第23話 キレイな声


「……でもさ、イキシアちゃんすごく声がキレイだよね。

私も少しだけ見たことあるけど、同じ女とは思えないような声してたもん。


すごいなーって、羨ましいなーって思った。」


「お。分かるそれ。

聞き心地がいいというか、なんか落ち着く声だよな。」


すごい。さゆりにも認知されているとは。だてに登録者も多くないな。


「……。」


イキシアさんすげぇとか思っていると、さゆりが不満そうな顔をしていて


「はいはい。どうせ私の声はキレイじゃないですよーっだ!

佑なんてイキシアちゃんだけ見てればいいんだ〜。」


なんか拗ねてしまった。


何事かと思い、ふと先ほど俺が口にしたことを思い出してみる。


……あ。


「いやいや!確かに話の流れ的にそんな風に捉えがちだけど違うから!

分かるって言ったのは『声がキレイ』ってとこだけだから!


さゆりもちゃんと可愛い声してるって!」


…なんだろう。最後の言葉をつけたことによって、言い訳というか、取り繕った感が否めない気がする…。


「……本当に?


本当にそう思ってる?

私の声、可愛い?」


「お、おう!めちゃかわだよ!

最高の聴き心地だ!」


ほんとに?と聞かれて、ほんとうだよと答えない男がどこにいるだろうか。

機嫌が悪い時はとことんヨイショする。

そうすれば何も問題はない!多分…。


「うふふ。なんか少し裏があるように感じたけど素直に受け取ってあげる!」


たはーっ!気づかれてたかーっ!

さすがさゆり!鋭い!


「…ま、佑が褒めてくれたのはどうでも良いとして、私は可愛い声は出せるけど、イキシア

ちゃんみたいなキレイな声は出せないわけですよ。


でも、私としてはキレイな声も出してみたいなーって。」


どうでもいいって…。


しかしさゆりにもそんなことを思う事あるんだな。

こいつは自分が大好きだからてっきり可愛い系の声が好きかと思ったが。


「…だからさ、いいボイトレができそうなところを見つけたんだよね。」


「…え?


そ、そこまでする?

色々と大丈夫なのか…?

お金とか、時間とか…?」


「もう、大丈夫だよ。

時間は休日にたっぷり取れるし、お金は……

まぁ、お小遣いあるし。大丈夫大丈夫。」


マジか…。

妹の行動力に驚かされてばかりな俺。


う…。なんか俺も行動しないといけない気持ちになってきたぞ?


「……ただ、さ?

行くか決める前に、一つだけ佑に聞いておきたくて。」


すると、急にさゆりはどこか言いにくそうに視線を下に落としながら、たずねてきた。


「…佑は。どっちがいいと思う?」


「……どっち、、、と申しますと…?」


「だから、今の私の声と、キレイになるであろう私の声。」


んーー??


いきなり究極の選択みたいなことが起きたぞー?


待て。これは結構大事な質問だ。冷静になろう。


まず、さゆりは自分のことが好きだ。

つまり今の声も自分では良いと思っているのだろう。

だが、キレイな声も出したい。

と言ってるのを、邪魔するのも良くないのではないか。

ならば、キレイな声も好きだよ。と言えば

なんの抵抗もなくさゆりがボイトレに行けるのではないか。


あれも違うこれも違うと答えることもできず、時間だけが過ぎていく。


「……佑?」


しかし、そんな忙しい俺の脳内も今のさゆりの表情を見たら一気に静かとなった。


そうだ。さゆりは俺自身に聞いているんだ。

それなら俺の本心を言えばいい話じゃないか。


そして俺は、『キレイな声が出したい。』と

さゆりが言い始めてから、心のどこかで思っていたであろう言葉を引っ張り出した。


「…昔からずっと一緒に暮らしてきたから。

っていうのもあるんだろうけど、やっぱり俺は

いつものさゆりの声の方が落ち着くし、好きだな。

キレイな声も聞きたくないと言えば嘘になるけど、多分それでも俺は今のさゆりの声の方がいいって言うと思う。」


できるだけ俺の気持ちが伝わるように、真剣な

表情で声に出した。


そんな俺の言葉を聞いて、さゆりはクスリと笑い。


「ふふ。佑ってば、私のこと大好きなんだねっ。」


からかうような顔で俺の肩をバシバシと叩き始めた。


「ふふーん?そっかー。私の声、落ち着くし、好きなんだー?

ふーん?ちょーっと真剣な顔したら、そんな

真面目な表情で、『俺は、お前の声が好きだ。』って。


ぷぷー。」


あ、どうしよう。ものすごく腹立ってきた。


やっぱりこやつは碌な女じゃねぇ!俺の心を

弄びやがって!


恥ずかしくてなんも言えねぇ!こうなったら

もう部屋に篭るしかないヨォ!!


自分でも顔が赤くなってきているのがわかり、

俺は人が苦手な子猫のように、自分の部屋へと逃げ出した。


━━━━━━━━━━━



「……ふふっ。

佑が、私の大好きな『お友達』が今の声の方が好きって言うなら。

私は自信を持って、活動していくよ。


ありがとう。お兄ちゃん。」


そんな私の超激レアなデレは、当の本人には

届かない。


だって、、、『妹』だから、ではなく、

『一人の女の子』として、貴方に推してもらいたいんだもん。


だから、私の活動は兄には知られたくない。

知られるわけにはいかない。


家族で知っているのは、お母さんとお父さんだけ。

二人の協力を得て、私はお兄ちゃんの推しになってみせる。


……え?どうしてそこまでって?


それは━━━━






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