第13話『記憶を残す者たちⅢ』
「ご苦労だったな」
「お疲れ様、二人とも今日はありがとね」
「もっと労え、ホントに苦労したぜ」
放課後、学園近くのアーケード街にある昭和レトロを感じさせる喫茶店でホカゲとタンガは先に来ていたヒカリとケンジに合流する。
「レッドオーガごとき、お前たちの敵ではないだろう」
「その後の片付けが大変だったんだ」
椅子にどっかりと腰を落としたタンガはジンジャエールを、音もなく座ったホカゲがコーラフロートを注文した。
先に来ていたヒカリの前には砂糖とミルクを入れたコーヒーが、ケンジの前には半分ほど無くなっているジャンボチョコパフェが置かれていた。
「これ、今日授業出られなかった分のノート取っておいたから」
「ありがとうヒカリ」
「律儀だな、俺が真面目に勉強なんてすると思うか、一応礼は言っておくけどよ」
素直にお礼を述べるホカゲと悪態をつきながらも礼を言うタンガ。
「これも、忘れる前に二人に渡しておく」
ケンジが胸ポケットから取り出した茶封筒を置かれたノートの上にそれぞれ乗せる。
「なんだこれは」
茶封筒を一瞥したタンガがケンジを睨んだ。
「確認すればすぐにわかることだが、金だ」
「いらねぇって前に言ったはずだが」
異世界から帰還する時、悪魔王討伐で得た報奨金をケンジは賢者の力を使いこちらの世界に持ち帰っていた。正確にはこちらの世界で換金できる貴金属や金塊を中心に持ち帰っていた。
それを芸能人である両親のコネを使い、一部を現金化、仲間に分配しようとしたのだが、悪魔王討伐の報奨金なら一番受け取らなければいけない男が受け取れていないので辞退すると誰も受け取らなかった。
唯一、向こうの世界で体がかなり成長したサリだけは、衣服、下着を含め全て買い替える必要に迫られ、衣服代だけをしぶしぶ持って行った。もっともそのお金はナイフを砕いた不良に渡してしまったので、ケンジはこっそりと追加分をサリのカバンの中に賢者のスキルで転送しておいた。
「勘違いするな、これは悪魔王の報奨金ではない、今日のレッドオーガの討伐金だ、向こうにいたときでも魔物を倒せば討伐金を貰っていただろ。今回の討伐にアイツは関わっていないのだから、断る理由にはできないぞ」
「お題目が変わっただけじゃないのか」
「安心しろ、悪魔王の報奨金には手を付けていない、これは俺がパーティーの運営資金として預かっていた金塊を換金したものだ。労働には対価を、これが私の労い方だ、知っているだろ」
「チィ」
舌打ちしながら茶封筒を受け取るタンガ、ホカゲの前の封筒はいつの間にかノートと一緒に消えていた。
「どうしてお金を受け取る奴が不機嫌になる。これでサトルへの返済も終わるだろ」
「うるせぇ」
「サムは」
ケンジとタンガの会話が一段落した所でホカゲが口を開いた。
「あそこのゲームセンターの中、三階でレンサクくんとゲームやってるみたい」
「楽しそう?」
「とても熱中してるって、レンサクくんから連絡きたよ」
「よかった」
「油断はできん、次元の歪みがまだ続いている。サトルへのマーキングも消えていない。またあいつをターゲットにして向こうで手に負えない魔物が送られてくる可能性はかなり高い、本当に腹立たしいことだ」
「もう二度と、サトルくんを失わせない」
「私はサムの影、サムは私が守る」
「気負いすぎるな、ちょうどヨシカから連絡がきた。結界の杭の祝福に成功したらしい、これで家にいる時のサトルの安全は確保できる」
結界の杭とは、杭を差した地点を起点に名の通り結界を張る道具である。
錬金術師であるレンサクが結界の杭を制作、それを聖女であるヨシカが祝福を与え能力を強化することで聖なる結界を張ることができる。
「それでサトルくんは安全になるの」
「杭を起点に半径一キロは安全になるだろう」
「たったの一キロかよ、たくさん作れないのか」
「残念なことに、材料に向こうの世界特有の希少素材を使っている。一本で在庫は使い切ってしまった」
「サムを一キロ圏内に押し込めるのは反対、サムは自由に生きるべき」
「当然だ、杭を差す場所はあいつの自宅にすれば、ギリギリ日時計公園も結界の範囲内になる。その外は俺たちで護衛すればいいだろう」
「護衛は私の仕事」
「わかっている。だが一人では限界がある。メインはホカゲで問題ないが俺たちもサポートするぞ」
「わかってる。一人で頑張りすぎない、協力は大事ってサムから何度も言われた」
「変わったな貴様も、杭はヒカリがヨシカと一緒に設置に行ってくれ」
「任せて」
「杭は日の出と同時に刺してくれ、大地に太陽の光があたった直後が一番効力を発揮する」
「日の出の時間って、けっこう朝早いよね」
「この時期なら五時半前後、光に関してはお前が一番的確に判断ができるだろう」
「朝の五時半か、サトルくんの家に朝の五時半、わかった、これもサトルくんのため頑張る」
ヒカリは少し心配になった。それは朝早くに起きられるか、ではなく。そんな早朝にサトルに内緒でサトルの家の敷地内に入らなければならないことである。母親との二人暮らしとは聞いている。
もし、サトルの母親と遭遇してしまうと、どう反応していいかわからない、と考えてしまったからだ。ヒカリとしては母親との対面はサトルに家に招待してもらい、ちゃんと紹介してもらいたいと願望を抱いている。
「レンサクから重要な報告だ、どうやらあいつは、ファンタスィ・オブ・サムデイを一緒にプレイしてくれる仲間を探してるらしい」
「ファンタジーオブサムデイ?」
「ファンタスィ・オブ・サムデイだ、まあ名前など今はいい、ネット回線を使ったオンラインゲームで一緒に遊んでくれるメンバーを募集ということだ」
「その通り、今のメンバーは私とサムしかいない、二人だと戦力が足りなくてグランドストーリーがクリアできない」
「ホカゲさん知ってるの⁉」
「向こうに飛ばされる前からサムと遊んでいた、サムの中身がサムと知ったのは向こうでだけど」
「えっと、つまりそのゲームなら家でもサトルくんと遊べると」
「その通り」
「はい、やります。わたしもファンタスィ・オブ・サムデイやります」
「チィ、俺はこのあとバイトなんだよ、明日から合流するぜ」
「お前もやるのか」
「当たり前だろ、命懸けで帰ってきたんだ、兄弟と全力で遊び倒す。誰にも邪魔はさせねぇ、それが例え世界が相手でもな」
『あたしもやる!!』
ヒカリとタンガに続きヒカリのスマホのスピーカーから参加を表明する元気のいい声が聞こえてくる。話し合いを聞くために、この場にいないサリもヒカリと通話状態になっていた。
「部活の件はどうなった」
『バッチリうまくいったよ、明日には部室がもらえるって』
とある目的のため、サリは新しい部活立ち上げ申請をしていた。その結果は良好。
「よくやった、褒美に今日これからの護衛はお前にやらせてやろう」
『それご褒美になるの?』
「いやならヒカリかホカゲに頼むが」
「わかったわ、護衛は私がするね」
「いや、サムの護衛は本来私の仕事」
『ウソウソ、ウソだよ、サトッチの護衛は私が引き受けます。今から全力ダッシュで向かうね!』
「人をひくなよ」
『ひかないよ!!』
暗にサリの全力ダッシュはトラックよりも怖いと比喩するタンガに全力ツッコミ。
お客が少ないとはいえ、けっこうな音量で響くサリの声、しかし、ケンジの張った遮音結界のおかげで気にするものは誰もいなかった。
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