第8話 名物リスナーの切り抜きと出会い

あれから、Na-kunさんは気になっている人とのデートの話を始めた。


俺も含め、その配信にいる人はみんな彼のコメントを待つ間は雑談をして、話の進展があるとまたその話題に戻る。


そのまま時間は過ぎてモニカちゃんの配信は終わった。


今回の俺は、話したかったことに関するコメントが読まれることなく、特に話題になることもなかった。


だからこそ、Na-kunさんが羨ましかった。

彼は多分、現実でも話上手な人なんだろう。

コメントを読んでてそう感じた。

とにかくコメントの最後を、続きが気になるような終わらせ方をするのだ。


するとついつい、

それからどうなったの?!

進展は?!

結末は?!


と皆がコメントをするので、モニカちゃんも他のリスナーに気を使うことなくNa-kunさんの話に集中できる。


そしてまた、続きをコメントすると共に、また気になる要素を残す。


俺の勝手な想像だが、Na-kunさんはそのような感じのコメント方法をしていたのだ。



……俺は今まで、自分が中心になって話をしたことがない。

過去の学校生活でも、面白い奴がその立場になることが多かった。


そして、自衛隊の時もそれは同じだった。

身体能力が高くて、シンプルにすごい奴。

話が面白い奴。

根性がすごい奴。


そんな人たちが上の人からも気に入られ、自然と周りに人が集まる。


……俺は、特別面白いわけでも身体能力が高いわけでも、根性が人一倍あるわけでもない。



それが、以前の配信で一度だけその配信の中心になれたことで、もう一度その気持ちが味わいたい。と思うようになった。


少なくとも、『佑』では配信の中心になることは難しいと思う。

だってこのアカウントは、Ytube上の俺の姿だから。

なんの取り柄もない、俺自身の姿だから。


〇〇〇〇〇〇〇〇



「…結局、スイーツの話できなかったっ…!」


モニカちゃんはすっかりNa-kunさんのことに興味津々だったし、他のチリスナーもそのことにしかコメントしてなかったじゃんか!


そんなところに、「俺、スイーツ食いに行ったんだよね。」って言ってもあぁそうですか。

でさー。ってなるに決まってる!

逆に話題変えんなって怒られるかもしれないし、余計無理だよ……。


でも、Na-kunさんの話は面白かったな。

デートをして、お互いのことをたくさん知って、次の約束まで取り付けたらしい。


ここまでいけばもう、頑張ってほしいな。


……あーあ。でも羨ましいなぁ……。


俺もあんな風にその配信の中心になりたいよ。

でもなぁ…。俺ってなんの取り柄もないからな。

結局他の人の方が面白いんだよな。


……うーん…。なんか寝れないし、Ytube見るか。


そして俺は大好きな冬海を見ようともう一度

Ytubeを開いた。


「ん?」


すると、これまでの俺のおすすめ欄は冬海や、そのコラボ相手の動画で埋まっているのだが、

そこにVtuberの切り抜き動画が載っていた。


ほーん。切り抜き動画か。

やっぱり大手のVtuberは専門の切り抜き師がいるもんなんだな。

と、そのチャンネル名を見て思う。


『イキシア恋華の切り抜きch』


知らないVtuberさんだ。

うーん…やっぱり有名な人だとコメント読まれることなんて稀だからなぁ。


この人の配信に行くことはないんだろうな。

と思いつつ、動画時間も7分と短かったので

まぁええか。と見ることにする。


タイトルは


《いつもの赤スパリスナーに振り回されるイキシア》



『━━━それで私の行きつけのコンビニでさー。』


どこか安心感を感じさせるような声が耳に響いてくる。

さすが有名な人なだけあって、声はとてもきれいだ。


いやー。確かにこの声なら人気にもなるわな。


と俺なりの感想を持っていると


※¥50,000

あなたの隣にファミリア・マント


ん?!今コンビニって言った?もしかすると俺が店長やってるコンビニかな?そうじゃなくてもなんか嬉しいのでこれで好きなもんでも買いな。


と赤枠のコメントがデカデカと表示された。


『えぇ?!

ファ、ファミマさん!?

赤スパありがとう…!

でも大丈夫?前も赤投げてくれたけど、ちゃんと生活できてる?本当に無理しないでね?』


¥5,000

あなたの隣にファミリア・マント


わかった!じゃあ赤は控えるね!



『待って?!全然わかってないよね?!

赤じゃなければいいやって訳じゃないよ?!』


その他コメント

:wwwww

:5000も十分高いのよww

:ナイスパァァァ!!

:¥5,000

まけねぇぞ!!


:わかってねぇなこりゃww

:俺たちがファミリアで使ったお金がシアちゃんに投げられる…つまり実質俺もスパチャしてる。

:ふぇぇぇ。俺のお小遣い分だよぉぉぉ

:¥2,000

これは便乗の流れか?!


:¥320

俺にはこれしか出せん。



『ちょ?!ちょっと皆?!便乗とかしなくていいから!

すっごくありがたいけど、恋華みんなのお財布が心配っ!!』


¥1,000

あなたの隣にファミリア・マント


しゃーない。ほなこれで許したるわ。


『ねぇ?!本当に大丈夫なの?!

ファミマさん奥さんいるでしょ?!怒られないの?!』


¥1,000

あなたの隣にファミリア・マント


趣味に使うお金と言ってあるのでぇ。怒られないんすねぇ!!www


その他コメント

:出ました!スパチャで会話するやつ!

:ファミリアさんの伝統芸きちゃ!!ww

:これが富豪の遊び方です。

:趣味代を全てシアたんに貢ぐシアターの鏡

:これこそが本物の愛だわ。


『わー!何を言っても送られてくる!もうだめ!スパチャ切ります!!流石に私も限界です!!』


その他コメント

:何?!それだとファミマさんが話せなくなるぞ!?

:シアちゃんは口を奪うのか?!

:ファミマァァァ!起きろぉぉぉ!!




………なんというか、凄かった。

俺にはとてもマネできないが、とにかく思い切りがよくて面白かった。

切り抜き師の編集も良くて、そのファミマさんがその動画の主人公であることをちゃんと示していた。

(彼のコメントを大きくして、効果音を付けたり)


それに、振り回されるイキシアさんもちゃんと可愛かった。


きっと、彼は名物リスナーの1人なのだろう。

コメントでも、

「出た!」「恒例の!」「伝統芸!」

などと言われていることから、彼は以前から多くのリスナーとイキシアさんを楽しませてたに違いない。


そこで俺は思うのだ。


やっぱり俺も名物リスナーになりてぇよ。

どうやったら、こんなふうに配信の中で有名になれるんだよ。


と。


━━━━━━━━━━━━━━━━

ここまでご覧くださり、ありがとうございます!


通知に応援されました。フォローされました。

評価がつけられました。


と表示されると脳汁が出ます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る