第7話『ベストフレンドらしい金築錬作』
「その通り、僕こそが上神田の水高等学園2年1組の最高の職人にしてサブカルチャーのヘービーオタク、ゴールデンアルケミストとはこの僕のことであります」
「また口上は伸びたな」
ゴールデンアルケミストって、なんかダサくないか。
日本語にするなら黄金の錬金術師にかな。
金築錬作、女子が羨むほどのキューティクルが浮かぶマッシュルームカットの丸メガネ男子。俺のようなライトなオタクとは違う、ヘビーでオープンな態度のデカいオタクである。
付き合いにくい性格だけど一年生からの付き合いで、いじめられていた俺に話かけてくれる数少ない知人である。君と僕とでは聖典に対する認識や知識量が違いすぎる。友情を結ぶのは難しい、せいぜい知人なのですと、はっきり言われたので、こいつは知人カテゴリーに分類している。
金築がこうして話かけてくる時は、新作のゲームをクリアした後か面白い新作アニメを見つけた時だけ、ひとしきり感想やネタバレをマシンガンのようにしゃべるだけしゃべって帰っていくのが、いつものパターンだった。
だが、今日はいつもと様子が違う。
「マイベストフレンドであり相棒であるルトサよ、これから僕と一緒に電子の戦場へ行こうじゃないか」
電子の戦場ってゲームセンターの事か、知らない間に知人から相棒にランクアップしている。
金築は気に入ったアニメやゲームのキャラを逆さ読みする独特のマイルールを定めていたな、ってことはだ、ルトサって言うのは俺のことですか。
『僕が間違っていました。今日から君のことをルトサと呼びます。これからは僕の対等な唯一の人間、相棒としてよろしく』
短い、幻覚短い、これまでで最短だった。前後の流れがまったくわからないんですけど。
「二人とも、寄り道の相談」
「電子の戦場とはどこでしょう。今のサトルさんには危ないことをさせたくは無いのですが」
「大丈夫だよヨシカ、ゲームセンターの事だと思うよ。ゲームは電気で動く、だから電子の戦場」
「なるほど」
すごいな岸野さん、普通に近づいてきて自然と会話に参加して金築語をすんなり翻訳してる。流石に青磁さんには金築の独特な言い回しは通じなかったみたいだけど。
「これはこれは
「ゲームセンターですか、サトルさんが赴くならわたくしもお供したいのですが、父に止められていまして、残念ですが今日は参加できそうにありません」
「ヨシカの家も大変だよね、今時高校生にもなってゲームセンター禁止なんて」
「ヒカリさんは良くいかれるのですか」
「うーん、そんなに行かないかな、ぬいぐるみを取るゲームとかは好きだけど、今まで一緒に行ってくれる友達少なかったから」
「今日は三人で楽しんできてください」
自然と岸野さんもゲーセン行きに参加する流れになってる!!
「それじゃヨシカに悪いよ、公平にしようって決めたんだから、今日はとっても残念だけど私もパス、今度改めて皆で行こう。それでいいかなサトルくん」
「え、もちろん、いいと思うなー」
「約束がまた一つ増えましたね、わかりました。次の機会までに必ず父を説得してきます。まっていてくださいねサトルさん」
「お、おお」
これは、行き先がゲームセンターでなければ、岸野さんも青磁さんも一緒に遊びに行っていた流れなのか。
「参加しないガールズに主導権を完全に取られてしまったのです。でも、ここから巻き返すのが相棒である僕の仕事、さぁ出発です」
とても残念そうな岸野さんと青磁さん、二人とは教室で別れ、俺は金築と一緒に学園近くのアーケード街にあるゲームセンターにやってきた。
このゲームセンターは三階建てで、一階にぬいぐるみなどを取るクレーンゲーム、二階にはネットワークを用いたゲームが並び、最上階の三回にはレトロゲーム、時代を感じさせる古いゲーム機が並んでいた。
二年に進級してカツアゲされだしてからは、ほとんど寄らなくなったゲームセンター、久しぶりにきたけどレトロコーナーのゲームはほとんど変わっていない。
「さて、どれからやりますか。今回は記念に相棒に選ぶ権利を譲りましょう」
「そうだな」
今日は幸せのお弁当が食べられたので、五百円がまるまる残っている。
俺が選んだゲームは武将を操りわいてくる敵兵を倒していく横スクロールのアクションゲーム、ゲーム台には二人分のボタンとレバーが付いているタイプ。
この手のゲームは操作するキャラクターが死なない限りゲームが続けられる。
資金が少ない俺としては、コツを掴めば長時間遊べるこの手のゲームが好きだった。
「渋いチョイスです。いいでしょうやりましょう。僕の足を引っ張らないでくださいね、まあルトサなら心配いりませんか」
プレイ開始から一時間弱、ワンコインでいまだに遊べている。
金築がすごい。
こいつは、生粋のゲーマーだ。
一緒に遊ぶのは初めてだけど、まるで俺の癖をしっているかのようにサポートしてくれている。
『ルトサは元の世界ではどんなゲームをしていましたか?』
『ファンタスィ・オブ・サムデイのⅠをずっとやってたな』
『おお、名作オンラインゲームではないですか、ファンサムは僕も大好きですよ、それにしてもⅡではなくⅠをやっているとは奇特です』
『家が母子家庭でわがまま言える余裕もなかったから、母さんが同僚から買い替えでいらなくなった古いパソコンをもらってきてくれたんだ。それにたまたまソフトも一緒に付いてたから』
『なるほど、運よく名作に出会えたと、流石はルトサです』
どの辺が流石なのかまったくわかりません。
『ゲームセンターには行かないのですか』
『前はたまに行っていたかな、最近は諸事情で遠ざかっていたけど』
カツアゲとかカツアゲとかカツアゲとかで。
『今日の夕食にタンガの分だけ一服盛っておきますか』
『やめろよ、せっかくヒカリとヨシカが作ってくれる料理だぞ、学園中の男子が知れば血の涙を流すほどの至高の料理だぞ、それを汚すんて許されない』
『チィ、命拾いしたな』
危うくヒカリたちの料理が汚される所だったぜ、アルケミストのレンサクが作る薬はどれも異常に高性能だからな。
『ルトサ、ファンサムⅠは後一カ月でサービスが終了するのです』
知っている。あと何日かでファンタスィ・オブ・サムデイⅢが発売される。それに合わせてファンサムⅠの終了も半年前に発表されていた。新作が出ても一カ月の猶予があるのは有難いと思た。でも、俺が唯一できるゲームがサービス終了になるのはとても悲しい。
『最後にグランドストーリーのボスは倒しておきたかったな』
グランドストーリー、ゲーム内に用意されたメインストーリーをファンサムではグランドストーリーと呼ばれている。
『ルトサは倒していなかったのですか』
『レンサクは、聞くまでもないか』
『当然なのです。僕は三年ほど前に倒しました』
三年前って、俺が古いパソコンを手に入れる前じゃないか。
『いいねー次元が違いすぎるねー』
『ひがみは見苦しいです。最近はやっていませんでしたが、データはまだ残っているので、この僕がグランドストーリーのボス討伐に協力してあげるのです』
『いいのか、それはマジでありがたい。一応ギルドには所属してたんだけど、過疎って今でも定期的にインしてくれるのは、もう一人くらいしかいなくなってたんだ』
『お任せなのです。そのためにも、サービスが終了する前に元の世界に帰らなければなりません』
『帰る理由がまた一つ増えたな』
俺が帰らないと、あの人がギルド最後の一人になってしまうのか。
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