第28話『異能を残す者Ⅱ』
放課後の行動が決まった。
ヨシカとタンガは病院に襲われた焼銅たちの状態を見に。
俺とヒカリは、名前が判明している二人の能力を残した者たちの様子を見に行く。
残ったメンバーは、協力して怪しい三人を見張る。
放課後になり行動開始。
これも洞窟探検フットサル不思議研究部の活動になるのだろうか。
まずは『格闘家』角森武男の学園観察。
彼は帰宅部である。学園が終わると即座に帰宅した。以上。
「えっと、どうしよっか、追いかける」
「もう一人の方を見に行こうか、彼はサッカー部だったはず、まだ学園にいると思うから」
追跡も考えたけど、ここはヒカリの提案に乗って観察が楽な方から見に行こう。
『投擲者』牧野怪摩はサッカー部。激しい動きをするので、もしかしたらスキルを使っている場面に遭遇するかもしれない。
我が
「かなりの部員数だな」
「ざっと八十人くらいはいそうだね」
ヒカリの目算によると部員数は洞窟探検フットサル不思議研究部の十倍になるのか。
各学年から運動神経抜群でスタイルの良い連中が集まっているから、女子の人気も高くただの練習なのに見学者が何人もいる。その中にクラスメートの女子もいた。
「あれれ、ヒカリに夷塚くんもサッカー部の見学にきたの、珍しい。ここはデートスポットには不向きだよ」
今朝にも話かけられた。正確にはヒカリが話かけれた。
「ちょっと用事があってね、ミノリはサッカー部のファンだったね」
「変なこと言うねヒカリ、私が練習日はいつも見学してるの知ってるでしょ」
「知ってたけど、ちょっとだけ、懐かしくなっちゃって」
「懐かしい?」
「気にしないでいいよ、私個人の感想だから」
忘れていたことを思い出すようにつぶやくヒカリに弓崖さんは首をかしげる。
異世界の記憶を残しているヒカリにとって学園での日常は一年ぶり、それまでの当たり前もすぐには思い出せない場面があるみたい。
「変なヒカリ、でも、そうだね、私も不思議な感覚を味わってるんだ」
「どんな」
「今までは
勇実って、あの勇実か。
クラスメートで女子からの人気ナンバーワンの勇実
「すっごい憧れていたはずなんだけど、なんか覚めちゃった」
「それで、いいと思うよ」
どうしてだろう。ヒカリの声のトーンが少し下がって淡泊な回答をした。この反応はもしかして、俺には思い当たる事があった。
「あの、弓崖さん。そのワクワクが無くなったのって、誘拐騒動があった後からじゃない」
「うーん、どうだったかな」
弓崖さんが顎に手を当てて考える。
「そうだったかも――そうだ、あの後からだ。勇実くんがまったくカッコよく見れなくなったの、今じゃ牧野くんの方が見ていてワクワクする」
「牧野くんって同じクラスの」
「そう、牧野怪摩くん。先週まではパッとしない雰囲気だったのに、最近はすごいキラキラでワクワクを感じさせてくれるの、ほら、あそこ」
弓崖さんが示した方角は勇実が試合形式で練習する一軍のグラウンドではなく、二軍のグラウンドだ。そこでは地味な基礎トレーニングをしていたが、一人必死に練習している人物がいた。
一軍に比べてうまくはない、でも、ものすごい集中力で練習している姿は歪ではあるけど魅力も含んでいた。初めは勇実目当てで来ていた女子の何人かもチラチラと牧野を見ている。
「牧野くんは後一か月もしない内に一軍に上がると思うんだ」
スター性があるとはこのことなのか。サッカーに詳しくなくても、うまくなっていきそうだと期待させられる。
「このくらいなら問題ないよね」
「そうだね、能力と選んだ競技の相性はよくないけど、本人がやりたいことをやるのが一番だね」
魔力は少しだけ漏れているけど、本人は気が付いていないのか、身体強化など一切せず垂れ流し状態で、ちょっと体が丈夫な一般人と変わらないレベル。
これなら問題無しと判断していいかな、牧野からは怪しい気配も感じない。その変わりなのか、一軍のグラウンドから粘りつくような気配がする。見たくはないけど元をたどってみれば、そこには勇実がいた。
あいつはギャラリーの中のヒカリを見つけたようで、アピールのため近くのサイドでドリブル突破を披露したけど、ヒカリの視線は二軍のグラウンドのままなので気が付いていない。
ご愁傷様です勇実。
さらにアピールしようと、個人プレイでシュートまで決め女子から歓声が起きるが、ヒカリは勇実を視線にも入れたくないらしく、一軍の方へは見抜きもせず、グラウンドの外に立っている木を眺めていた。
練習なのにゴールパフォーマンスまで披露しても興味なし。
大事なことだからもう一度、ご愁傷様です。
隠すこともなく勇実が隣にいる俺を睨む。
「サトルくん気が付いた、この視線」
「ああ、粘りつくような気持ち悪さがあるな」
「これに気が付けるなんて、だいぶ力が戻ったみたいだね」
なぜそこまで喜ぶ、あんなに堂々とこっちを睨んでいるんだ、能力がなくても大抵の人は気が付くと思う。
「あからさま過ぎるからな」
「あからさまかな、まあまあうまく隠してると思うけど」
「隠している?」
もしかして、話がかみ合っていない。俺は勇実の事だと思っていたけど、他に隠された視線、集中して探してみる。グラウンド内には勇実以外に嫌な視線はない、ギャラリーも特に変わった様子は感じない。もう少し、探りを拡大してみる。
すると小さな異物の気配を感じた。
これって。
「木の上からか、小さくて不思議な気配がする」
「正解、力のコントロールがうまくなってきたね」
単純だとわかっているが、ヒカリに褒められるともっと頑張りたくなってしまう。
気配をさらに詳しく探ると、翼をもった手のひらサイズの生き物か、もしかしたら魔獣かもしれない。
「これは鳥か?」
「惜しい、あれはコウモリだね」
「観察しているのは俺たちじゃない、牧野を見ているのか」
「私もそうだと思う。目的はわからないけど」
それからしばらくして、コウモリが動いた。学園の敷地の外へと飛んでいく。
「ヒカリ」
「ええ、行きましょう」
「いきなりどうしたの」
黙って練習を見ていた俺たちがいきなり走り出して混乱する弓崖さん。
「驚かせてごめん」
「ミノリまた明日」
足を止めることなく、謝罪の言葉を残してコウモリを追いかけた。落ち着いた頃にヒカリがフォローしてくれるだろう。
「あれで隠す気あるのかな二人とも、主語も無く会話して、つき合っているってバレバレじゃない」
「おい、今の話は本当なのか!」
いきなり怒気の含んだ言葉を投げかけられ、驚き振り返った弓崖が見たのは、整った容姿を歪ませる勇実であった。
「俺の質問に答えろ!」
「質問って、つき合っているかどうか?」
「それ以外にあるか、頭の悪い女だな」
弓崖は気が付いてしまった。クラスメートである自分の名前を勇実が覚えていないと、それどころかクラスメートであることすら気が付いていない。
勇実がヒカリに好意を持っていることは知っていた。弓崖はヒカリと仲が良いので、教室でヒカリと一緒にいる時など、勇実の方から話しかけてきたくせに、顔も覚えていない。
本当に何故こんな男に憧れを抱いていたのか、過去の自分を問い詰めたくなる弓崖。
そして、心の奥底から湧き上がってくる勇実への怒り。
どうして怒っているのかわからない、まるで過去に勇実の自己中心的な考えで命を落としかけたことが、あったように感じてしまう。
そんな、大バカ者に対する恨みが心の底に残っている。
「恋人ではないと、本人たちは否定してます。ただ――」
「ただ、なんだ!」
余裕の一切ない勇実、自分を見に来ているギャラリーの表情に畏怖が浮かんでいることにも気が付いていない。
「私の勘ですけど、ヒカリが夷塚くんに好意を持っているのは間違いないですね、ヒカリの親友の私が保証します」
「なんだと」
わずかに残っていた勇実への憧れも今のやり取りで完全に消え失せた弓崖は、勇実が一番聞きたくないであろう回答を保証付きでプレゼントした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます