第26話『ファンサムと人物まとめ』

サリ【それじゃ、洞窟ダンジョン探検フットサル不思議研究部が全員集合したので、ダンジョンアタックだー!!】


 ありました。現代日本にもダンジョンが、ゲームの中にだけどね。これをカウントしてOKなら、どんな異世界よりも地球の方がダンジョンの数が多いに違いない。


ゴールディー【どうしましたルトサ】

サム【いや、まさかみんながファンサムを付き合ってくれるなんて予想外過ぎて】

ゴールディー【そこまで予想外でしょうか、ルトサと遊ぶためなら、みなさんゲームくらい始めるのです】


 初日の部活が終わった日の夜。

 部員全員が、ファンタスィ・オブ・サムデイの中で合流した。


タンガ【まだレベル1だからレベリングに付き合ってくれ】


 昨日は参加していなかった。サリ、ゴールディーことレンサクにタンガ、実名をアバター名にしているメンバーは初心者だとすぐにわかる。


「それにしても、向こうの世界で獲得したジョブに近いアバターをみんな作ってるんだな」


 まだまだ思い出せない事がたくさんあるけど、このメンバーの事は記憶の断片とみんなの話を繋ぎ合わせて、大枠は理解できて来た。

 今は初心者メンバーのレベリング中なので、経験者組はわりと手が空いている。この時間を使って、異世界で獲得した皆のジョブを手書きのノートにまとめてみた。


 まずは自分自身。


■夷塚悟・ジョブ「影法師シャドウソーサラー」

 影を操るスキルと刀を使ったスピード主体の戦闘スタイルを取っていた。

 刀の技はファンサムで使っていたアバターサムのジョブが侍であったことから、ゲーム知識と影スキルと合わせることでゲーム内での流派「影新陰流剣術」を再現して戦闘していた、らしい。


「俺の考えそうな事だな、影スキルで姿を隠したり相手の動きを封じて素早く刀で斬っていたんだろう」


 俺は向こうでいくつもの新スキルを生み出していたらしい。元ネタは間違いなくファンサムだ。


■岸野陽花里・ジョブ「極光聖騎士シャイニング・ロード・パラディン」

 ジョブの正式名称がすごい、レベルアップを繰り返し、何度もランクアップして最終到達点が極光聖騎士。光属性のスキルや魔法を使いこなし、全力移動は光速を超えるとか、もっともレンサクが制作した専用の武器防具を装備しないと全力は出さないらしい。理由は教えてくれなかった。自分で思い出してだそうだ。


「もう肩書は勇者より強そうだよな、全力状態は髪が金色になるって昔あったバトル漫画ぽい」



■青磁芳香・ジョブ「大鹿の聖女ディアナ・セイントス」

 あの世界では白き大鹿が聖なる獣、聖獣であったらしく、人で唯一力を借り受けることができたヨシカが聖女から大鹿の聖女とランクアップした。それまでは回復やサポートの魔法やスキルしか使えなったヨシカが、鹿型の眷属を召喚できるようになり、個人での攻撃力も獲得したオールラウンダー聖女。


「接近戦以外は苦手が無いって、すご過ぎ」



■真帆津紗里・ジョブ「先鋒魔法師ストライカー・メイガス」

 後方で魔法を撃つ、魔法使いのジョブが性格に合わなかったサリは、俺のアドバイスで新しい戦闘方法を編み出し、新しいジョブまで作ってしまった。ジョブ鑑定にはハッキリと先鋒魔導士と表示される。魔法を蹴り飛ばし最前線で暴れる異世界唯一の前衛型魔法使い。


「アドバイスをしたことは少しだけ思い出したけど、あれだけのヒントで、ここまで成長できるとは、流石はサリ、マンガを読んだだけで推理力が上がった女」



■伊賀野帆影・ジョブ「忍術皆伝者ニンジャ・マスター」

 俺は影のスキルを剣術と融合させ影新陰流剣術を作ったが、ホカゲは影のスキルと忍術を合わせて影伊賀野流忍術を編み出したそうだ。彼女が仲間になったのは一番後らしく、一緒に行動した時間が短いからか、思い出した記憶の断片には残念ながらまだ登場していない。


「一番驚いたのは、異世界へ行く前からファンサムで一緒に遊んでいたシャドウさんがホカゲだったことだな」



■盾崎丹狗・ジョブ「森林要塞グラス・シェルター」

 大盾使いからランクアップしていき、最後は要塞になった男。もうジョブが人間を表現していないくらい、とにかく硬い。その代わり攻撃スキルが極端に少なく、片手の指よりも少ないとか、いつもレンサクの作ったアイテムなどで攻撃力不足を補っている。


「装備者は必ず命を落とすグラスイージスを使って唯一生き残った男、くやしいが、この肩書はかっこいいと思ってしまう」



■金築錬作・ジョブ「黄金の錬金術師ゴールデン・アルケミスト」

 道端の石を黄金に変えた錬金術師。戦闘技能は一切持っていないが、生み出した数々の道具や薬で仲間たちをサポート。最終決戦にて使用した武器防具は全てレンサクの制作物である。ただ、最初に石を金に変えた時、詐欺師呼ばわりされて捕まりかけた過去がある。


「うっすらだけど、記憶の断片によるとヒカリの次に仲間になったのってレンサクだったらしい、つまり、一番最初に仲間になったのはヒカリってことだよな、まだどうやって一緒に行動するようになったのか、切欠が思い出せない」



■刻時賢二・ジョブ「時空の賢者クロノス・ワイズマン」

 俺たちパーティーの頭脳担当。触ったものを何でも解析できるチートスキルを有して、異世界から人を呼び寄せる召喚の魔法陣すら解析した男。意思がある者を解析鑑定するには許可がいるそうだが、それでもすごい。ただ体力がパーティー内で断トツに低かったのでダンジョン探索などは一緒に来てくれなかった。来てくれたら罠の解除とか楽だったのにとサリがよくボヤいていた、らしい。


「部室で俺のレベルが下がった事が判明したのも、この鑑定スキルのおかげなんだよな、レベルが下がった俺と下がっていないケンジは、はたしてどっちが体力最下位の地位についたのか」



 メンバー全員、一通り書き出してみた。

 みんなジョブの名前が中二まっしぐらだな。剣と魔法の世界なら許容できるかもだけど、現代社会でこのジョブは絶対に名乗りたくない。


 でも。


「少しだけだけど新しいことが思い出せた。書き出すだけでも記憶の断片が戻ってくるのか」


 よし、明日から日記形式で思い出したことを書き出していこう。


サリ【おーい、ボス部屋の前に到着したよ、ベテラン組も合流してボス戦しよう。わたしのファイヤーボールシュートが唸るよ!!】

タンガ【そんな魔法は存在しねェ、だいたい魔法使いの癖にタンクの俺より前にでるなよ、カバーしきれねえだろ!】

サリ【そこは根性でよろしく、それよりベテラン組、早く来い!】


 ちょうど書いていた内容がまとまった所で、サリからお呼びがかかった。

 そういえば、向こうの世界でもサリはダンジョンアタックを楽しんでいた。部活名の最初に洞窟探検と付けた理由に合点がいった。


ゴールディー【あれは魔法使いの皮をかぶった格闘家なのです。どうしてあの敏捷値で攻撃を全て回避できるのですか】

ヒカリ【騎士の私よりダメージが少ない】

ヨシカ【ヒカリさん、私たちはまだ初心者なのですから、練習あるのみです】


 会話が飛び交うパーティーチャットなんて二度とないと思っていた。


サム【シャドウさん、楽しいですね】

シャドウ【同意】


 ギルドメンバーが二人となり、殆ど会話のなかったチャットがたくさんの文字で埋められていく、それだけでもたまらなく嬉しい。このままサービス終了まで、わいわいできたらいいな。




 サトルたちが、わいわいしながらファンサムを楽しんでいるのと同時刻。

 以前に屋上でサトルに絡んできた不良たちが正体の分からない何者かに追われていた。


「いったい誰なんだ!」

「知るか、とにかく逃げるぞ」


 不良たちは二手に分かれて逃げる。

 二人は赤信号を無視して道の反対側に、別の二人は細い路地へと逃げ込んだ。


 追跡者は数秒思案して、近くに置かれていた青いゴミ箱を片手で持ち上げる。中にはゴミが満載で十数キロはあるそれを、まるで重さを感じさせることなく、路地へ逃げ込んだ不良たちの前方を塞ぐ形で投げ込んだ。


「なんだよそれ」

「テメェ、俺たちに恨みでもあるのか!」


 進路をゴミ箱で遮られ、足を止めてしまう二人の不良。

 その背後には、音もなく追跡者が立っていた。


「恨みは当然ある。さんざんイジメてくれたじゃないか」

「お前もしかして、同じクラスの」

「ようやく気がついた、でも、もうどうでもいいや、そんなことより、この力の実験台になってよ」


 路地裏から二人の不良の悲鳴が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る