第3話 ひばりとの別れ
ヴィクトルの母親は医者だった。
とある事件で亡き者となったが、ヴィクトルの心には四年経った今も然として残っている。
ひばりと呼ばれる少女の激しい咳。
母親なら治せたかもしれない。
「胸に死神がいる」
この国の死のことば。
激しい咳は血交じりとなり、吐血して死ぬ。
それがその病気の最期。
それがひばりと呼ばれる少女の病気。
「命は長くない」
テントを後にしたヴィクトルが呟く。
あの少女に抱いた情は初めてのものだった。何かを掻き立てられるような、鼓動が早まり、くらくらして、火照ってしまう。
初恋だと知るのはこの数年後。
護衛の期間も満了し、見世物は首都アリーにある、王の住む城へと出発をした。
最期に握手を交わして。
三日後の新聞。
見世物の馬車は馬の疲弊により、崖から川へ転落。死体のみが発見され、見世物の人員の10%は川で流れ行方不明。
無論その中にはひばりもいた。
ヴィクトルはそのニュースに涙しなかった。
人は死ぬ。どんな運命であっても。
その人に、その人たちにどんな情を抱いても、死を避けることはできない。
仕方がない。
ヴィクトルはその後、急に昇進した。
ひばりが手紙を残しており、ヴィクトルの仕事ぶりをしたためていた。
一度矢が飛んできたことがあり、ヴィクトルが持っていた警棒で払いのけたのだ。
そのことは王の耳に入り、地方に勤めていたヴィクトルは首都アリーに異動することとなった。
ひばりとの別れから三年になる頃には異例の出世を果たし、17歳にして警部になっていた。
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