『オーロラの彼方へ』

「俺は生きてるぞ。チビ隊長」


【概要】

 ニューヨークに30年ぶりにオーロラが降り注いだ日。

 時空を超えて、30年前に亡くなった父親と無線機でつながった刑事が、タイムパラドックスを巻き起こしながら、過去の事件を解決し、親子の絆を深めていくというストーリー。


 タイムパラドックスを題材としていますが、それ以上に親子の愛や友情、運命や選択などを描いています。過去と未来が影響しあうことで、登場人物たちの人生が変わっていきますが、それでも変わらないものもあります。


 父と息子が協力して連続殺人事件を解決しようとする部分は見応えがあります。また、野球や音楽などの歴史的な要素も映画に彩りを添えています。そこら辺に詳しい人には、懐かしさを伴うことでしょう(ボクはわかりませんが)。映画の中でも解説はされているので、詳しくなくても、理解はできます。


【登場人物】

ジョン・サリヴァン:ニューヨーク市警の刑事。高校時代は野球に打ち込んでいたが、肩を痛めて断念した。父親に「チビ隊長」と呼ばれていた。


フランク・サリヴァン:ジョンの父親。消防士で、30年前の倉庫火災で殉職したはずだったが、ジョンの助言で生き延びる。


ジュリア・サリヴァン:ジョンの母親。看護師。フランクの生存によって連続殺人事件の被害者になってしまう。


サッチ・デレオン:ジョンの同僚刑事。フランクとも無線機で交信する。


ゴード・ハーシュ:ジョンの親友。インターネット検索エンジン会社の株に失敗した。


サマンサ:ジョンの恋人。ジュリアの同僚看護師。


ジャック・シェパード:ナイチンゲール連続殺人事件の犯人。元警察官。


【所感】

 マイナーな映画ですが、アイデアは物凄く面白いです。

 概要に書かれた設定でピンと来た方もいると思いますが、韓国ドラマで日本でもリメイクされた『シグナル』の原作でもあります。


 片方の主人公は過去の人物であり、もう片方の主人公は現在の人物であるという構図です。この形式によって、現在側は「過去に何が起こったのかを知っている存在」となり、過去側はその通りのことが起きてびっくりするという、もうこれだけで、勝ったも同然のいい構図を手に入れます。


 見ている側は、過去側で起こることは、既に予言されているので、見ていて気持ちいいのです。


 二つの時間をつなぐ方法として「混線するアマチュア無線機」を本作では取り入れています。その理由付けに「30年に一度のニューヨークでのオーロラによる電磁波の異常」を使います。『シグナル』には、そういう設定がなかったですね。


 このような「片方の時間だけが知っている情報」を扱う方法は、転生モノ、歴史転生、転移モノ、タイムリープものに通じるものがあります。なので、絶妙に見ている人、読んでいる人が知っている時間帯や事実を使うのがコツですね。


 何が起こるかを知っているからこそ、物語を変えることができる、その後の展開が読者には予想できるという奴です。


 つまり転生モノのテンプレの面白さの、一端が、ここにはあります。もっと言えば、テンプレと呼ばれるものは、鉄板の面白さを組み合わせたものであり、その面白さを突き詰め、要素を因数分解して、それを再構築すると、全く別の企画設定でも、面白さを保つことは、理屈上では可能ということです。


 ただ、とてつもなく面倒ですけどね。「『面白さの本質の数』や『物語の種類』は有限だ」という人は、この部分を言っているのだと思います。


 さて。無線機を通じて、過去を生きる父親を生き延びさせ、その時起こっていた事件を解決させるわけですが、それはあくまでもストーリーの展開という形で、テーマではありません。そこに宿るテーマは、30年の時空を離れた父と子の愛情です。


 バタフライエフェクトと同じで、何かをすると、何か別の悲劇的な結果が出てしまうという、やるせない部分もあります。


 カクヨムの読者層である二十代や三十代はまだ「家族愛」に関心が薄いですが、三十五を超えたくらいから、俄然、家族や兄弟の愛情には読者が付くように思います。


 それをラノベ要素満載でいつか伝えることができたらいいなぁと……。


 全体的にはサスペンス。ラストシーンは驚きと安堵。

 小品ですが、いい作品です。個人的には『シグナル』とはテーマが違うので、こちらのほうが好きかもしれません。

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