第6話 再会
ブライユ警部一行――ヴィクトルとその部下は少年スパイの選別のため、ミネット孤児院にやってきた。
この孤児院では派遣された修道女の影響で優秀な子どもが増えたという。
して、警察内部に引き込んで勉強をさせ、スパイとして使う。本人が望めば成長後、警察になることも許される。
孤児院の扉を開けると、身綺麗な子どもたちと、院長、それから話題の修道女がいた。
ヴィクトルはそこでも驚愕する。
かの修道女は昨日ルクセム公園で出会った、『ひばり』に似た少女だったのだ。
いかめしい警察を前にして、子どもは院長と修道女に集まる。
「コゼット。警察が来たよ」
「心配ないよ。彼らは人さらいじゃないから」
修道女――ユーフラジーは凍ったようなまなざしで一行を見つめるが、ヴィクトルを見つけて、目元をゆるめた。
「あなたは、昨日ルクセム公園でお会いした……」
「アリー警察署本部のブライユだ。今日は孤児たちの選別に来た」
「ブライユさんというのね。ここの子たちはみんな優秀です。成功を約束してくれるなら、連れて行ってくれてかまいません」
「ここで文字を読める子どもは?」
「全員です」
ヴィクトルは絶句した。文字を読む孤児など聞いたことがない。文字を読むなど、富裕層の子ども以外にあり得るだろうか。
「なら数学ができる子供は」
「マリーとピエールなら」
マリーとピエールは不安そうだ。
「計算を解かせてみる。これを解いてほしい」
紙とペンを二人に手渡す。
マリーは解けなかったが、ピエールは正解した。
サライが鋭い眼光を警察に向ける。虎の獲物を見る目のようだった。
ヴィクトルはそれを流すようにして、淡々と告げる。
「ピエールを連れて行く。報酬は今ここで払う」
ヴィクトルが金を出そうとすると、ピエールが泣き出した。
「嫌だよ!ここにいたい!」
ユーフラジーにしがみついて、泣きじゃくる。
ユーフラジーはしゃがんで、ピエールの頭を胸に抱きよせた。
「大丈夫。立派になったら帰っておいで」
「うう。もうコゼットの歌が聞けないのは嫌だ」
「歌ってあげるから」
サライも頷いた。
ユーフラジーは歌う。
「花は歌いぬ、風は歌をつれて……」
その歌はかつて『ひばり』が母親に歌ってもらったという歌だった。
ヴィクトルはそれを忘れたことはない。このメロディも少し成長した美しい澄んだ声も。
「一つ提案がある。ピエールがまだ不安だというなら、もう少しここに置いていてもいい。その代わり、勉学をここで教える」
ヴィクトルはそう上に提案するつもりで告げた。
サライは泣きそうな顔で、息を吐いた。安堵だった。
果たしてそれは叶い、ピエールはしばらく残ることになった。
勉学を見るのは、少年スパイ経験のあるヴィクトルになった。
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