温かい記憶
あーる
温かい記憶
池のほとりの大きな木の下 そこに座るひとりの少女
これは伝えられたお姫様と 消されてしまった温かい光の
曖昧だけど確かにあった絆の記憶
池から見える城には小さなお姫様がいる
少女は何不自由なく暮らしてきた
空腹に苦しむことも 寒さに震えることもない
望まなくても全てが手に落ち 誰もが膝を折る
それでも少女の心には何かが足りなかった
少女のいる空間はとても静かだ
少女の空気の揺れを見逃さないように
そこにいる全ての存在が全神経を研ぎ澄ませる
けれど少女の心はここにはない 少女の心は何かを求めるように渇いている
そんな少女の心に 恵の雨を降らせる場所がある
それは城の窓から見える池 そこだけが少女の心を潤す場所だった
『何度も夢を見るの 私は女の子と手を繋いでいて
女の子は私に ずっとそばにいるよって笑ってくれるのに 私はずっと泣いてる
私はその手を離したくなくて その手をギュッてするけど
その夢は消えてしまうの
私はその夢を見ると なぜか窓から見えるあの池に行きたくなるの
ここはとても安心するし なんだか懐かしい感じがして
温かい何かに包まれているような そんな感じがするの』
私が夢の中で握り締めたあの手はどうなったんだろう
夢の続きを見ることはいつもできない
でも なぜだろう 私は何か大切なことを忘れている気がする
池のほとりの大きな大きな木の下 そこに座るひとりの少女
池から見える城は長い長い時間の中で廃れてしまった
この城には言い伝えがある それはここで生まれた小さなお姫様の話
お姫様は何にも興味を持たず
城の窓から見える池を いつまでも見つめていたそうだ
お姫様がいつもひとりで その池に来てただ静かに座っていた
その姿からお姫様は 『孤独姫』 として伝えられるようになった
けれどこの言い伝えには知られていない部分がある
このお姫様には双子の妹がいた だが双子は不吉と言われた
そのため生まれたとき妹は 城の近くの池に捨てられてしまった
双子は引き離される瞬間まで手を繋いでいたという
言い伝えのお姫様は 今でも霊になって池のほとりを訪れて
温かい光に包まれながら とてもはしゃいでいるという
それはいつまでも見ていたいような 微笑ましい光景で
それを見た人は 思わず静かに身を潜めるてしまうのだ
その時間を邪魔しないように
その絆は 夢のように曖昧で 静かな儚い糸だったかもしれない
けれど ”孤独姫” が泣きながら握り締めたあの手は確かに繋がっていたのだ
池に響く笑い声は いつまでも消えることはないだろう
静かな儚い糸は いつまでも強く どこまでも深く 繋がっているのだから
温かい記憶 あーる @RRR_666
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