第25話『洞窟探検フットサル不思議研究部Ⅲ』

 異世界の力を残している者たちがいる。者たちってことは複数いるのか。


「教室で、私たち以外の魔力を感じる気がしてたけど、やっぱりいたんだ」

「昨日までは微かにでしたが、今日ははっきりと感じ取ることができました。人数は最低でも四人です」


 ヒカリはなんとなく、ヨシカははっきりと探知できたようだ。俺にはぜんぜん感じ取れませんでしたが。


「そいつらは記憶は残していないのか」

「残していないだろう」


 タンガの疑問は俺も思っていた。ここの七人以外にも記憶を残し、力を持ったまま帰ってきたクラスメートはいるんじゃないかと、しかし、ケンジは記憶に関してきっぱりと否定する。


「記憶を残していれば、私たち八人の誰かには必ず接触してくるはずだ。特にサトルに接触してこなければおかしい」


 それはどうしてでしょうか。


「ごく一部の愚か者を除いて、お前はクラスの連中の命を一度は救っている」

「マジで?」


 信じられないんですけど。

 ヒカリやヨシカが頷くことで肯定、異世界で俺は何をやっていたんだ。


「お前に対する態度を見ていれば記憶の有る無しは判断できる。親友である俺にはな」


 そこで親友を強調しなくてもいいです。

 ここで進行役がケンジからヨシカへとバトンタッチした。聖女であるヨシカがメンバーの中で一番魔力探知に優れており、力を残した者の捜査をまとめていてくれたらしい。


「わたくしが探知できた魔力は、ここにいるメンバーを除いて四人です。レンサクさんの方はどうでしたか」

「僕の仕掛けた計測機にも十二人分の魔力反応がありました。ヨシカ嬢の探知結果と同じです」


 俺の知らない所でみんなはそんな事もしていたのか。


「ありがとうレンサクさん、クラスに四人いると判明したわけですが、特定までできたのは、その内の二人だけです。紙に印刷しますと、万が一の場合がありますので魔道具で映します」

「お任せなのです。こんなこともあろうかとパートツーなのであります」


 レンサクが自分のカバンから、明らかにカバンよりも大きい映写機を取り出した。その映写機はコンセントも差さずに起動する。

 すると黒板にクラス全員の写真と名前が映しだされた。


「知っての通りクラスは全員で四十二名、わたくしたちを除くと三十四名、この中の四人が異世界より力を残したまま帰還しました。そして判明した二人は」


 生徒の写真が二人を残して暗くなる。


『出席番号8・角森かくもり武男たけお・男子・ジョブ「格闘家」』

『出席番号36・牧野まきの怪摩かいま・男子・ジョブ「投擲者」』


「この二人になります」


 今まで思い出した記憶の断片にこの二人は登場していない。角森は高身長だけど細身だったはず、とても格闘家には見えない。牧野の投擲者ってジョブは物を投げるのに特化したジョブになるのか、あいつは確かサッカー部に所属していたと思うけど、野球部だったら活躍できそうなのに。


「格闘家に投擲者か、この二人は向こうの世界ではまともな行動を取っていたな」

「まともって」

「向こうの世界でジョブをもらったクラスメートは、二つの傾向があった。一つは強力な力を得ても自分を律することができた者たち、こっちがまともな連中。もう一つは得た力に溺れ暴走した、たわけどもだ」


 ケンジの説明は棘が強い。暴走した連中はきっといろいろとやらかしたのだろう。


「力を持っていても悪用しなければ今のところ問題は無いと思います。わたくし達も持っていますから。問題なのは、まだ判明していない二人です。一人は確実に異世界の力を悪用しています」

「誰かわかっていないのに、ヨシカは断言できる根拠があるのか」


 あまりにもはっきり言い切るので質問をしてしまった。


「はい、サトルさんとヒカリさんを襲ったグレイウルフは異世界の魔物、この世界にはいるはずのない存在です」

「あのグレイウルフは明確にサトルくんを狙ってた。間違いなく指示を出した人がいる」

「候補は召喚士のジョブを持つ生徒になりますか」


 レンサクが映写機を操作して召喚士のジョブを持つ生徒をピックアップ、複数いるのか。


「調教師もありえるんじゃねえか、次元の穴から落ちてきたグレイウルフを捕まえるとかしてよ」


 次元の穴ってそんなに頻繁に開くモノなのか。

 さらにピックアップされる生徒が増える。


「可能性は低いが完全否定はできんな、最有力は召喚士だが調教師に催眠術師、あとは薬師もグレイウルフを操ることは可能だ。他にもジョブのスキルを変則的に用いることで、操るまでは出来なくとも、サトルにけしかける位はできるかもしれん」


 さらにさらにピックアップされる生徒が増え、クラスの半分以上が明るくなった。

 これはもう、意味がないのでは。


「ようするに、まだ何もわからないわけか」

「そんなことは無いよサトッチ、犯人の候補はある程度絞り込めます」


 帽子をかぶってもいないのに、かぶりなおすポーズはあの主人公が使っていた。


「さてはサリ、学園名探偵ポリスを読んでるな」

「単行本が出てるところまでは全部読破したよ、帰ってきた次の日が休みで時間あったし」

「たった一日で読み切ったのか、全部で二十巻もあるのに」

「向こうでサトッチにオススメされたからね、古本屋に全巻まとめ売りがあって助かったよ」


 俺がオススメしたのか、確かに好きなマンガはと聞かれたら、今なら学園名探偵ポリスと答えていただろう。少ない小遣いで集めている数少ないマンガなのだ。


「あの、サトルさん、わたくしも父からマンガを読む許可をいただけたので、もしよろしければ貸していただけませんか」

「もちろん良いよ、明日一巻から三巻まで持ってくるから読んでみて、面白かったら続きも貸すから」

「ありがとうございます。楽しみです」


 好きなマンガは広めたい。マンガ好きならだいたいの人が思っていることじゃないかな、同好の士を増やしたい、そして語り合いたい。


「サトルくん、ヨシカが終わったら私にも貸して」

「私も読んでみたい」


 ヒカリとホカゲも読みたいと言ってくれた。いいですともどんどん布教活動します。


「だったら全巻この部室に置いておこうか、ホントにオススメだから」


 学園名探偵ポリス。刑事の父と探偵の母との間に生まれた主人公は自分には推理の才能があると信じ、学園で起こる難事件や珍事件に挑むも、ヒロインの推理力には及ばず敗北の連続。いつかヒロインに推理対決で勝ちたいと奮起するが、実は主人公ががんばって集めた証拠をヒロインが繋ぎ合わせて謎を解いていた。対決モノと見せかけたコンビモノの推理漫画である。


「おい、いい加減、話が逸れすぎてないか」


 なんと、いつも一番授業を聞いていないタンガに注意されてしまった。


「すみませんでした。話を戻します。サリさん、候補が絞りこめるのですか」

「ポリスを読んであたしの推理力は格段に成長しているからね。事件が起こったのは、サトッチがヒカッチを呼び出した体育館裏、つまり二人がそこで合うことに反感を持っていて、さらにサトッチをターゲットにした事から、犯人はヒカッチの事が好きな男子の可能性が高いよね」

「なるほど、筋は通っているな」

「さらに、男子の何人かは体育館裏へ向かうサトッチを尾行して告白を邪魔しようとした」


 告白ではない、それにあれは尾行なんて上等な追跡ではなかった、最終的に三十人以上にはなっていたけど、その中でクラスメートは。


「あの集団にいたクラスメートは七人なのです」


 レンサクが映写機がた魔道具を操作して七人の男子をピックアップする。


「ああ、確かこいつらだった」

「レンサッチこの中で、召喚士や調教師に催眠術師だっけ、クロッチが言っていたグレイウルフを操つる可能性のあるジョブの人はいる」


 七人から三人に絞られた。


「お手柄だ、この人数なら行動を見張ることができる。まさか、あのサリが頭脳を使うとは」

「ちょっとクロッチ、あのサリってどう言う意味よ!」

「そのままの意味だ、サトルもサリを褒めてやれ」


 怒るサリをこっちに回してきやがった。


「落ち着いてサリ、ポリス同好の士の推理が見られて感動した、すごかったぞ」

「え、ホントに、それはサトッチがオススメしてくれたおかげだよ」


 怒りを収めるのに成功してよかった。


「これで明日からの行動方針が決まったな、まずはこの三人の中に犯人がいるかどうかを探るぞ。だが、サトルとヒカリは接触を避けた方がいいな」

「そうですね、サトルさんとヒカリさんは、判明している角森さんと牧野さんの様子を見に行ってもらえますか」

「様子を見に行くのはいいけど、もし力を悪用していたらどうするんだ」

「あまりやりたくはありませんが、スキルの封印と記憶の消去をするしかありませんね、スキルや魔法を悪用すれば大惨事は確実ですから」


 あの優しさが服を着ているようなヨシカが記憶の消去なんて物騒なことを口にした。それを俺以外のメンバーは驚いてもいないし反対もしていない。

 ここまで言い切らせてしまう何かが向こうの世界であったんだ。実際に大惨事を起こしたクラスメートもいたに違いない。皆から後悔や憤りが強く感じ取れる。

 部室全体が暗い雰囲気になってしまった。


「行動方針が決まったんだから、気持ちを切り替えよう」


 そんな暗さを破ったのはヒカリだった。

 明るい声で闇を払う。


「ここで暗くなっても現実は変わらないんだから、今日の夜はみんな集まれるんだよね、そこで楽しく遊んで、明日から頑張ろう」

「あの岸野さん」

「ムゥ」

「あ、ヒカリ、今日の夜集まるって、どこに」


 ヒカリが頬を膨らませてしまった。ついまた岸野さんと呼んでしまった。慌てて言い直したらいつもの顔に戻ってくれたけど。


「サトルくん、もしかして気が付いてなかった、昨日一緒にファンサムをプレイしていたの私たちだよ」


 なんだってー。


 もしかしてとは、思ったけど、本当にヒカリたちだったのか。


「じゃあ、シャドウさんって」

「私、サムってずっと呼んでいたのに気が付かなかった」

「気が付きませんでした」


 思い返せば気が付くチャンスはいくらでもあった。くそー、ポリスを読んでいても俺の推理力は一切向上していないことが判明。


「あと、サトルくんの家は強力な結界が二重に張ってあるし、ガードゴーレムがいるから夜に襲撃される心配はないよ」


 本当に知らない所で、いろいろやってくれていたんだな、この感謝を皆にどうやって伝えたらいいのかわからない。


「ありがとう。みんな」


 今はお礼の言葉しか出せないけど、いつか必ず。この恩には報いたい。

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