#17 鍛錬の再開、新たな友との出会い

マンツーマンでの修行が終わったからと言って、私自身の修行が終わったわけではない。私はレツハさんたちが選別してきた人たちが来るのをヘインと話しながら待っていた。


「お前の好きなもんってなんだ?」

「好きな物?」

「あぁ、会ってから割と時間経ってるのに、そういうの全く聞いてなかったなと思ったんだ。」


あぁそういう⋯確かに、日常会話的なのをすることは滅多になかった。それもそのはず、ここ最近はずっと襲撃やら鍛錬やらで色々やること詰めだった。気を緩める暇もなかったから、全く雑談という雑談は、ヘインとは出来ていなかった。


「そうだなぁ⋯動物とかと遊ぶこととか、自然の景色を見たりすること⋯かな。」

「へぇ⋯なら、ココ最近は退屈してたんじゃないのか?」

「いや、そうでも無いよ。メディさんと話すこともあるし、鍛錬もそうだけど、実はこんな日常、結構憧れてたんだよね」


お世辞に聞こえるかもしれないが、お世辞ではなく、実際そうだ。私は村八分を受けていたし、村八分が解かれてからも村の住民からは迫害を受けていた。だからこそ、こういう普通に接してくれる人たちがいて、談笑できて、色んなことが出来る。こんな日常に、私は憧れをもっていたのだ。


「⋯そう思ってくれているのならそれは良かった。お前の過去話も、俺たちが信用に足ると判断したら話してくれ。⋯もうそろそろ、だな。」


そうヘインが言葉を発すと、空間に亀裂が入り、その中からレツハさんが、そしてレツハさんの後ろから数十人の人たちが入ってきていた。


「よう!元気してたか?」

「遅かったな。元気は元気だ。」


レツハさんはにかっと笑い、そうか!と言った。


「さぁ、俺とメディさんが選んだ戦闘系の異形の奴らだ!意外と集落にいるもんなんだなぁ!探してみて結構驚いたぜ」

「仮にも統括者であるはずのお前が住人の異形を把握してないって一体どう言うことなんだよ…」

「こんな数多にいる人らの異形を全部覚えろとでも言ってんのか?無理に決まってるだろ!」


ここにきてもやはり憎まれ口を叩き合う2人…ブレないからむしろ安心する。


「いや、言い合ってても仕方ない。じゃあそいつらも交えて戦闘訓練といこうか。」


ヘインがそういうと、連れてこられた人のうちの1人が


「もう始めるんですか!?」

「…あぁ、そうだった。説明とか必要だったな。あと、各々の自己紹介…とか?」


さて、果たして戦闘訓練に自己紹介は必要なのだろうか。いやまあこれから一緒に強くなろうって言うお互いを知るために…みたいなのは必要かもしれないけど…ほんとにいる?自己紹介…そんなことを思っていると、ヘインが早速説明を始めた。


「えー…ここでは基礎体術とかを教えたりする。異形の応用なんかも、それが十分になった時点で始めるつもりだ。マンツーマンではないから、対応が遅れることもある。そこら辺はまぁ…待っていてくれ。」


なんか先にマンツーマンで鍛錬したの、すごいズルした感じがある…


「最悪の場合はそこにいるメイプルってやつに聞くようにしてくれ。そいつは並の奴らよりも体術がしっかりしている。」


えっ私!?急にヘイトが向くなんて聞いてないんだけど!?てか視線痛すぎるってぇ!修行のする人数が多くなっても変わらず鬼か!


「それじゃ組手、開始!」


ここから先はマンツーマンの時よりも地獄だったかもしれない。ヘインがあんなこと言ったせいで、私のもとに聞きにくる人たちが絶えなかったのだ。正直教えるのは本当に苦手だ。そして2時間くらい経った後、私はものの見事にやつれていた。


「はぁ…」

「随分と疲れているようだな。どうしたんだ?」

「誰のせいだと…思ってんの…」


マジで疲れた。教えるのも苦手だし、何より人とのコミュニケーションの取り方も得意な方ではない。話すのも疲れるし、教えることも疲れる。それにその作業がどちらも私は苦手なのだ。それがさらに、私の疲労を加速させていた要因である。


「メイプルせんぱーい!」

「後輩がよんでるぞ。メイプル」

「勝手呼ばれてるだけだから…はーい。今行くねー」


私のことを先輩と呼んでくる少女のもとへと、私は向かった


「どうしたの?一応訓練は終わってるけど…何か困ったことでもあったりした?」

「そんなんじゃないっス!個人的なことで先輩のことを呼ばさせてもらったっス!」


個人的なこと?私のことに関してなにか気になるになることでもあるのだろうか


「普通にただ話がしたくて…ダメ…っスかね?」

「話がしたかったの?それは別に構わないけど⋯」

「ホントッスか!?ありがとうございますッス!」


素直な子だなぁ⋯私にはこの子がとても輝かしく見える。


「えーと、まずは名前からッスよね。改めて、アタシの名前は『クレア・シュタール』って言うっス!以後、よろしくお願いするっス!」


クレア、か、確かにこの子の性格とあってるいい名前だ。


「私は『メイプル・ウィート』。よろしくね。クレアちゃん。」

「ハイッス!へへ、これでお友達っスね!」


話して自己紹介したらもうお友達…!?まぶしい…!眩し過ぎる…!?


「そ、そうだね。じゃあ、その先輩っていうのもやめてくれる…?」

「それはイヤッス。友達は友達でも、先輩は先輩っスもん!」

「あはは…やめてはくれないんだ…」


どうやら先輩呼びをやめてはくれないようだ。むず痒いけど、我慢するしかないか…別に悪い気はしないし


「これから結構鍛錬って続くんスよね?なんでウチが選ばれたかはわかんないっスけど…力になれるよう頑張って強くなるッス!」


健気な子だ…これから長い付き合いになるかもしれないし、仲良くなるのもいいかもしれない。同世代の子と話すのも滅多にないし、友達もいたことなかったし…そう考えると、なんだか嬉しくなってきた


「がんばってね。一応先輩として、力になれるよう私も頑張るよ。クレアちゃん見てたら、私もがんばろうって気持ちになったよ。ありがとう」

「?なんでお礼なんスか?」

「ふふふ、なんでだろう」


自然と、感謝の言葉が出てきていた。おそらく、友達になってくれたことに対して、だろう。それほど私は嬉しかったのだ。


「メイプル、そろそろこの空間閉めるぞ。」


ヘインの声だ。この空間をそろそろ閉じるらしい。私はクレアちゃんの方へ振り向いて


「じゃあそろそろ出よっか。」

「ハイっス!」


そして私はクレアちゃん連れて、その空間を後にした。

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