ああ、無常

噫 透涙

第一章 ひばり

第1話 見世物のひばり

ヴィクトルは今回の任務にやや辟易していた。

少年密偵として警察に雇われてから、スパイ活動をして警察に報告をする。給料がもらえればいいと思っていた。

しかし今回の任務は王に謁見する見世物小屋の少女の護衛。

武術は一通り叩き込まれてはいるが、いち見世物のために警察が体を張るとは。王も偉くなったものだ。


テントをくぐり、少女に接触する。

豪華なドレスに身を包んだ少女。

陶器のような白い肌に、銀糸を織り込んだような金髪。凍った湖のような冷たい青い瞳。

不幸なのだろう。長いまつげが目元に影をつくっている。

世間を賑やかせる、天使とも謳われる少女は、美しくも幸せではないようだった。

確かに、ヴィクトルもびっくりするほどの容姿だった。さらにはこの少女は綺麗に歌うのだと。見世物小屋では「ミラ」という名前で活動し、一般的には「ひばり」と呼ばれていた。


ヴィクトルはとある事情からこの王国に亡命した外国人である。それでも14の若さで警察密偵として活動している。顔立ちはこの国ではないが、色素の濃いところがこの国にも馴染んでいる。

黒髪に黒い瞳。それから、整った顔。

美意識の高いこの国は相手が外国人であろうと、顔が良ければ良しだった。


首都アリーでは犯罪がとても多い。

インフラの整備もあまりなっておらず、貧民街と富裕層の住宅街は差が激しい。

そのため警察も手いっぱいで、少年を雇うほどである。

そんなところに見世物の絶世の美少女が来るというのだから大騒ぎだ。


ヴィクトルは少女に話しかけた。

「今回あなたの護衛を務めるブライユだ。あまり一人で動かないように」

この重いドレスで動けるはずもないが。

少女はヴィクトルを見た。というより射貫いた。

心臓が跳ね上がる。今まで感じたことのない情に駆られる。

「と、とにかく、我々は仕事をやるだけだ。邪魔はしないでもらう」

そそくさとテントを出たヴィクトルは護衛の任務の正体が分かった。

彼女は異質だった。あの目でみられると撃ち抜かれた気持ちになる。

男どもが「いたずら」をやらかしてしまうことも大いに考えられる。


「そういうことか」


護衛に自分のような子どもを使った理由が分かった。

思春期とはいえ、まだそういうことは知らない。らしい。


王への謁見まで三日。冷たい瞳に熱いものを感じていた。

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