第12話『記憶を残す者たちⅡ』

 罠を仕掛けて十五分ほどして、要請した増援がやってきた。


「よう、待たせたか」

「問題無い、奴らはまだ出てきていない」


 やってきたのは、緑のバイクに乗るタンガである。


「そこそこ大物の気配だな」

「先に出てきたのがゴブリン、その次だからおそらくオーガ系の魔物」

「俺にとって最高に相性のいいカモだな」


 二人の会話中にも亀裂がどんどんと広がり、窓ガラスを突き破るように巨大な腕が出現する。


「やっぱりオーガ系」


 空間自体を強引にこじ開け赤い体の巨大鬼が姿を現した。そしてその巨大な赤鬼に率いられ、十匹近いゴブリンがわらわらと亀裂から溢れ出てくる。


「上位種のレッドオーガか」


 見た目通りの巨大な肉体からくり出すパワーは石の城壁を打ち破り、魔力で覆われた表皮は並の武器ではかすり傷一つつけられない。砦に立てこもった一個騎士団をたった一匹で壊滅させたこともあると、ホカゲは向こうの世界で聞いたことがある。


「レッドオーガは俺が抑える」

「その間に私が取り巻きのゴブリンをしとめて」

「最後は二人でコイツを袋にするぞ!」

「承知」


 ホカゲは目に捉えられない速度で駆け出した。ゴブリン達の後ろへ回り込み、最後尾のゴブリンからしとめ始める。


「そこのデカいのはこっちにこいよ、相手してやるから、こいグラスイージス」


 呼びかけに答えバイクのボディその緑色のパーツが全て外れて浮かび上がり、タンガの前で融合して一つの盾となる。

 グラスイージス、大樹の盾とも呼ばれるタンガの190センチオーバーの身体も覆い隠せるほどの大盾。

 使用者の生命力をエネルギーに変換してとてつもない防御力を生み出すのだが、生命力を吸われた使用者はもれなく亡くなっていた。


 しかしタンガは超光合成という。生命力を回復させるスキルを身に着け使用コストを肩代わりさせることで命を削ることなく使いこなした。もっともその代償に髪の毛が白髪になってしまったのだが、本人はこのくらいで仲間の役に立てるなら安いモノだと気にしてもいなかった。


 挑発を受けたレッドオーガが手に持つこん棒でグラスイージスを殴りつけるが、盾には傷一つ付かず、タンガに伝わる衝撃も膝のクッションだけで受け流した。


「悪魔王や四天王の攻撃に比べたら、まるでガキのパンチだぜ!」


 盾で棍棒を弾きあげ、がら空きになった胴体へ渾身の蹴りを叩き込むが、少しよろめいただけで、それほどダメージは入っていない。


「攻撃力は無いが、防御力はそれなりか」

「攻撃力もそれなりにある。タンガの防御力が馬鹿なだけ」


 音もなくタンガの隣に着地するホカゲ、周囲にはもうレッドオーガ以外に動く魔物はいなくなっていた。


「馬鹿ってヒデェだろ、この力でお前らを散々守ってきてやったのに」

「最初はサムをいじめてた」

「そのことは、一生をかけて償っていく。もう片付いたのか」

「こいつ以外は下級だった」


 レッドオーガはオーガ系の魔物の中で最上位に分類される魔物。

 異世界では一流の冒険者であっても決して二人では戦わない相手。しかし、ホカゲとタンガはそんなレッドオーガを前にしても余裕があった。


「それじゃこいつのデビューといくか!」

「銃?」

「レンサクの新作だ」

「なるほど」


 タンガが取り出したのは出発前にレンサクから貰ったマジックブラスターマグナムである。

 形を見ただけで、使用用途を理解したホカゲが先制する。


 レッドオーガのまわりを高速で走り回り攪乱させ、繰り出される城門すらも砕く棍棒をすれすれで交わし、短刀で足を中心に連続攻撃を当てる。一撃一撃がかすり傷程度にしかならなくても、同じ場所を何度も攻撃すれば無視できない。


 敵の意識が完全にホカゲに移った瞬間を見逃さず、タンガが引き金を引くと、放たれたプラズマの弾丸がレッドオーガの棍棒を持つ腕を吹き飛ばす。


「とどめ」


 飛び上がったホカゲが忍者のスキル技「飛雷針脚」を放つ、この技は足のつま先に闘気と魔力を集中させ、つま先を穂先とした体全てを一本の鋼鉄よりも硬い槍と化す蹴り技。


 ホカゲの飛雷針脚は見事の魔物の核である魔石だけを蹴り砕き、周囲への被害をだすことなく大型の魔物を倒すことに成功した。


「ここはサムのお気に入りの公園、壊すわけにはいかない」


 ホカゲもタンガも広範囲の攻撃手段はいくつか持っていた。それを使えばホカゲ一人でもレッドオーガの討伐は可能であった。だがあえて救援を呼んだのは、ホカゲがサムと呼ぶ少年のお気に入りスポットを壊したくないという願いからである。


「お疲れさん」

「そっちもね。日時計、壊さないですんだ、ありがとう」

「お前がお礼なんて珍しいな」

「それだけ、感謝してる」

「お前に感謝されるなんて、バイクで走って来たかいはあったな」

「さらにこれも手伝ってくれたらもっと感謝する」


 ホカゲがどこからともなく取り出したスコップをタンガに渡す。


「なんだよこれは?」

「遊んだ後はお片付け、世間の常識」


 スッと指差す。レットオーガやゴブリンの死体。そして遊具は壊れることはなかったが、レッドオーガが暴れた付近の地面は抉られており、誰が見てもこの公園で何かがあったことは悟られてしまう。


「俺たち二人だけでやるのか、救援を呼ぼうぜ、レンサクとかこの手の作業は得意だろ」

「今は授業中、抜け出すのは不自然、大した範囲でもない、二人で十分」

「マジかよ」

「仕掛けた罠も殆ど使わなかったから、そっちの撤去も協力して」

「マジなのかよ」


 結局タンガが解放されたのは、学園が終わる放課後の時間であった。


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