第12話 2人の朝
「━━━くー!!佑ーー!!
起きなさーい!!」
……んぅ〜
……まだねむいよぅ…。
「佑ー!ごはーん!!起きなさーい!」
…くぅー!起きねぇとめんどくさくなるかぁ。
「……もう起きたよー!!」
その声が母に届いたのか、俺を呼ぶ声はしなくなった。
ねむい目を擦りながらリビングに行く。
「あ。おはよう佑。
あと起きてきたところ悪いんだけど、さゆりを起こしてくれない?電話でいいから。」
「んー。わかった。」
直接の起こしに行った方が早いと思うだろう。
しかし、さゆりは何故か俺を部屋に入れたがらないのだ。
母が何度かさゆりの部屋に入っていく姿を見たのだが、俺だけは、絶対に入らないで!と言われている。
まぁ女の子だから男に入ってほしくないってことなんだと理解してるけどな。
携帯でさゆりに電話をかける。
「………全然起きねぇな。」
何コールかした後、お出になりませんとアナウンスが流れる。
さーて。どうしようか。
電話掛け続けてたらいつか起きるかな。
…それにしても、こんなに起きないのは久しぶりかもしれない。今日が休日だから夜更かしでもしてたんじゃないのか?
すると何度も聞いていたコール音が止まった。
「……もしもしぃ……。」
うわ。クソ寝起きボイスだ。
「おはよう。朝食できたらしいからはよ降りてこい。」
「ふぁ〜い。」
下手したら電話切った後寝るなこれ。
何となくそんな感じがする。
そのまま電話を切らずに待機して少し時間が経つと、ガチャ…とドアが開く音がした。
ちゃんと起きたみたいだな。
電話を切って椅子に座る。
テーブルの上にはザ・朝食といったご飯、味噌汁、サラダの3点セットが置かれている。
「さゆり起きたー?」
「うん。起きたはず。」
「そう。それじゃあ母さんちょっと出かけてくるから留守番よろしくね。
外出る時は鍵閉めてよ。」
「了解っす。
いってらー!」
「はーい。じゃ、よろしく〜。」
母は多分ママ友たちと出かけるのだろう。
最近運動しなきゃ!とバレーに行ってるからそれ関係だと思う。
……ところで、先に食べてていいかな…?
お腹すいた…。
「…ねぇー。」
「んー?」
「佑ってさー。アルバイト決まったの?」
「うん。一応明日面接行く。」
「え?!どこどこ?どこでバイトすんの?!」
いやテンションの移り変わりエグすぎだろ。
まるで俺に彼女ができたー!みたいなテンションじゃねぇか!
寝ぼけ眼でだるそうに食ってたのに、目がキラキラしてるぞ。
「普通にコンビニだよ!コンビニ!
「へー!いいじゃん。友達から聞いたけど
覚えること多い分就職したときに役立ったって。」
「ほーん。やっぱりそうなんか。
まぁ俺がコンビニにした理由って近いからなんだけどな。深夜にも入れれば時給も上がるし。」
「ふーん。そうなんだ。
へへ。佑がレジ打ちしてる時に行ってみよ。」
うん。それは全然良いんだけど、どうして家族って兄弟とか娘息子が働いてるところに来たがるんだろうね。やっぱり働いてる姿を見たいとかそんな感じかな。
…あれ?
「……ん?てかさゆりの友達ってもう就職してんの?」
「え?
あ、あぁ。うん。歳上だから!普通に!」
あー。なるほどね。
てっきり同級生かと思ってたわ。
そうやって決めつけるの良くないよねごめんね。
「……そうだ。さゆりは今日何するんだ?」
何となく、会話が途切れるのが嫌で、他愛もない質問をしてしまう。
「ん?
んー……。今日は部屋で友達とオンラインゲームしようかな。
だから絶対部屋に入ってこないでね。絶対だよ。」
「はいはい。わかってますよ。
でも、一体どうして━━」
「それは聞かないの!何となくわかるでしょ??」
いやまぁ何となく…ね。
「佑も家にいるんだったらあんまり騒がないでね。ある程度だったら別にいいけどさ。」
「うん。善処するよ。
……じゃ、ご馳走様。」
食器を洗い場に持っていく。
そして皿を洗っていると
「はい!これもよろしく!」
「……えっと?これは何かなさゆり君?」
「えー?見たらわかるでしょー?
これも洗って?ハート」
「可愛くないぞ。」
「はぁ?!友達は可愛いって言ってくれるもん!」
「お前友達の前でもそんなことしてんのかよ……。」
「……ぶー。」
ありゃ、ぶーたれちゃった。
これをされるとお兄ちゃんは弱いんです……。
「…はぁ。そこ置いときな。」
「え?!マジ!ありがとう!」
表情をコロっと変えて食器を置いてそのままどこかに行ってしまった。
「あいつ…。」
少し甘やかし過ぎだろうか。
つい先日、感心したのが嘘みたいだ。
…それでもつい甘やかしてしまうのが、兄の性なんだなぁ……。
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