第24話『洞窟探検フットサル不思議研究部Ⅱ』
「こんなこともあろうかと、ルトサのために特性の魔力回復ポーションVXを開発しておいたのです」
上着を開いて見せる金築、そこには赤紫色に発光する不気味な薬品が収まっていた。
「さあ、ルトサ、一気に飲み干してください」
栄養ドリンクよりも二回りほど大きなビン。
金築のひと肌で温められていたそれは、ビン自体が生ぬるかった。
「ホントに飲んで大丈夫な薬なのか」
ありがとう盾崎、俺の気持ちを代弁してくれて、君の言葉に救いが見出せるなんて、今まで思いもしなかった。
「僕が作った薬ですよ、ルトサは相棒である僕の作品を疑うわけありませんよね」
いや、めちゃくちゃ疑っていますけど。
「鑑定してみたが、確かに魔力回復のポーションだ」
「毒などの反応はありませんね」
賢者ケンジが薬の効力を証明、聖女ヨシカが毒はないと断言。きっと記憶を無くす前の俺なら二人のことを信じていたはずだ。
俺は恐る恐るビンの蓋をあけてみた。
鼻を突き刺すような、強烈な激臭。
「実はこんなに早く使うことになるとは思っていなくて、匂いはまだ改良の余地を残しています」
「テメェ、さっきこんなこともあろうかとって自信満々に言ってやがったろ」
「うるさいのです不良タンク。職人としてはいつか使ってみたかったセリフなのです。いいじゃありませんか効力だけは保障するのですから」
飲む気が無くなるから喧嘩はやめて欲しい。
「サトルくん、こっちの世界は平和なんだから無理してまで、魔力を戻さなくても」
岸野さんが俺を心配してくれている。でもさっきは一緒にレベリングしようって誘ってくれてましたよね。つまり、異世界の力をそのまま残している岸野さんでも危険を感じる薬なのかこれは。
だが、好きな女の子に心配されれば張り切るのが男なんです。それにさっきはグレイウルフにも襲われた、こっちの世界だって絶対安全ではないと理解させられた。
俺は決意を固める。
「飲むぞ!」
気合を入れて、ビンの中身を飲み干した。
猛烈な苦み、熱くないのに喉が焼けるような痛み、逆流しそうになるのを根性で抑え込み、飲み込んだ。
すると、腹の下あたりが暖かくなってきて、全身を不思議な力が駆け回る。
この力が魔力だ。
自然と理解できた。
俺は記憶にある中で、一番簡単な影属性のスキル『
「できた」
朝はできなかった。影操作、壁に映した狐の影を動かすことができた。影芸は自身の影を動かすだけで物質に干渉はできない。本当に影を動かすだけのスキル。
異世界にてジョブを鑑定された直後は、このスキルしか使えなかったので、かなり馬鹿にされた。役立たず扱いされ、何人かの男子にスキルや魔法の的にされたんだった。
「また、新しい記憶の断片を思い出したのか」
「ジョブ鑑定直後のことを思い出した。スキルの的にされて、そうだ、その時、岸野さんと青磁さんに助けてもらったんだ」
「あの時はビックリしたよ、力を手に入れた男子が浮かれすぎていて」
「とても見ていられませんでした」
二人には感謝しかないです。もし二人が助けてくれなかったら、俺はあの時に死んでいたかもしれない。それが悔しくて影法師のスキルを鍛えたんだ。
なんとなく、思い出した。
俺は影を操ることしかできなかった。だから影に魔力を流し込んで実体を持たせる技を自分で編み出したんだ。
「影法師スキル『影縄』」
影に実体を持たせ、縄状にするスキル。けっこう自由に動かせるので敵を拘束したり、物を引き寄せるのに重宝していた。
影縄を伸ばし、パイプ椅子を引きずってみる。
いい感じだ、思う通りに影を操れる。体の内側から大量の魔力が溢れてくるので、もっと重たい物でも持ち上げられそうだ。今度は長机を持ち上げてみようと、魔力の出力を上げたら両方の鼻の穴から鼻血が噴き出した。
頭がフワっとなって意識が遠のいていく。
「ちょっと、サトルくん⁉」
岸野さんや青磁さんの叫びが聞こえるけど、もう意識が闇に落ちていくことに抗えなかった。
やわらかい感触を後頭部に感じて目を覚ます。
「よかった、サトルくん目が覚めた。痛い所とかある」
覗き込んでくる岸野さんの顔がとても近く、そして逆さ。後頭部の枕と総合して考えると、これはまさかの、膝枕なのか。
確認の為に、ガバっと起き上がって確かめる。
床に膝を折り曲げて座る岸野さん、間違いなく俺は膝枕をされていた。そして後悔、どうして俺は勢いよく起き上がってしまったんだ。
「大丈夫、頭が痛いの」
頭を抱えた姿勢に、頭が痛いのかと誤解されてしまった。
「いや、大丈夫、痛くない、ちょっとふらふらするくらいかな」
「それは魔力酔いだ、急激に増加した魔力といきなり出力の強いスキルを使用しようとした影響で脳や体がついていけなかったのだろう」
「魔力回復ポーションVXは効き目がありすぎました。ルトサの為に最高性能にしたのがアダとなるとは僕としたことが不覚です」
「これからはいきなり強力な力を使うな、初級のスキルで体を慣らしていけ」
「了解です」
そうだ、ここは部室で、いるのは俺と岸野さんだけじゃない、よかったすぐに起き上がって、ずっと膝枕をされていたら、想像するだけで悶えそうだ。
「はい、サトルさんこちらを」
青磁さんが俺の上着を差し出してくる。ああ、鼻血が付いた上着を洗ってくれたんだ。
「ありがとう青磁さん」
「どういたしまして」
「さて、部活の名前やサトルの鼻血など、いろいろ予定外なことが起こり、時間を取られたがここに集まった本題に入るぞ」
そうだった。俺もここには異世界について知るためにやってきたんだ。
「まず、サトルに記憶の断片ではあるが思い出し回復の兆しが見えたことは何よりの朗報だ。よって、サトルの記憶を取り戻すことを我が部の最優先事項とする。異論は」
「あるわけないよ」
「その通りです」
声を出したのは岸野さんと青磁さんだけだが、他のメンバーも反対することなく頷いている。
「とてもありがたいけど、いいのか」
「無論だ、何故なら、この洞窟探検なんちゃら部は」
「
「不思議研究部でいいだろう」
あくまでも、正式名称をフルで言う気のない刻時。
「この部活はなサトル、お前を中心に集まった仲間が学園で気兼ねなく集まれる場所を作るために結成された部活だ、だからお前が記憶をそして力を取り戻したいと願うなら、俺たちは全力で協力しよう」
刻時の言葉に六人が大きく頷く。
やばい、ちょっとウルっと来てしまった。
「ありがとう」
「水臭いよサトルくん、私たちの仲じゃない」
まだ思い出せてはいない。だけど、いつか岸野さんやみんなと旅した異世界の事を全て思い出したいと、いや、思い出すと心の中で強く誓った。
「そして部長はサトルだ」
「「「「「「異議なし」」」」」」
六人がキレイに声を揃えた。
「ちょっと待ってくれないか!!」
「何か問題があるか部長」
「俺は記憶を無くしたままだし、レベルも下がって力も俺が一番弱い、それなのにどうして俺が部長なんだ」
「さっきも言っただろ、ここはお前を中心として集まった仲間だからだ」
もしかして記憶が無いことをいいことに、部長を押し付けていないか。
「部活名がまともだったら刻時が部長をやっていただろ」
「フッ、そんなわけないだろ」
鼻で笑って流しやがった。
「それでは記念すべき第一回目の活動は『部長が部員全員の名前を呼び捨てにする訓練』だ」
「「「「「「それも異議なし!!」」」」」」
またもやキレイなハモリ、女性陣の返事に気合を感じたのは気のせいだよね。
部員全員って、岸野さんや青磁さんを呼び捨てにしろってこと、それは一回目でするにはハードルが高過ぎだぞ。
「一人目はヒカリだ」
「はい」
刻時に指名された岸野さんがススっと俺の前へ進み出る。
いきなりの最難関問題がキターーー!!。
「やっぱり、ダメかな」
「いや、ダメじゃないけど心の準備が」
あれ、このセリフ、以前にも岸野さんに言った気がする。
「ちょっとタイムだ」
後ろからいきなり、盾崎が俺の肩に腕を回してきた。そのまま部室の隅へと連れていかれる。
「サトルよー、お前がヒカリを呼び捨てにできないのは、なんとなく理解できるが、向こうの世界でもお前はヒカリだけ苗字で呼び続けて、けっこう悲しませてたんだぞ」
なんだって、記憶の断片での俺はけっこう勇気を持って行動している場面が多かったのに、やっぱり異世界に行っても俺は俺なのか。
でも、そうか、悲しませていたのか。
「ここが男の見せ所だ、男になれ兄弟」
盾崎、さっきの『ここは任せて先に行け』からずっと、かっこ良すぎないか。
だが、わかったよ兄弟。
岸野さんを悲しませないためにも、名前ぐらい呼んでやる。
俺は彼女の前へと戻ってきた。
部員全員の視線が集中して、とても居心地が悪いんですけど、今は意識の外へ追い出せ、目の前の岸野さんだけに集中しろ、彼女を悲しませるな、喜ばすんだ。
魔力じゃない、なけなしの勇気よ湧いてくれ。
「これから、あらためてよろしくヒカリ」
「うん、よろしくねサトルくん」
満開の桜のような笑顔、勇気を出してよかった。まだ油断すると岸野さんって呼んでしまいそうなので気を付けないとな。
岸野さん改めヒカリと呼ぶ難問を突破したことにより、他のメンバーの呼び捨ては男子はすんなりできて、サリは最初っからフレンドリーだったので苦労はなかった、ヨシカもヒカリほどじゃないけど難問だったが突破、最後に接点の殆どなかったホカゲもハラハラしたけどクリアできて全員コンプリート。
「たかが名前を呼ぶだけで手間をかけさせてくれる」
俺にとっては簡単なことじゃなかったんだ。
「さて、楽しい部活動の後は嫌な話題が一つある」
クイっとメガネに指をかけた刻時改めケンジから和やかな雰囲気が消えた。
「クラスの中に、異世界で身に着けた力を、力だけを残している者たちがいる」
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