『七人の侍』

「お前たち、百姓を仏様だと思っていたか! 百姓ほど悪ズレした生き物はないんだ! でもそうさせたのはお前ら侍だ!」


【概要】

 戦国時代末期の農村に毎年略奪に来る野武士たち。その村の百姓たちは、これに対抗するために、食い詰めた侍を雇って戦うことを決意し、七人の侍と出会います。


 侍と百姓という身分差を乗り越えながら、村を守るために、協力し合って、時には反目しあって、野武士との壮絶な戦いに挑みます。


 話は、最初に侍を集めるパート。次に侍と百姓たちの交流の中から、それぞれの生き方を深堀していくパート。最後に野武士と対決するパートの、典型的な三幕構成です。


 よく映画界で話題になるのは、最終パートの豪雨シーンですが、最初の侍を集める部分も非常に有名で、ぐいぐいと見る側を引っ張っていく感じがあります。観客は農民の一人のような気持ちで、この不思議な侍たちを見つめることになります。


 小さな村を要塞化し、作戦を立て、農民たちに武器の扱い方を教え、野武士たちに対峙しつつ、農民と侍という、真逆の生き方をしている対比構造も持っています。臆病と勇敢、奪われるものと奪うもの、戦うものと守るもの、しかし、それを超えて、互いが人間であるということに気付かされます。


 侍を決して「カッコいいもの」とせず、泥臭さも出しながら、黒澤の人間に対する温かい目線が、そこかしこに滲んだ作品です。


【登場人物】

勘兵衛:七人の侍のリーダーで、冷静沈着で歴戦の智将。一度は断ったものの、百姓の熱意に負け、一緒に戦う侍を探す。


五郎兵衛:温厚で誠実だが腕の立つ浪人。勘兵衛の人柄に惹かれて協力する。


七郎次:勘兵衛のかつての相棒で、軽妙洒脱な浪人。勘兵衛が求めることを理解し、協力する。百姓たちを励ます現場のリーダー的存在。


平八:気さくでふざけ屋の浪人。村人たちともすぐに打ち解ける。茶店で薪割りをしているところを勘兵衛に誘われる。エリア88のグレッグ的な存在(あっちが真似か)。ムードメーカーであり、笑いを誘う役割。


久蔵:剣術に秀でた浪人。無口でクールだが、内に秘めた情熱やプライドがある。この戦いを修行と考えている。時折、百姓たちに対して優しさも見せる。黙々と自分の役割をこなす職人タイプ。


勝四郎:若侍で、勘兵衛の弟子になる。男装していた百姓の娘・志乃と恋に落ちるが、娘を野武士にとられないようにしていた志乃の両親にとっては、複雑な思いとなる。この物語の視点のひとつ。観客と同じ目線を持つ。


菊千代:百姓生まれの侍で、家系図を盗んで自称する。無邪気で好奇心旺盛。しかし百姓の気持ちを誰よりも理解している。「こいつは俺だ、俺もこの通りだったんだ!」は前半のクライマックス。いじられキャラ。彼の戦いと成長と死が、この作品の重要な肉付けでもある。


【所感】

 ストーリーテラー必見ですが、ネットでは扱われていない作品なので、まだ実物を見ていない人も多いのでは? レンタルはできると思います。


 籠城戦、城攻めを物語で描くのって、割と難易度が高く、どういう結末にするかで、与える印象が変わります。


 攻め手主観で、勝利で終わる場合。

 カタルシスは大きいですが、負け側が典型的な悪党であることが求められます。大義名分が必要です。でないと弱い者いじめに見えかねません。トロイア物語なんかは、ギリシャ側が味方同士で反目しあっているから物語が成立していて、そうじゃなければ、一方的な戦いに見えかねません。


 攻め手主観で、敗北で終わる場合。

 相手を称える物語とかになりやすいですが、モヤモヤとします。負けると分かっていても戦わざるを得ない状況が欲しくなります。


 守り手主観で、敗北で終わる場合。

 最初から負けるとわかっているのであれば、どこまで粘れるかが話となり、勝つつもりでいるのなら、裏切りや計算ミスの仕掛けが欲しいです。また奪還という再目標が欲しくなります。大坂の陣を扱った司馬遼太郎の『城塞』や、アルスラーン戦記の一巻が、こんな感じですね。


 守り手主観で、勝利で終わる場合。

 作戦の巧妙さや、攻め手の悪党ぶりが欲しいです。守る大義名分ですね。どうせなら、犠牲の大きさも欲しく、勝利しても悲劇という物語性があるといいかも。『七人の侍』はこのパターン。


 本作では、最終的に「勝つって、なんだ? 誰が勝ったのだ?」というところまで深掘り、それぞれの生き様に思いを馳せるエンディングになっています。


 本来映画にはあまり視点の構造はありませんが(カメラ視点)、物語としては「若侍の勝四郎」と「農民」の視点を利用しています。これによって、見る側は、強い侍に率いられた一人のような視点で、物語に参加していきます。


 小説の場合は、この手の物語は群像劇になりやすいので、神視点か、章ごとに各侍の視点とかのほうが、構造としてはやりやすいかもしれませんね。一人称視点だと、同時多発に起こる戦闘を語るのが難しそうです。その場合は、大胆な省略手法を用いる必要がありそうですね。


 本作は、西部劇『荒野の七人』や、ネットフリックスの『マンダロリアン』などでもエッセンスが使われています。多くの映画に影響を与えたと言われています。

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