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『GATTACA』

「今後の参考までに――右利きは用を足すとき左手じゃ持たない。気を付けるんだな」

【概要】

　タイトルは「ガタカ」と読みます。

　遺伝子操作によって優れた能力を持った「適正者」と、自然妊娠で生まれた「不適正者」に分けられた近未来の社会を描いたSF映画。

　主人公のヴィンセントは「不適正者」として生まれましたが、宇宙飛行士になる夢を諦めません。この世界は「不適正者」というだけで、就職先にも困る世界です。

　彼は「適正者」のジェロームと身分を入れ替えて、宇宙局「ガタカ」に入り込みます。正体がバレないように様々なところで「適正者ジェローム」のフリをし続ける「不適正者ヴィンセント」の偽装工作。

　そこに殺人事件が起き、この施設にいるはずのないヴィンセントという不適正者のまつ毛のDNAが見つかってしまう……。

　サスペンス展開です。

　少年の夢としてわかりやすい「宇宙飛行士への憧れ」を、話を転がす原動力にし、遺伝子操作によって「優位に立った人間」と、自然分娩という「劣位に立った人間」の関係性というテーマ。それを入れ替わりモノ（例えば王様と乞食が入れ替わるような奴）構造で、話をスリリングに展開していきます。

　そのテーマは深く、そして悲しさと、挑戦する勇気を与える、涙なしには見られない作品。見る者の心に、何かを突き立てていきます。

　映像全体はとても静的なスタイリッシュさを持ちます。SF作品ですが、特段、CGやSFXを使っていないのに、近未来感はとてつもなく凄いという面白い映像ですので、一見の価値ありです。

【登場人物】

　ヴィンセント：「不適正者」として生まれた主人公。心臓病を患っており、30歳までの寿命と宣告されている。宇宙飛行士になる夢を持ち続け、ジェロームと身分を入れ替え、遺伝子検査を騙しながら、宇宙飛行士を選抜する組織「ガタカ」に入る。

　ジェローム：「適正者」として生まれた元水泳選手。事故で車椅子生活になり、自殺しようとしたこともある。ヴィンセントに自分のDNAを提供し、彼の夢を応援する。

　アイリーン：「適正者」として生まれたガタカの女性局員。心臓に問題があることを隠している。ヴィンセントと恋に落ちるが、彼の正体を知ってしまう。

　アントン：「適正者」として生まれたヴィンセントの弟。警察官となり、兄の捜査に関わることになる。

【所感】

　数ある近未来SFの中でも白眉の作品。

「デザインされたDNAをもつ人間」という世界観で、この「入れ替わりモノ構造」を持ち込むのは、かなりセンスがいい脚本。

　並みの脚本ならば「適正者」対「不適正者」という「対立構造」に焦点を当ててしまいがちではないでしょうか？　この脚本は、そこよりももっと深いテーマに光を当て、「入れ替わりモノ」の構造を見事に昇華させています。

　まさに「人」「生き方」を見せる脚本であり、そして「頑張る人を応援する気持ち」が隠れたテーマであり、観後感を高めています。

　それもこれも、ジェロームという体が動かせない「適正者」がいるから、成立します。彼が事故という不慮のアクシデントによって、不適正者以下の状態であるからこそ、色々な仕掛けができる物語です。

　この設定は、本当にすごいアイデアだなと思いました。「デザインされたDNA」というテーマの映画は、この作品がほぼ先行者であるにも関わらず、大胆すぎるでしょ？

　遺伝子の優劣というどうしようもない理不尽さや、諦めきれない思いが、この殺人事件と共に緊張感を高めます。親ガチャ世代には、なんとも言えない味わいではないでしょうか？

　ホント、この話、うまいなぁ。

　戸籍の入れ替えネタ（例えば黒澤の『悪い奴ほどよく眠る』）に当時の最新科学の知見を入れつつ、そこに潜む倫理観もさることながら、「普通の人であっても、努力をすればきっと夢がかなう」という王道のテーマを掲げているのも、注目。

　そして「実は、見守られ、応援されていた」という事に気付く時、この物語は一気に深みを増します。

　視点は常時、主人公ヴィンセントの視点ですが、もう一人の主人公ジェロームの悲しい最期もあり、深い感動が訪れます。

　こういう「対立構造に見せかけての人情構造」は、どこかで真似したいです。

　入れ替わりモノには、他にも「独裁者（チャップリン）」や「フェイス・オフ」などもありますが、この作品も引けはとらないと思います。ご興味ある方は、是非。