第25話 キャラクター

バイトからの帰り道。

俺はあることを考えていた。


それはやっぱり配信のことであり、面白いコメントをしたい。ということだった。


ここ最近は暇な時間さえあればそのことについて考えている。


何かネタになる発見はないだろうか。

非日常的なことが今すぐにでも起こらないだろうか。

周りを見ながら目を凝らす。

それでもいつもの日常の中に何か特別なことがあるわけでもない。


残念ながらこれといった発見もなく、俺は家に帰り着いた。


ちなみに今日はチリツモニカちゃんの配信がある。

ここ最近は配信に行けてなかったから。今日は行ってみようかな。

できれば『面白いリスナー』として、配信に現れたかったけど、まだ俺には難しそうだ。





「ただいまー。」


それに対する返答はない。

まぁそれもそうだろう。

両親は仕事に行っているし、さゆりは自室に

篭っている。

多分いつもであればあと1、2時間で部屋から出てくるだろう。


モニカちゃんの配信も夜だし、それまで暇だな。


そこからの俺は暇つぶしに励む。

スマホの充電が完了するまで適当に部屋の掃除をしたり、そこからYtubeを見たり、

リビングで飲み物やお菓子を食べたり。


そうしているとさゆりが部屋から出てきた。


「…あ。おかえり佑。

それ、わたしにもちょーだい。」


そう言って俺が許可する前に俺の手からチョコレートを奪い取りパクパクと食べ始める

さゆり。

やっぱりこの子俺のこと舐めてるわ。

さゆりはさゆりだったようだ。


しかし、昨日の一件以来少し優しくなったと思ったのは勘違いだったな。それはそれで少しホッとしてる自分がいるのが不思議だけど。


「…ほんで?今日はどうだった?バイト。」


「ん?あぁ、バイトね。

別に普通だったよ。変な客もいないし、

トラブルがあった訳でもないし、いつも通り

だった。」


トラブルはあるだけ面倒だから全然いいんだけど、なんか、こう退屈というか暇すぎるというか。何かやろうにも何をなっていいのか悪いのかわかんないし、スマホも忘れてどうしようもないしでただただ長く感じた3時間だった。


「へー?」


「逆にさゆりは何してたんだ?

いつもこの時間帯は部屋にいるけど。」


この際だとずっと気になっていたことを聞いてみる。


「あー…。友達とお喋りしてるだけだよ。

ほら、私レベルになると友達いっぱいいるからさ。どうしても長くなっちゃうの。佑とは違ってね。」


「はぁ?!俺にも友達いるが!?舐めんな?!」


「ふっ。

佑がすっかり普段の生活でリスナーみたいな言い方してる。ぷぷぷ。

すっかりVtuberの虜だねぇ。」


…確かに。めちゃくちゃネット言語みたいな言い方しちゃった……。いるが?!とかまさにそうじゃん。なんか恥ずかしいわっ!


「ふふ。


……ねぇねぇ佑。わたしさ。佑がVtuber見てるっていうから私もちょっと興味が湧いたんだ。


それでね。少しだけVtuberさんの配信とか見てみたんだよね。そしたらリスナー?視聴者?

の人たちが面白いコメントしてたの。


ちなみに佑はどんなコメントしてるの?」


やけに急な話題だな。そうか。さゆりもVtuberを見たのか。

うーむ。しかし、さゆりが面白いと思った

コメントに俺がいつもしているようなコメントを比べられたらめちゃくちゃ惨めになりそう…。


ならば答えは一つ。


「………ノーコメント…。」


俺は逃げた。これほどはぐらかすために最強な言葉はない。


「…ふーん。ま、佑のことだから普通の

コメントでもしてるんだろうけど。」


そう言ってつまらなーいとでもいいたげな感じでさゆりはチョコを食べているが、そもそもなんで人のコメントを知りたがるのかが疑問なんだよなぁ。


だが、そのさゆりみたいな奴が面白いと感じたコメントはどんなものなのか。シンプルに気になるな。


「ならよ。その面白いコメントやらはどんなものだったんだよ。相当面白かったんじゃないか?」


その言葉にさゆりはうーん。と少し考えた後、

話し始めた。


「…まぁ、正直そのコメントが面白かったのってそのリスナーさんが自分なりのキャラクターを持ってたからだと思うんだ。」


…ほう?


「わたしが見てた時はゲーム実況をしてたんだけど、そこに現れたのはそのゲームに登場するキャラクターだったの。


しかもちょうどそのキャラの話をしてたから、名言と共に登場してきてすごく笑ったんだよね。」


なるほどな。

キャラクター…か。

それに、今の話を聞いている感じタイミングも良かったみたいだ。


やはりウケが取れるコメントはタイミングも大事だとここで証明されたようなものだ。


「ただ、一概にキャラクターがあることだけが面白い訳じゃないんだよね。

やっぱりあの世界ではスーパーチャットで面白いことする人もいるし、リスナーさんのネタ力は本当にすごいと思ってるよ。」


ほぇー。スパチャ芸も一つの手なんだな。


……それにしても、さゆりにしては

めちゃくちゃ具体的に分析してるな。

参考になることが多すぎる。


…そうか。どちらにせよYtubeはいくつもアカウントが作れるし、『佑』としてウケを取る必要もない。

なら、自分なりにキャラを作って配信を見にいってみる手もあるわけだ。


例えば『猫』という名前で挨拶して、語尾を

ニャンにするだけでも配信主からはそういうキャラクターとして認知される。むしろされやすいとも言える。


……なんだかワクワクしてきたな。

早速今日のモニカちゃんの配信で試してみよう。


心の中でさゆりに感謝を伝えつつ、俺はモニカちゃんの配信が始まるまでの時間、

自分がなりきるキャラクターについてじっくり考えるのだった。


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