第6話『元サッカー部の真帆津紗里』
「うまいな、ヒカリの奴かなり練習しただろ、これ」
一口で食べたから揚げを飲み込み感想。
「まさか料理スキルをカンストしたヨシカに勝負を挑むとは、ヒカリの本気を感じるぜ」
まだ昼休み、当然午後の授業もあるが盾崎は関係ないとばかりに校舎を出て裏手の駐輪場へとやってきた。
「よぉ、準備はできてるか」
「誰に言っているのですか、僕が改造したんですよ完璧以外にありえません」
グリーンとブラックのツートンカラーの中型バイク。
そのバイクのそばでは腰に工具ベルトを巻いた、キレイなキューティクルが浮かぶマッシュルームカットの男子、
「動力を魔法式に切り替えたのでゴミどもが張る結界にも影響は受けません、偽装も施したので車検に出しても問題無しのまさにパーフェクト、流石は僕」
「そうか、よくやった」
ヘルメット被りバイクにまたがる盾崎に金築は拳銃を差し出した。
「君は攻撃力が低いからこれを持っていくといいです」
「おいおい、銃まで作ったのか」
「本物じゃないです。モデルガンを改造した名付けてマジックブラスターマグナム、雷撃魔法を発射します。タンタンが警察に捕まっても一目でおもちゃだと判断されるように、弾は単三電池型にしておきました」
「タンタン言うな」
銃のシリンダーを開くと確かに電池が詰められていた。
「弾の予備はないのか」
「近くのコンビニで買ってください」
「普通の電池で撃てるのか」
「僕の作品ですから」
「一応礼だけは言っておくぜ、サンキューなレンサク」
「どうもなのです」
盾崎はバイクのエンジンをかけ、発進していった。駐輪場の近くにある職員室に聞こえるほどのエンジン音だったはずなのに、反応する教師は一人もいなかった。
「やれやれです。サポートも楽じゃありません。この労働の対価は放課後にいただきます」
不思議すぎるけど、嫌だった学園生活が嬉しく楽しい時間になっていた。
だって岸野さんたちと一緒にお昼を食べられたんだぜ、一番狙っていたおかずを取られたのは悔しかったけど、それ以上の補填もあった。これまでの学生生活、小学校からも含めて今日が一番不思議で幸せな日だった。
不思議な幻覚をたくさん見たけど、不幸な内容じゃないからいいかと流している。って言うか流すしかないでしょ。大ケガとかして体の痕と一致していたりするけど、どうすればいいのかわからないのでスルーだ。だってもう一度になるけど憧れの岸野さんと昼食を一緒にできたんだぞ。
日記を書いていたら間違いなく、今日の書く内容は決まった。日記は書いてないけど。
幸せを噛みしめていたら、授業も早く感じられ、瞬く間に放課後になっていた。
「放課後だー、部活頑張るぞー!」
昼休みに入った時と同じような歓声をあげてクラスから飛び出して行く真帆津さん、その際に俺の机の横を通り。
「それじゃサトッチ、また明日ね!!」
と明るく元気に別れの挨拶をしてくれた。
あの元気は人にも分け与えることのできる元気だ。あれだけ気持ちの良い挨拶をされると今日も一日頑張ろうって活力がわいてくる。もう放課後だけど。
あれ、でも真帆津さんってケガをして女子サッカー部はやめたって、誰かが話しているのを聞いた気がする。
『あたし本当に女子日本代表を目指してたんだ。でもケガで断念、一応ケガは治ったんだけどね、足の感覚が一部鈍感になっちゃったんだ。遊びでのサッカーならできるけど全力プレイは無理、タイムも自分の足じゃないって疑いたくなるくらい鈍カメになってたんだよ、向こうにいたころは』
『ヨシカなら治せるんじゃないか』
『うん、実は治してもらった』
『だったら何に悩んでるの』
『治ったのは良いんだけど、今度は強く成りすぎちゃって、身体強化無くても百メートルで世界新を超えてしまったのよ』
『あー』
女子のではなく男子の世界記録である。この世界にはレベルと言う概念があり。レベルを上げればステータスが向上して素の身体能力も跳ね上がっていく。考えたことはなかったけど、俺でも世界新は行けるって確信が持てる。
この世界に来たくて来たわけでもなく、レベルを上げたのだって生き残るため、でもこのままのステータスで向こうの世界に帰れば超人確定間違い無し、トラックに轢かれてもかすり傷程度で済んでしまう。
もしスポーツに参加すれば卑怯なんてレベルじゃない。ドーピング以上のドーピングだ。
そりゃ悩むよな。
サリが元世代別の代表と聞いてから数日後、俺はサリから相談を受けた。
『またサッカーがやりたくなった』
『もうサッカーはあきらめていたから、そのことはいいの、あたしが今悩んでいるのは別の事なの』
『そうなの?』
ケガがせっかく治ったのにサッカーができない体になって悩んでいるものとばかり思っていた。
『サトッチ、あたしにはサッカー以外の悩みが無いと思ったでしょ』
『そ、そんなことはないぞ』
『ホントにー』
『ホント、ホント、俺は嘘のつけない性格に見えるって良く言われてるし』
『今回は信じてあげる。だけど特別だからね、レンサッチやクロッチだったら信じてなかったからね』
『ありがとう、信じてくれて』
レンサクやケンジが聞いたら怒るだろうな。あの二人よりも俺の方が信頼されているようだ。
『あたしが悩んでいるのは、これだけの身体能力があるのにジョブが魔法使いだから接近戦のスキルが一切覚えられない事なの!』
『なるほど、性格からして前衛向きだからなサリは』
大いなる納得。相手が早くて魔法が当たりにくい時は、走って追いかけてほぼゼロ距離で魔法を叩き込んだこともあった。
性格から考えるなら、ヒカリと並んで前衛を務めた方が、さぞ活き活きするだろう。
『ひどーいサトッチ、性格からしてってなによ、あたしが本気で悩んでいるのに。魔法を撃つのはスカッとして気持ちいいけど、元ストライカーとしては最前線でバシっとシュートを決めたくなる時があるの!』
『へー、リサって元ストライカーだったんだ』
『これでもジュニアの頃は得点王まであと一歩だったんだから』
得点王になったわけではないのね。
『火炎魔法のファイヤーボールもボールなんだから蹴れればいいのにね』
『――それだよサトッチ、そうだよ、ボールには違いないんだから蹴ればいいじゃない』
『いや、あのサリさん、冗談で言っただけだからね』
『ありがとねサトッチ、あたしだけの必殺技を閃いた。ボールなら蹴ればいい、簡単なことだった』
屋上で見た幻覚内での謎、真帆津さんの閃いた必殺技がどんなモノなのかが判明した。
つまり、幻覚を信じるなら、おかしな考えだが幻覚を信じるなら、真帆津さんはサッカー部をやめていることになる。それならいったい部活とは何をやっているのだろうか、性格から考えて文科系の部活は考えづらい。
「まだ、殆どを思い出したわけではない、わかっていたことです。予想はできていましたが、できればハズレて欲しかったのです」
いきなり背後から声がした。
いつの間にこんなに接近されていたんだ。
「あの最強の影法師が影を踏まれても気が付かない、これは重症と判断するしかないようです」
「お、お前は、金築錬作」
振り向けば、学園一のヘビーオタクと臆することなく自称する。丸メガネの男子生徒がそこにいた。
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