第10話 ひばり

倒れたユーフラジーは孤児院に運ばれ、安静を命じられた。

ヴィクトルは仕事を早引きし、ユーフラジーの傍にいた。

目を覚ましたユーフラジーはひどく陰鬱な目をしていた。

「ヴィクトル。私は……」

「目を覚ましたか。絶対安静だそうだ。きっとここのところ忙しくて倒れて……」

「そうじゃない。思い出したの。記憶を失う前のこと。私は見世物屋にいて、あなたと会ったことがある」

やはり、とヴィクトルは思った。ユーフラジーの纏う憂いは、数年前の『ひばり』と同一だった。

どうしてそんなに苦しそうな顔をしているのか。ずっと気にはなっていた。


「ヴィクトルに話したいことがある。あなたに、君に」

ユーフラジーには昔母親がいた。大体5歳くらいのことだった。母親は美しかったが、男に捨てられユーフラジーと二人になった。ユーフラジーをいたくかわいがり、女工をしていたが、とある日に事件は起こった。

ユーフラジーは母親より美しかった。見世物屋が目をつけ、家に押し入り、母親に多額の報酬と引き換えにユーフラジーを渡せと脅した。母親は抵抗し、見世物屋に殺され、ユーフラジーは連れ去られた。そのまま抵抗できることもなく、ユーフラジーは見世物にされてきた。そして見世物屋は馬車の事故を起こし、ユーフラジーは川に投げ出され、農夫に拾われた。


母親は自分のせいで殺された。

それがユーフラジーの纏う憂いだった。


ユーフラジーは涙をこぼして、ぼーっとしていた。

ヴィクトルが呼びかけても、返事をしない。

すぐにルブラン氏を呼んだ。

駆け付けたルブラン氏は手遅れだといい、自分の病院に入院させるようにした。

その病院を経営するマドレーヌ市長に、ヴィクトルは会いに行くことにし、ユーフラジーを見送った。

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