第10話『ファンサム』
「扇風機の設置はこれでよしと」
部屋に戻ると早速扇風機の箱を開けてみた。まだ扇風機が必要な時期じゃないけど、多機能扇風機の多機能の部分に興味が引かれて見てみたくなった。
扇風機なんて、箱から出せばコンセントを差すだけの物だと思っていたら、多機能を売りにするだけあり、コンセントを差した後にいくつか設定をさせられた。難しいモノではなかったが。
「すげー、風が俺を追いかけてくる」
まさか、この年になって扇風機で遊んでしまったぜ。
一通り多機能を満喫して落ち着きを取り戻したので、俺はパソコンの前に腰を下ろした。
「さて、では始めますか」
起動させるゲームは『ファンタスィ・オブ・サムデイ』である。ナンバリングスリーが発売され、あと一か月でサービスが終了してしまうオンラインゲーム。
ゲームの内容は自分の分身となる冒険者アバターを作り、剣と魔法の世界を冒険する王道ファンタジーゲームだ。三十種類以上用意されたジョブから好きなモノを選び育て、七十種類以上ある上級職へクラスアップさせていく、他のオンラインゲームをやったことがないので比較はできないけど、かなり面白いゲームだ。
中二から初めて三年以上はプレイしている。
三年前にナンバリングツーが発売されてプレイ人数は一気に少なくなり、サービス終了とスリーの発売が発表されるとゲーム内はまるでゴーストタウンのように人口が少なくなった。
ちなみに俺が使っているキャラはサムライマスターのサム。影新陰流を免許皆伝まで鍛えたことでサムライからサムライマスターへクラスアップした。防御力は無いけど、スピードと手数の多さ、そして多彩なデバフ能力で遊撃をこなすのがサムのスタイルである。
一応プレイヤーギルドには所属しているけど、残っているメンバーは俺を含めて二人だけ。
「二十人以上いたギルドなのになー」
ログインした場所はギルドが所有するギルドホーム、三階建のログハウスでかつては満室に近かった部屋も今では一階だけで事足りてしまう。
リーダーが辞めるたびに残った一番古参のメンバーが自動で繰り上がりリーダーに就任していたので、現在は俺がリーダーを務めている。
もっとも二人しかいないギルド、サービス終了が発表されてからは復刻イベントも無く、ギルド運営の仕事はほとんど無い。
それでも、グランドストーリー。ゲーム内に用意されたメインのストーリーを最後までにクリアしたい。三年掛けてなんとかグランドボスへの挑戦権までは手に入れたのだ。
クリアしているプレーヤーはそれなりにいるが、ほぼ無課金でプレイしている俺には他のプレーヤーの力を借りないとクリアなんて不可能。
ギルドに残ってくれた、たった一人のメンバーがいろいろ協力してくれているけど、それでも二人では足りない。
野良パーティーを絶えず募集しているが、やっぱりプレイ人数が少なすぎて、今も残っているプレーヤーは多分やりたいことが決まっていて、残りの一ヶ月を他人に協力しようなんてモノ好きはそうそういない。
シャドウ【お疲れ、サム】
サム【お疲れ様ですシャドウさん】
今日はどうしようかと悩んでいると、最後のギルメン忍者頭領のシャドウさんがログインしてさっそくメッセージを送ってきた。ボイスチャットは俺がヘッドセットを持っていないからやっていない。
シャドウ【サムに報告がある。パーティーメンバーを見つけた】
サム【!? パーティーメンバーって、グランドストーリーを一緒にやってくれるパーティーの事ですか】
シャドウ【そう、五人見つけた】
サム【五人も!!】
シャドウ【リアルの友達に声を掛けたらやってくれるって】
シャドウさん友好関係広いな、メッセージがいつもそっけないから、勝手に人付き合いが苦手なタイプかと思ってた。
シャドウ【今日はさすがに全員参加は無理、明日には揃うと思う】
サム【なんてすばらしいお友達、たくさんお礼を伝えておいてください、サムから感謝が溢れていたと】
シャドウ【わかった、適当に伝えておく】
そっけない。そのそっけなさで良く一緒にゲームをやってくれる友達が五人も作れたな。
シャドウ【来た】
ヒカリ【こんにちは、始めまして、あ、もうこんばんわだね】
最初にやってきたのは金髪ロングストレートの女騎士だった。装備が初期装備みたいだけど、もしかして。
ヒカリ【私、オンラインゲームって初めてだから、まだyokuwakarあ】
文字化けした。
ヒカリ【ごめんなさい、さっきのは、まだよくわからない、って打とうとしていました】
初心者だと大変よくわかりました。騎士のキャラが少し岸野さんに似ている気がする、ちょっと岸野さんよりどんくさい感じが伝わってくるけど。
ヒカリ【自己紹介、騎士を選んだヒカリです。よろしくお願いします】
見えてたけど名前まで岸野さんと一緒なのか。
シャドウ【もう一人もログインした。連れてくる】
続いてやってきた、青いウェーブのかかった髪の女僧侶。こちらも初期装備だ。前の女騎士が岸野さんに似ていたからか、女僧侶が青磁さんに見えてしまう。
ヨシカ【はじめまして、僧侶のヨシカです。よろしくお願いします】
今度は青磁さんと同じ名前、もしかしてシャドウさんの友達って俺のクラスメートだったりしないか、シャドウさん自身がクラスメートだったって事はないよね。
シャドウ【今日こられる最後の一人】
今度は初期装備ではなく、課金レア装備で身を固めた男賢者がやってきた。
クロノス【なるほど、こうやって操作するのか、だいたい理解した。貴様がこのギルドのリーダーか、俺はクロノス。世界最高の賢者をやっている。俺が力を貸す以上グランドストーリー制覇は約束されたぞ】
ものすごいビックマウス。
まあ、前の二人と比べて名前もちゃんとキャラ名だし、装備も俺より立派だし本当にグランドストーリーがクリアできるかもしれない。
クロノス【我々が集まった目的はただ一つ、サービスが終了する残り一カ月の期間にグランドボスを討伐することだ。だが私の計算ではヒカリとヨシカに加え、明日合流予定の二人も初心者であることから、このままではクリアは不可能】
一応リーダーは俺なんだけど、一番最後に現れた賢者に主導権を完全に握られてしまった。まあ、成りたくてなったリーダーじゃないから譲ることに何の抵抗もない。
クロノス【よって私は、初心者を強化する効率重視のレベリングを提案する。どうだろうリーダー】
あれだけ指揮っておいて、最後の判断をこっちになげるのか。
サム【明日合流してくれる二人も初心者なら、レベル上げに賛成です。時間はあまり残ってないけど、無理しても楽しくないし、ゲームなんだから楽しくやりましょう】
クロノス【了解だ親友】
え、親友、たったこれだけのメッセージのやり取りで俺はまた親友にランクアップできたの、唐突すぎるだろ。そう言えば、刻時も俺のことをいきなり親友って呼んだんだよな。
サム【あ、伝え忘れました、明日は俺の知人も一応誘ってみるつもりなので、もう一人増えるかも】
親友発言で、自称相棒の存在を思い出した。
あいつもグランドストーリーを手伝ってくれるって言っていたから、声を掛ければ参加してくれるだろう。ゲームセンターでみたあいつのゲームテクニックはすごかったし、即戦力間違いなしだ。
あれ、でも金築がファン・サムⅠにつき合ってくれるって言ったの、リアルの時か幻覚の中で聞いたのか、どっちだっけ。
クロノス【フリーズしたのかリーダー、すぐにレベリングに出発するぞ】
サム【すみません、大丈夫です】
それからは、経験者である。俺、シャドウさんとクロノスで、ヒカリとヨシカをダンジョン内を連れまわし、ちょっと強引なレベルアップをさせて終了した。
久しぶりに大勢でのダンジョン探索はいろいろハプニングもあったけど楽しかった。
「やっぱりいいね、仲間がいるのって」
『これだけは忘れないで、私は、私たちは、どんな時でもサトルくんの味方だから、困った時はいつでも呼んでね』
これは日時計公園で聞いた岸野さんの言葉だったはず。でも少し言い回しが違っている気もした。
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