第33話『異能を残す者【格闘家】Ⅱ』
「隔離結界を展開しました。ここでなら能力を本気で使っても周囲には影響が出ませんので安心してください」
安心もなにも俺の能力じゃ全力を出しても周囲に影響の出る威力はありません。
「こんなこともできるのか」
「仲間の自慢の作品の一つだ」
河川敷で角森と戦った後、爆発するグレイウルフと戦った。その時周囲を気にしてヒカリが本気で戦闘ができなく窮屈な思いをした。そこでレンサクが考案したのが、部員支給の七つ道具。
一つ目、今使った隔離結界の杭。地面に刺すだけで半径最大50メートルを隔離結界で覆う。
二つ目、催眠スプレー。過去二時間位の記憶を夢だと思わせることができる。
三つ目、回復ポーション偽造菓子。お菓子に見えるように加工されたポーション各種。
四つ目、転送ダーツ。倒した魔物などに刺すとレンサクの倉庫へ転送される。
五つ目、認識阻害の札十枚セット。使用すると十分間、周囲から認識されなくなる。
六、七つ目は鋭意制作中。レンサクには道具は七つという拘りがあるらしい。
「まだ、他にも仲間がいるのか」
「角森にもいるんだろ」
「あれは仲間じゃないな、互いに利用し合っているだけだ」
「そいつの名前を聞いても」
「勝ったら、教えてあげるよ」
「それじゃ勝たないとな」
互いに距離をとって構える。
角森は最初からスキル筋肉増加を使っていてマッチョホームで威圧感がすごい、ヒカリたちは離れた場所で観戦モードだけど、あの三人は俺一人で角森に勝てると思っているのだろうか、いまだにこいつの動きを目で追うことすらできないのに。
まあ、勝算があるからヒカリも余裕の表情をしてるのだが、本当にアレが通じるのかな。いや通じると信じよう、そうでないと負ける。
「行くぞ」
角森の姿が消えた。
やっぱり早すぎて姿が見えない、だけど。
「ここだ」
地面に這いつくばるように倒れこむ、すると、俺の上を風圧と共に角森の腕が通過していった。消えた角森は俺の後ろに移動して拳を繰り出していたのだ。
高速移動はとらえられない、だが角森自身も高速移動中は攻撃できないらしく、攻撃する時は足を止めるので、出現さえ察知できればギリギリで避けられないこともない。これがレベルが上がり高速移動中でも攻撃ができるようになれば、手も足もでないだろう。
「影縄」
昨日破られた影縄、今度は分散させず一点に絞って強固に、よりダメージが入る場所、首に巻き付けた。
「昨日よりも少しだけ強くなりましたが、でも、やっぱり貧弱です」
化け物かこいつは、手も使わずに首に力を入れるだけで影縄が弾け飛んだ。
「ボクもまだやらなければならないことがある。君を倒し人質にして逃がさせてもらうよ」
こっちが提示した選択肢以外を選びたいわけね、そらそうか。
容赦のない瞬間移動からの攻撃、今回もギリギリの所で運良く回避できたけど、こんな幸運はいつまでも続かない。
ならばこっちも奥の手だ。
実は今日、お弁当をバカに食べられ悲しむヒカリたちを見て、静かにキレた。あのバカの顔を一発殴ってやろうと飛び出す直前までいった。タンガが羽交い絞めにしなければ、バカをぶっ飛ばしていた。
その時に目覚めた力、威力は弱いけど凶悪。
その名も。
「スキル『影針』」
針のごとき細い影が無数に飛び出し、相手の急所を突き刺し麻痺させる。レベル差があれば
百の針が角森に飛び、十本がハズレ、六十六本が筋肉に弾かれたが、残り二十四本が突き刺さる。
角森の腕がぶらりと垂れ下がり膝をついた。
両腕と右足を麻痺させることに成功。
「悪いな、俺は影法師、直接戦闘じゃなくて搦め手で戦うのが常套手段なんだ」
「まだだ、まだ負けられない、ミカの為にも!!」
両腕と片足を麻痺させていたのに、角森は残った片足だけで高速移動、それも高速移動から止まって攻撃のいつものパターンではなく、高速移動でそのまま突っ込んできての頭突き、今度は回避しそこねた。角森の頭が俺の肩に直撃して吹き飛ばされる。
やばい、この衝撃は骨まで砕かれた。はずなのに、痛みも無いし、普通に肩も動く。
だが、何でと考えてる余裕はない。
角森がまた片足高速移動の準備に入ったからだ、あれを食らってどうして無事だったのかわからないけど、もう一度食らってはダメだと、心が訴える。
『こんなの渡されてもぜんぜん嬉しくない!!』
なぜかこんな時に、泣きながら叱ってくるヒカリのビジョンが浮かんだ。
『こんなの渡されてもぜんぜん嬉しくない!!』
同じシーンがリピートされる。ヒカリが握りしめた物を俺につき返してくる。
今度の頭突きはなんとか本当にギリギリで回避できた。角森の奴、片足になってからの方が速度が上がっていないか。
もう一度、影針を放つが、当たっているのに刺さらない。
「少しでも遅くなれよ!」
効かない影針をあきらめる。せっかく覚えた新技なのに、作戦変更、残った片足を影縄で縛り付けるが、これも簡単に破られた。
そして頭突きが脇腹をかすめる。制服が破け衝撃も感じた、しかし、やっぱりダメージが無い。これはおかしい、絶対におかしい。骨が砕けなければいけない攻撃だったのに。
『こんなの渡されてもぜんぜん嬉しくない!!』
三度目のリピート。そこであることに気が付く、ヒカリの手の中にペンダントが握られていることに、それは緑の小さな石が付いたペンダント。見覚えがある。記憶の断片の中じゃない、こっちの学園で、教室で見たんだ。
『そうだ、渡す物があったんだ。お守りだから、持っていれば首にかける必要はないよ』
教室でヒカリからもらったペンダント。思い出した。これは以前、俺がヒカリに渡したペンダントと同じ物だ。
「負けるわけにはいかない、例え手足を全部失うことになっても!!」
「こっちだって負けるわけにはいかない!!」
各森が叫び、俺も負けじと叫び返す。
自分がやればケガもしないで終わったはずなのに、俺に経験を積ませるため、あえて俺を選ぶように角森を誘導した。絶対に傷つけさせないから、って宣言していたヒカリなのに、俺を戦わせるのは違和感があったんだ。
こんな仕掛けをしていたなんて。
「確かにこれは、こんなの渡されたってぜんぜん嬉しくないな」
頭を使え、さっき自分自身が言っていただろ、影法師の戦い方は搦め手だって、直接攻撃をしかけるな、状況を利用して罠をしかけろ。
角森が高速移動に入った。このタイミングだ、あいつの攻撃はもう頭突きのみ、真っすぐに突っ込んでくるしかない。
影縄を足首の高さで真横に張る。それも交差させ一点のみ強度を上げた。
「ノオッ」
その一点とは突っ込んでくる角森の足首の位置、計算通り角森は足を引っかけた。影縄は破られたが、角森を転ばせることには成功した。転ぶ先に影針もできる限り置いておく。
飛ばすだけでは刺さらなくても倒れる勢いと合わせれば。
手応えあり。
これで全身が麻痺したはず。それでも念のために影縄で全身を拘束した。
「どうだ、まだ動けるか」
もう魔力は底をつきかけている。どうか立ち上がらないでくれ。
「降参だ、ミカすまない」
敗けた角森の男泣き。
降参を受けて、俺は尻餅を付くようにその場に座り込んだ。
勝ったのか、影針が聞かなかったら本当に勝率ゼロだったな。
「お疲れ様サトルくん、接戦だったね」
素知らぬ顔のヒカリ、肩と脇腹を確認するが痛がっている様子はない。隠しているのかな。
「ヒカリ」
「な、何かな」
少し声が強めに出てしまった。
俺はポケットからペンダントを取り出してヒカリに返す。
このペンダントの名称は身代わりのペンダント、プレゼントした相手のダメージを送った人物が身代わりで受ける。ある意味呪われたアイテムだ。ついさっき思い出した記憶、異世界ではヒカリを守るために俺がプレゼントして、それがバレて盛大に泣かれてしまった。
「これ、泣きながら使わないでくれってお願いしてたよね、それが、どうしてヒカリが使っているのか、説明してもらっていいかな」
「お、思い出したんだ、えっとね、渡した理由は、なんだったかな」
本当は説明なんかしてもらわなくても分かっている。俺が弱いからだ。
昨日からみんなと違って弱い自分を惨めに感じてしまう。みんなは優しい。その優しさに甘えたくなるけど、それじゃダメだ。俺は記憶の断片の中にあるような、みんなと肩を並べていたい。
「肩や脇腹は大丈夫なのか」
「え? ああ、少し衝撃はきたけど、あれくらいなら私の防御力を貫通しないから問題ないよ」
これがレベル差なのか、俺には粉砕骨折間違いなしの攻撃だったけど、ヒカリにとっては少しの衝撃ですか。
「信用できないなら見てみる。痣にもなってないから」
ヒカリが制服のボタンに手をかけたので慌てて止めた。
「見せないでいいです!」
「冗談だよ、本気にした」
ペロリと舌を出して笑う。
くそ、ダメだ、そんなかわいい顔をされたら、もう追及できない。
「とにかく、このペンダントは以後、使用禁止、いいな」
「はーい」
まだ何か、俺を守る術が掛けられているような気がするけど、それが何かを明確に指摘しない限り、部員全員にしらを切られそうだ。
「オホン。そろそろ、話を始めようか角森、勝負は俺が勝ったんだから事情を説明してもらうぞ」
「わかった、聞いてもつまらないと思うけど、話すよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます