第32話『異能を残す者【格闘家】Ⅰ』

 俺、ヒカリ、ヨシカ、サリのKチームは角森の家を訪ねたが無人であった。


「角森さんとこの娘さん、車に跳ねられたんだって」


 無人の角森家を訪ねた俺たちを見た近所のおばさまが、聞いてもいないのに角森家の内部事情をいろいろと教えてくれた。

 角森には妹がおり、それが先月交通事故にあったそうだ。それも暴走族に轢かれたと。


「もしかしてヨシカ、襲われたのって全員暴走族の関係者」

「すみません、わたくしにはそこまでは、聞いてみます」


 ヨシカはスマホを取り出しタンガへ連絡を取る。

 昨日ヨシカとタンガは病院へ襲撃者の手がかりを探しに行っていた。被害者全員は確認できなかったが、確認できた全員の負傷が素手によるものだとわかり、犯人はジョブ格闘家の角森だと突き止めた。


 だけど判明した時にはすでに俺とヒカリが角森と戦った後で、タンガなどは先を越されたとぼやいていたらしい。


「確認が取れました、全員かどうかはわかりませんが、ウルフクラッシャーズと名乗る暴走集団のメンバーが多いようです」

「ヨシカッチ、うちのクラスの二人も暴走族だったの」

「あのお二人は、正確には暴走族に入っていたわけではなく、親しい先輩が所属していたそうです」

「だとすると、そのウルフクラッシャーズだっけ、その暴走族のたまり場に行けば、角森もいるかもしれないな」


 再びタンガに連絡してたまり場をしらないか尋ねる。こっちのチームにタンガを入れた方がスムーズに進んだかもしれない。適材ではなく気持ちを優先して選んだメンバーなので仕方がないけど、このメンバーで暴走族のたまり場に行くのは不安がある。穏便に終わるかな。




 知らなかったことだが、暴走族の中でもウルフクラッシャーズは荒くれ者が多く、器物破損、窃盗、婦女暴行に薬物などなど様々なモノに手を染めていたらしい。

 そんな連中のたまり場に美少女三人も引き連れて顔を出せば、違法奴隷商人が若いエルフ女性を見た時と同じ反応になるのは明白だ。


 そこのお嬢さん、そんなさえない男は捨てて俺たちと楽しもうぜヒャッハーである。


 何となく記憶の断片がある。

 異世界でもこの手のやからは、少し大きな町には必ず存在した。

 町から町、国から国を旅していたので、遭遇する確率は多く。対処方法も確立されていた。


 暴走族の言葉を盛大に無視、すると短気な男が怒り出し、迫ってきた。

 ヒカリとサリの前衛コンビが進み出て丁寧に対処。

 打ち身やかすり傷程度に抑え、一人一人、地面のベッドに寝かしていく、仮にケガをさせてしまってもヨシカが居るので完全完治もできるしね。

 暴走族が全員眠りにつくまで一分とかからなかった。


「寝つきがいいな」

「そうですね」


 俺とヨシカの出番は一切なし。

 いやヨシカには出番はあった、一人だけこちらに襲い掛かってきて、ヨシカが伸ばされた腕を掴み、相手を一回転させ脳を揺らし意識を刈り取っていた。


「護身術を嗜んでいまして、このくらいなら」


 今の俺は間違いなくヨシカよりも弱いと実感した瞬間だった。


「ねぇサトッチ、どうしてあたしたち暴走族相手に乱闘したの角森くんを探しに来ただけなのに」


 こっちに説明を求めないで欲しい。


「お約束的な展開だったからかな」

「なにそれ?」

「俺もなにそれ、なんだけど、目的の角森は見つかった」


 俺たちが来る前から、近くで隠れていたようだ。一度把握した気配だからか、探してみると結構簡単に見つけられた。相手も気配を消す方法を知らないみたいだし。

 倒れている暴走族に向けて、また身体強化を使った加速で襲い掛かる。

 奇襲なら成功するかもって、甘いぞ角森。一番下の俺でも気が付いていたんだ。見た目が少女でも熟練の戦士のヒカリたちが見逃すわけがない。


「なっ⁉」


 今日はヒカリに弾かれただけではなく、その後にヨシカの結界魔法の中に閉じ込められた。通常は結界内部の人を守るために使われるが、物理干渉不可の結界は、中からも外に出ることはできないので檻代わりに使用。

 角森が結界を破ろうと渾身の蹴りを繰り出すが、結界にはヒビひとつ入らない。


「捕獲完了です」

「隠れてたのやっぱり角森くんだったんだ」

「いつから気が付いていたッ!?」

「誰かが隠れていたのは、ここにきた時からわかってたよ」


 一番のんびりしているサリまでもが気が付いていたことにショックを受けている。


「……まさかクラスメートにこんな多くの能力者がいたなんて驚きです」


 少し違うな、クラスメート全員が能力者だったのだ。


「それで、ボクを捕まえてどうするんです。昨日は族を守って、今日は襲撃して、君たちのやっていることは意味が分からない」

「別に襲撃したわけじゃないよ」


 ヒカリが否定するけど、現状だけを見ると説得力が無いな。


「角森くんを探してたら、襲ってきたから返り討ちにしただけ、わたしたちからは手を出してないぞ」

「ボクを探していた」

「話がしたくてね、サトッチ、パス」


 俺が代表で話すのか、あまり会話したことのない相手は苦手なんだけどな。


「話ってなんだい」

「大枠は予想ができるんだけど、角森がどうして能力を使って人を襲っているのか聞きたい」

「それを話すメリットがどこにあるんだい」

「それは角森次第かも、能力を使って暴れられると、ちょっと俺たちに迷惑なんだ。でも素直に話してくれたら、角森にもいいことが起こるかもよ」

「曖昧すぎる」

「だろうね、とりあえずいくつか案があるから聞いてくれ」


 角森の対処は、ケンジがいくつか考えてくれた。


「まず能力を封印して記憶も消す」


 ただ能力の封印はレベル差があれば賢者スキルで簡単にできるそうだが、記憶を消すのは、異世界の召喚陣システムの応用なので難しいらしい、好き勝手にできるわけではなく、魔力の絡んだ記憶だけがいじれるらしい。能力を使うには魔力がいるので、魔力関連の記憶を消せば能力の使い方もセットで忘れる仕組みだそうだ。


 次の案は気が合いそうなら仲間に引き入れる。つまり。


「俺たち洞窟探検フットサル不思議研究部の新メンバーとなる」


 能力を使うことに関しては俺たちは肝要だ、目立つことなく、仲間に迷惑をかけないなら好きに使っていいスタンスを取っている。ただ、仲間になる可能性は低いともケンジは言っていた。気が合うなら、向こうの世界で仲間になっているはずだと。


 また別の案。


「能力をフルに使って暴れたいなら、剣と魔法の異世界に送ってあげる」


 現在は異世界に通じる穴が開けやすくなっているので、異世界へ送ってあげる。もちろん強引にやる気はない。本人に説明して片道切符になると理解してもらった上で送り出す。


「なんてモノがあるんだけど、事情を話してくれたら選ばせてあげる」


 実はもっと都合の良い物があるが、できれば使わないでくれとレンサクから懇願されたので提示しなかった。


「ずいぶんとそっちに都合のいい言い分だな」

「理解してる。恨んでくれていいぞ、俺にとって仲間の安全と平穏が一番だから、好きなだけ罵ってくれ」


 弱い俺が助けられる人数なんてたかが知れている。

 顔も知らない人やクラスメートを必死で守ろうとして、後ろから斬られるのはもう御免だ。あれ、ふと浮かんだ感情だけど、俺は後ろから斬られた記憶なんてないぞ。でも肩の刀傷から少しだけど痛みと悔しさが伝わってくる。


「本当に異世界なんてあるのか」

「ああ、そうか、そうだった」


 異世界の記憶が無いから、異世界に送るなんて話は突然過ぎたか。


「決めかねるね、記憶を消すって怖すぎるだろ、君達の仲間になるのもちょっと、僕は一人でいる方が好きなんだ」

「だったらさ、あたしたちの内の誰かと一対一のバトルしようよ、それで気持ちをすっきりさせてから、事情を話してよ、そうすればもっといろいろな案を出せるから」


 どうしてそんな思考になるのですか、この異世界体育会系娘は。


「どうして、そんな発想になるんだ」


 まさか角森と意見があってしまった。


「悩んだ時には汗を流せ、そうすればモヤモヤも洗い流せて意識がすっきりするよ」

「……わかったよ」

「わかっちゃったの!?」


 俺にはぜんぜん理解できないけど、チラリとヒカリとヨシカに視線を送ってみると、二人もわかりませんと首と手を横に振っていた。


「君達の案のどれかを選ばないと、そっちが勝手に選んでしまうんだろ、だったら戦って選択肢を増やすしかないじゃないか」

「なんか、すまん」

「いまさら謝るな、それで誰か一人を選ぶ前に君たちの強さを聞いても良いのかな、一番強そうなのは岸野さんだけど」

「私じゃないよ、最強はサトルくん」

「そうですね一番はサトルさんです」

「サトッチは世界最強だからね」


 ちょっと待ってくれ、それはレベルが下がる前の事でしょ、例えレベルがカンストしても最強になれるとは思わないけど。


「それじゃ一番弱いのは」

「現状だと、認めたくないけどサトルくんかな」

「そうですね、今のサトルさんなら、わたくしでも組み伏せられますね」

「今のサトッチなら瞬殺できちゃうんだよね、不思議だけど」


 これが上げてから落とすと呼ばれるものか、俺が一番弱いのはわかっているけど。


「君はいったい何なんだ」

「俺にもわかりません。現在はただの洞窟探検フットサル不思議研究部の部長でレベル10の影法師です」

「ただのを付けるのには肩書が長すぎるね」


 言ってから俺もそう思った。


「夷塚くん、君を相手に指名するよ」

「だよねー」


 逆の立場なら、俺も間違いなく俺を指名した。

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