強になるジョブを引いたサトルは能力を得て調子に乗った男子の的にさせられていた。
「その影法師が最強って言うのが未だに納得できないんだけど」
「それは記憶を無くしているからだよ、私はサトルくんが最強だって覚えているから大丈夫」
「どのあたりが大丈夫なのでしょうか」
「いいから続きを聞いてね、それともやめる」
「ぜひ続きを聞かせてくださいヒカリさん」
こんな風に気軽な関係になるだなんて、当時のヒカリは思ってもいなかった。
異世界でサトルと最初に会ったのは基礎訓練中に的にされていたサトルを助けた時。
その時は特に意識はしていなかった。
基礎訓練が終わると実地訓練へとなり、パーティーごとの別行動となった。勇者パーティーに女子一人だけ組み込まれた聖女のヨシカを気にしながらも、魔物がいるダンジョンへ向かうと告げられヒカリも緊張や不安で自分以外を心配している余裕がなくなっていた。
ヒカリは女子三人とパーティーを組まされた。
男子がいないことに安堵もしたが、女子しかいない四人組で生き残れるかと心配にもなった。
「ヒカリのパーティーは女子四人組だったのか」
「うん、サトルくんは男子の四人組だったんだよ、その中にレンサクくんもいたの」
「俺の最初の仲間はレンサクだったのか」
「それはちょっと違うかな、ジョブの相性だけで一方的に組まされたパーティーだから仲間なんて呼べるものじゃなかったよ、他のパーティーも含めてほとんどが一緒に行動する他人って雰囲気だった」
「とても命を預け合うなんて不可能だよな」
進級して二週間、まだ全員がクラスに馴染めていないのも影響したのだろう。友人が同じパーティーになった者はいたが、パーティー全員が親しかったクラスメートは皆無だった。
ヒカリはまだパーティー内に仲の良い友人、弓崖実がいたからよかった。
それでも不安は不安、ヒカリだけでなく女子全員が目に見えるくらい震えていた。
実地訓練で使われる初心者向けの下位ダンジョンへと出発する。王都との送り迎えは兵士がやってくれるが、訓練には一切手を貸さないと告げられていた。そんな時、担任の数学教師佐久間が同行を申し出てくれて心強かった。
「佐久間先生もジョブを貰っていたのか」
「残念ながら持ってたよ、やっかいな呪術師だった」
「あの、とても嫌そうに聞こえますけど、心強かったんですよね」
「当時は本当に恐怖で視野が狭くなっていて、サトルくんがいなかったら、どうなっていたか」
「これまでの話だと、俺は基礎訓練中の的の場面しか登場してないけど」
「安心していいよ、サトルくんが登場するのはここからだから」
馬車に揺られて王都から三日、途中で大きな川を渡り初者用ダンジョンに到着した。そこにはヒカリたちのパーティーの他にサトルたちのパーティーも実地訓練にやってきていたのだ。
サトルはこの段階で女子のパーティーに随伴する佐久間を怪しいと疑い始めていたらしい。
「女子のパーティーにただ一人いる男を羨ましいと思っても、この段階で疑うかな」
「間違いないよ、サトルくんはそれとなく、佐久間に気を付けるように忠告してくれたし」
初心者ダンジョンで訓練することになった二つのパーティーだが、初心者用だけあって地下三階が最下層と狭く、一日で攻略可能な規模、ダンジョンボスは倒すと復活までに一日かかるそうで、訓練の一日目に男子が二日目に女子がやることとなった。
恐怖、不安で固まる男子たちに、佐久間が心配だから一緒にダンジョンに入ると申し出る。
「ここまで聞くと良い先生なんだけど」
「言い分だけ聞けばね、でも佐久間は男子たちを利用して安全に三階まで降りて、サトルくん達を囮にして最後は眠りの呪いで戦闘から抜けさせるとダンジョンボス撃破ボーナスを一人占めしたの」
その後、ボスを倒すと現れる脱出用の魔法陣から、あたかも自分の活躍で生徒たちを救ったヒーローとして出てきたらしい。
翌日の女子の訓練、男子の状態を見て心配になる女子たちに、昨日完全攻略した自分がいるのだから、なんの心配もいらないとダンジョンの奥へ女子たちを連れ込み、本性を現した。
ダンジョンボスとの戦いのさなか、不意を突いて佐久間は女子全員の足が動かなくなる呪いを掛けた。その中には当然ヒカリも含まれている。
佐久間は一人でダンジョンボスを撃破すると、両足を封じられ動けない女子の手を縛り、装備を取り上げ防具を剥がすと、ボスのいなくなった部屋にヒカリたちを並んで寝かせ下卑な笑みを浮かべる。
抵抗できないヒカリたちに佐久間の欲望が降りかかる直前、眠りの呪いをただ一人打ち破ったサトルがヒカリたちを助けるために単身でボス部屋に現れた。
「この時のサトルくんの雄姿ははっきりと思い出せる」
「俺はどうやって眠りの呪いを打ち破ったんだろう」
サトルは佐久間の不意を突き攻撃、意識を失わせ影縄で拘束すると、脱出用の魔法陣まで女子たちを紳士的(ヒカリの証言)に運んだらしい。
一人、二人、三人と動けない女子を脱出させ、最後にサトルとヒカリが脱出しようとした所で佐久間が目を覚まし、拘束から抜け出すと、ボスを二回も倒し強化された魔力で脱出用の魔法陣を破壊した。
「私とサトルくんだけが、ボス部屋に取り残されたの」
「かなり危機的な状況だな」
「でも、サトルくんは勇敢に立ち向かった。足の動かない私を背負って、佐久間の意表を突き、脱出用の魔法陣は無くなってしまったから、自力での脱出に切り替えたの」
「その意表を突いた方法とは」
「私の光源魔法との合わせ技、光を使って影を濃くして佐久間の背後で人型の影を動かしたんだ、救援の兵士が駆け付けたと佐久間に錯覚させたの」
「なるほど、ヒカリとの合わせ技、影芸を使ったのか」
「あの時のサトルくんは私に『今だけは俺を信じてくれ、絶対に君だけは助けるから』って言ってくれたんだ」
ヒカリの語りに段々と熱がこもっていく。
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