第2話 ひばりの歌

ヴィクトルは主に夜の護衛を任された。

昼は報告書の作成、夕方は寝る。


あの少女のテントから歌声がすると、人だかりができていた。

このテントには限られた人間しか入れない。ヴィクトルはその例外である。

状況把握のため、テントに入った。

少女は腰掛けながら編み物を操って、歌っていた。


「夜だから歌うのをやめてくれないか」

少女はぴたりと口を閉ざし、ヴィクトルを見た。

また心臓が跳ねた。が、心を落ち着かせる。

「喉を休めてはいけないから」

「外まで聞こえてる」

「……!」

少女は顔を真っ赤にする。

ヴィクトルもすこしばかり切ない気持ちになる。

「ねえ、護衛さんだよね。お名前は?」

「ブライユ」

「この年でブライユさんと呼ぶのは違和感があるね。下の名前は?」

「ヴィクトル」

少女は「ひばり」と呼ばれている。芸名は確か。

「お前は『ミラ』だったか」

少女はうつむいた。

「ヴィクトル。勝利っていう意味だね」

無駄話だが、なぜか心地いい。それは少女の声があまりにも澄んでいたからかもしれない。

「ヴィクトル。私の歌を聞いてくれる?今はもういないお母さんの子守歌」

「ああ」

様子を見に来ただけなのに、返事をしてしまった。


「花は歌いぬ 風は歌を連れて……」

ひばりの名の如く、見事に歌った。

ミラはふーっと息をついた。

刹那、激しく咳をした。

「おい!大丈夫か!」

ミラは引きつった笑顔でヴィクトルを見る。

「私の胸には死神がいるの」

つまり胸の病気ということだ。

こんな時、母がいればとヴィクトルは不覚にも悔しかった。

ミラが落ち着いてから、テントを出て群衆に歌の練習だったと説明をした。

群衆は散らばり、帰っていった。

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