第24話 みんなはどっちが好き?

さゆりの件から一夜。

俺はコンビニバイトの準備をしていた。


とは言っても、ラフな格好に着替えて(バイトでは制服を着るから)簡単な持ち物を準備するだけだが。


それにしても、あれ以来のさゆりは少しだけ変わった気がする。

というのも、今までは何かと俺に対して我儘というか何でもかんでも俺にやらせていたのに、

夜食を食べた後とかに

「いいよ。私が持っていくから。」

とこれまででは考えられないことをしてくるのだ。


いや、自分としてはとてもありがたいのだが、

今までが今までだっただけあって少し気味が悪い。

何か企んでいるんじゃないか。後からもっと

大きな頼み事をしてくるのか。


そんなことを考えてるうちに、出発しなければ時間となった。


「やべ!遅刻する!」


………考え事をして、バタバタしたからだろうか。俺はスマホをつけたまま、それに気付く事なくバイトへと向かうのだった。




「…おはようございまーす。お疲れ様です。」


早朝6時より少し前。深夜帯の方たちに挨拶をする。


「おはよう〜。」


「お疲れ様でーす。」


やけに眠たそうな声で俺に挨拶を返してくれる。それもそうだろう。深夜はめちゃくちゃ眠たくなるもんな。昼寝しても決まって眠くなるから不思議なものだ。


制服を着て、マスクをして出勤の操作をする。


そうしていると、レジの方から

「おはようございまーす!」

と声が聞こえてきた。カレンだ。


やがて事務所まで入ってきて俺にも

「おはよう」

と笑顔で挨拶をしてくれる。


俺もそれに挨拶を返し、そこから俺の勤務が

始まった。


ゴミ捨てをして、フライヤーの準備、

フェイスアップ、来店したお客様の対応。

うん。教えてもらったことはなんのトラブルもなくできるようになったな。


それら全てが終わったら、あとはパンの検品とレジ打ちくらいしかやることがないらしい。


どうやらモニカちゃんのところのリスナーさんが言っていたことは本当のようだ。


「どう?大分慣れたんじゃない?」


何に?とは、聞かないでも業務のことだと分かるだろう。


「おかげさまである程度はわかるようになりました。

これもカレンのおかげだな。」


「いやいや。そんなことないよ。

佑も飲み込みが早いから助かっちゃった。」


こんな他愛のない話をしながら、バイトの時間を過ごしていく。

やがて、マルダパンさんが届けてくれたパンの検品も終わり、店内には俺とカレンだけになった。


「……よし。じゃあ、お客さんいなくなったし事務所に戻ろっか!」


「…え?いいのか?」


「うん。だってお客さんいないのにここに立ってるだけってのもアレじゃない?」


アレって言われてもわからないけど、本当にいいのだろうか。一応、業務中では……?


「大丈夫。店長たちも気づいてる上で許してるんだから。

ほら、ここに監視カメラあるし暗黙の了解みたいなものだから。」


「……それなら、まぁ。」


店長が許してるならいいのか?

まぁ休めるならそれはそれで嬉しいけどさ。


そして俺たちは監視カメラを見つつ、事務所で休憩をするわけだが、携帯をいじるカレンを見て、そこで俺は携帯を忘れたことに気づいた。


「…あれ?どうしたの?座らないの?」


「…あー。スマホ忘れたわ…。

…動画つけながら準備しててそのままだ。」


「ありゃ。バッテリーもったいない。」


「充電すんのも忘れてたからすぐに電源消えちゃうかもなぁ。」


いやー。でもまあ、本来休憩とかないと思ってたし、たった3時間だけだし。別に大丈夫か。




〜その頃、佑のスマホ〜


『……あーあー。聞こえてますかー?

…聞こえてる?良かったー!


お友達のみんなー、おはよー!』


:おはよー!

:まゆちゃんおはよう〜

:聞こえてるよー

:ちょっと音声が小さいかな?

:おはようございます!


佑がバイトをしている中、スマホはいつの間にか白羽万由里のライブ配信を再生していた。

しかしその持ち主は、現在そこにはおらず

静かな部屋に万由里の声だけが虚しく響いていた。



『あ。声が小さい?オッケー。あげるねー。

……どう?』


:大丈夫かも!

:ちょうどいい!

:可愛い声がよく聞こえるよ〜!


『…大丈夫…。

よしっ!オッケーだね。

…あ、そういえば、可愛い声で思い出したんだどさー。


私お兄ちゃんがいるって前から

言ってたじゃん?

それでさ、思い切って聞いてみたの。

今の私の声とキレイな声の私どっちがいい?って。

そしたらなんて言ったと思う?』


:お兄ちゃんになりたい

:僕はキレイな声になってもまゆりちゃんが好きです。

:お兄様がなんとおっしゃっていたか?

ふむ。どっちも好き…ですかね?

:キレイな方

:俺ならどっちも好きって言う。

:お兄さんの聞いてる性格上どっちでもいいって言いそうw


『…おぉー。色々出てくるね〜。

じゃあ正解言おうかなー?


へへ。えとね。正解はね。


『キレイな声も聞きたくないと言えば嘘になるけど、多分それでも俺は今のさゆりの声の方がいいって言うと思う』


だって!これわたし一語一句合ってる自信ある。』


:お兄ちゃん大好きで草

:これもし本当に一語一句合ってたら相当

ラブコメ好きよな。お兄ちゃん。聞きたくないと言えば嘘になる〜とか。

現実でも言う人いるんや…。

:ブラコン助かる

:お兄ちゃんになりたい……。

:お、俺も今の可愛い声が好きだよ?

:ブラコンとシスコンはもう裏山でしかない。

:相思相愛やん。


『…ふふ。もう。みんな、わたしは別に

ブラコンじゃないからね!

やっぱりお友達のみんなに言われるように、

声が好きって言われたら嬉しいものでしょ?

それと一緒だよ。


ところでみんなはどう思う?

正直に答えて良いよ。

わたしのキレイな声、聞きたい?』


:聞きたくないと言ったら嘘になります。

:キレイな声を聞きたくないと言えば嘘になるけど、俺は今の可愛い声が好きかな!?

:正直聞きたい気持ちある

:聞きたい

:今のが好き

:聞きたくないと言えない自分がいます

:今出してみなよ。案外出るかもしれんよ?


『…うんうん。やっぱり聞きたい人多いんだね。

てかそりゃ聞きたいわな!わたしも出してはみたいもんね。


今出してみなよ?わかった。やってみるね。

…んん゛っ!


「〜〜〜!」』


:ただの裏声で草

:キ、キ、キ、キレイだねっ!

:これはこれで……

:それは裏声なんよww

:可愛さがどうしても残っちゃってるねw

:うーん…可愛い…w


『あはははは!

ただの裏声だった?!あははは!


やっぱりいつもの声が良いかもね!あはは!』


:でも可愛かったから俺たちは幸せだよ

:やっぱり万由里ちゃんは可愛いね

:安定した可愛さ


『可愛かった?ほんと?ならいいや。

……じゃあ、そろそろいつものやろうか。

お友達からオススメのお店聞くやーつ。

どんどんコメントに書いてね━━━』



そこで佑の携帯は電源が切れた。


しかし、家の中のある部屋では、

今も楽しそうな声が響き渡っている。



━━━━━━━


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