#21.5 迫る魔の手

メイプルたちが平和な日常を過ごす裏側で、すでに不穏な動きは起こり始めていた


「ゆ、許してくれ…!」

「許すと思うか、忌み者が。」


ザシュっと、金属が皮膚を切る鈍い音がして、人影が血を噴き出して倒れる。立っているものは騎士のような出立をしていて、軍服の上にコートをかけている。さながら団長のような感じだった。


「今回も、ネクスが逃した異形にはありつけなかったか。」


男は、ある人物を探しているようだった。だがその探す容貌は、決して良い目的で探しているような感じではなかった。


「仕方なしか。ネクスが逃した異形を、俺が捕まえられるとも限らんしな。まだここら近辺は探していないが、異形が残した痕跡のようなものもない。…手当たり次第に探せ!どんな情報でもいいから持ち帰るのだ!」

「了解しました!」


男が連れている兵士に対して命令する。虫のように集まっていた兵士は瞬く間に散開し、辺りを探し始めた


「さて、先の異形を追っていたときにも気付いたが、まだ近辺に異形が隠れているな。」


男は一見何もない木々の間を凝視し


「そこにいるな。馬鹿なものどもだ。あの異形が逃げていた時に逃げおおせていればあったかもしれない命を自ら捨てにくるとはな」


そして男は剣を取り出し、木々に向かって剣を振り上げ


「!!おいっ!全員逃げろ!」

「もう遅い」


その一言と共に、剣を振り下ろした。そしてその一振りは、先ほどまであった数十本の木々をを全て吹き飛ばすほどの威力をうんだ斬撃となって、そこに隠れていた異形たちの命の灯火をかき消してしまった


「ふむ、少し威力の調整に失敗したか?まぁいい、全員狩れたならそれで、な。」

「上官!こんなものを見つけました!」

「ん?なんだこれは?…棘?」


1人の兵士が紺色の棘を持ってきて、それを男に見せる。明らかに、森に生えていいような自然なものではなかった


「…そういえば、ネクスと戦った異形は棘を扱う、と言う情報を聞いたことがあるな。これがそいつの棘だとするなら、重要な情報だ。いまもこの森に隠れて暮らしていると言うことだからな。なんにせよ、情報感謝する」

「上官、もうそろそろ帰還せねばならない時間です」

「そうか。承知した。…皆に命ずる。ここにネクスと戦った異形のものと思われるものがあった。この場に定期的に待ち伏せし、来た異形を抹殺せよ。今日は撤退だ。何人かは引き続き調査をし、現時点で掴める情報を帝国に持ち帰れ。『十天守護者オクトヘブンス』のNo.9セプテンは既に潜入している。奴等の動向の心配はいらない」


男はその棘を握りしめ、虚空を睨みつける


「必ず見つけ出して、殺す。『十天守護者オクトヘブンスNo.8オーガス、ゼオ・タストロフ』がお前たちの首を切る。覚悟しておくがいい。」


装備の音を鳴らして、兵士たちが森の外へ出ようと踵を返す。その音はまるで、平和だった日常の終わりを告げるカウントダウンが進むときの音のようだった

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