#21 新たな力

同行者としてソルグロスがついてくることとなった私たちは、ソルグロスに強くしてもらうため、修練場へ足を運んでいた


「ほー…兄ちゃん、大層なもん持っとるなぁ…ワイでも“魔法器具アーティファクト”とか扱うたことないのに…」


修練場にきたソルグロスあたりを見渡しながらそういう。といっても、私たちが修練場として使っているのは人間たちが使うようなものではなく荒れ果てた大地の空間なのだが…


「意外だな。お前ほどの実力者が扱ったことないなんて」

「そりゃそうやろ。そもそも“魔法器具アーティファクト“自体そんな流通しとるもんやないし、希少なもんなんやから。使ったことないやつの方が多いと思うで?兄ちゃんそれどこから仕入れたんや?」


確かにそうだ。ヘインが魔法器具アーティファクトを取り出した時から不思議に思っていたのだが、一体どこで手に入れたのだろうか。


「殺した人間がたまたま持っていたからな。役立つだろうと思って奪って保管しておいた。」

「な、なるほどな。クールかな思うとうたけど、なかなかバイオレンスな兄ちゃんやで…」


ソルグロスが若干引き目でヘインのことを見る。いやあんたも人のこと言えないと思うけど…


「まぁええわ。とりあえず、教えられるものを教えとくで」


ソルグロスの雰囲気が変わり、あたり一体に少し緊張が走る。表情を引き締めるだけで、雰囲気がこんなに威圧的になるとは…


「まずワイから溢れ出しとるこのオーラみたいなやつ。これは『闘気』っちゅうもんや。これは己の闘争心から出る力のことで、感情が昂ぶれば昂る程溢れ出る力が濃くなる性質を持っとる。そしてとんでもなく柔軟でな、こんな感じで溢れとる状態から…」


ソルグロスが拳をキュッとしめると


「力を込めれば硬質化する。硬質化した闘気はどえらいほど硬くてな、指標があればわかりやすいんやけど…あ、せや、この岩使わせてもらうわ」

「岩?岩を使って何を…」

「まぁまぁ嬢ちゃん、今から見せたるから焦らんといてや」


そしてソルグロスが私たちから見て正面の岩に向かってグーパンをする。そしてドゴォン!と言う激しい音と共に、私たちの目の前の岩が砕け散った。


「こんな感じやな。闘気を拳に纏えば尋常じゃない力を発揮するんや。」

「うわぁ…」


闘気を纏うだけでここまで人間離れしたパワーを発揮できるのか…異形だから人間ではないけど…


「これを応用した技もいくつか教えるで。試しにヘイン、ワイに攻撃してみぃや。」

「?わかった」


ヘインが容赦なく棘をソルグロスに刺そうとする。だが当たる直前で、ヘインの棘は動きを止めてしまった


「?なんだ…?止められた…?」

「これが応用技術の一つ目『闘気纏鎧・剛とうきてんがい・ごう』や。体全体に闘気を膜のようにして張って身を守る技術やな。」


戦闘中は体に常に力が入ってる。それを利用した戦闘技術っていうことか


「もう一度ワイに攻撃を打ち込んでみぃや」


そういうとソルグロスは手を前に構えて武術のような構えをとった


「今度は容赦しない」

「わはは!ええよ!かかってきぃ!」


いや修行なんだけど…殺す気で行ってどうすんの…それでなんでソルグロスも乗り気なんだ…私がそう思ってる間に、ヘインが棘をさっきよりも早い速度で飛ばす。だがヘインの攻撃は当たることはなく、ソルグロスのことを避けていた


「棘が…あいつを避けた…?」

「これが『闘気纏鎧・柔』。闘気の柔軟性をフルに活用した技術で、攻撃が当たった箇所の闘気を外側に流して力を受け流す技術のことや。ちなみに剛の方よりも難易度は高いで。その代わりにカウンターがしやすい『闘気纏鎧』や。」


瞬間的に闘気を硬質化させる、と言うことだろうか。確かに前者の方より難しそうだ。


「後は…そうやな。これも教えとくか。」


すると闘気がソルグロスの脚へと集まっていっていた


「これは『練気脚』。闘気を練って脚に纏わせたモンや。主な効果は脚力が向上してそこそこ速くなったり蹴りが強くなるっちゅうもんやな」

「具体的にはどれくらい速くなるんだ?」

「そうやな…よし、目凝らしてよく見ときや」


そう言った途端に私たちの目の前からソルグロスが忽然と姿を消した。


「こんな感じで早くなる。どうや?」

「!?いつの間に後ろに!?」

「わはは!そこまで驚いたっちゅうことは指標としてどれくらい早いかわかってくれたっちゅうことでええんやな?」


とんでもない速さだ。言われた通りに目を凝らしていたが認識することができなかった。もちろん私たちの鍛錬不足の可能性もあるが、それを考慮してもとんでもない速さであることは間違いなかった


「んまぁこれだけじゃ足に負担がかかるばっかでこれはおすすめできひん。まぁ習得できればよしって言うレベルの技術やな。というか『練気脚』に関しては習得がスタートラインや。そこからの発展技の方が幾分もええ。ええ機会やし、それも一応教えとくか。習得できるかは別として、な。」


なんだか鼻につく言い方だが、おそらく高等技術なのだろう。『練気脚』自体が既に強力だ。だがおそらく習得難易度も高い。そこからの発展技となると、おそらくとんでもないレベルの強さなのだろう。そんなことを考えていると


「じゃ、いくで。」


ソルグロスが離れた場所からそう言った途端に再度姿を消した、と思うのも束の間、既に眼前まで迫ってきていた


「!?」

「さっきよりも到達する速度が速い…一体何をしたんだ?」

「これが“練気脚”の発展技術『俊響歩法しゅんきょうほほう』や。自身のステップと闘気の放出を同時に行う歩法のことや。これは“練気脚”よりも足の負担が少なく、そしてより速く移動できるもんや」


なるほど…教えてもらった技術の中では1番難しいのかな。だけど修得することができたら大きな一歩になりそうな予感がする。


「とりあえずはこんなもんやな。これがワイが教えられるアンタらの“種”に必要な栄養、つまりは新しい力や。これを習得できれば、あんたらの中にある種は大きく成長することになる。苗木くらいにはなるんやないかな。」

「なるほどな…まずは“闘気”を扱えるようになれっていっているんだな?」

「そういうことや、まぁ焦らんでもええよ。楽して早く強うなれる方法なんて存在しないんやからなぁ。時間をかけた方が強くなれるんやから。」


そう言ってソルグロスは私たちに向き直り、先の真剣モードから人が変わったように顔を綻ばせ、いつもの調子を取り戻した


「気楽にいこうや。焦っててもいいことないし、そんなに追い詰めてたらできるもんもできんくなるからなぁ。緊張ほぐして、リラックスや!」


そう言ってソルグロスは手を宥めるような動作をして落ち着くようにと言っている。修行の時はそれ忘れて結構焦るだろうけど、自分の中では少し意識してみよう。そんなこんなで私たちはソルグロスから教えられた技術を会得するために鍛錬を始めるのであった

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