#15 異形の力

私はヘインについていきながらいろいろなことを話していた


「まさか、俺が誰かに修行をつけることになるとはな。」

「いやならしなくてもいいんだよ?」

「しないって言う選択肢はない。恩人を見殺しにする気か?」

 

ぐぬぬ…それ言われたら何にも反論できない…こんな感じでずっと軽口を言い合っている。割と楽しかったから文句はないけど…


「そういえば、修行ってどこでやるの?」


ここら辺は森林だから、修行するとなると木々を吹き飛ばして更地を作るくらいしか無さそうだけど…


「それは魔法器具アーティファクトを使えば問題ない。この『空間創玉ゾーンクリエイター』を使えばな」

「なるほど、確かに魔法器具アーティファクトなら魔力が使えないわたしたちみたいな異形でも使えるね。」

「あぁ、そこで作られた仮想空間でお前をビシバシ鍛える。」


それなら大丈夫そうだ。環境にも影響はないし、何も気にせず修行に打ち込める。


「だいたいここらへんでいいか…よし…」


ヘインが立ち止まって『空間創玉ゾーンクリエイター』を取り出し、深く息を吸い


「空間生成『風景投影:岩石荒地』」


その一言と共に、玉が割れて、そのまま膨張しわたしたちを包み込んだ。視界が暗転し、何が起こったかと思い目をひらけば、先の緑とは打って変わって、そこが荒れ果てた大地へと変貌していた。


「舞台は整ったな。じゃ、修行の開始だ。っとその前に、お前に教えるべきことがあったな。」

「教えるべきこと…?」


修行する点の注意事項とかだろうか。


「異形っていうのはな、”発展”できるんだ。」


異形が⋯発展できる⋯?


「第1に聞きたいことがあるんだが、お前の異形のこと、お前の中でどんな解釈をしてるんだ?」

「え⋯?どんな解釈もなにも、体がただ粘性のある液体になるってことだけだけど⋯」

「やっぱりな。それだけの解釈ならお前は強くなれないぞ」


いやいやいや、異形の解釈と強さがどう変わるっていうの?異形って自分が発現したものとおりにしかならないんじゃ⋯


「異形は自分ができるって思ったことは大抵できる。まあそれに準ずる考えじゃないと発展は出来ないけどな」


全く理解が追いつかない。異形とは性質。言わんとしてることはわかるのだが、性質そのものを発展できると言うことなのだろうか?


「説明が難しいな…そうだな。譬え話をしようか。例えば、性質が全く分からない物質があるとするだろ?それはどうやったら性質がわかる?」

「えっと…研究する。」

「正解だ。そして研究にはなにより”仮説“が必要だろう?つまりそれに準ずるような、これができるのではないかって言う仮説を立てるんだ。準ずるものならなんでもいい。いくらぶっ飛んでても、可能性はゼロじゃないからな。それが異形の力だ。まあ言うよりやってみたほうが早い。」


なるほど、習うより慣れろ、的な感じね。確かに言葉で説明されるより自分でした方が体感もできるしわかりやすそうだ。


「まぁ修行の中で解釈を広げていくといい。とりあえず基礎体術を覚えること、それが最優先事項だ。」

「わかった。頑張ってみるよ。」

「あぁ、しっかりしごいてやるからな?覚悟しろよ。新人だからって容赦はしないからな。」


そこからが、私の地獄の日々の始まりだった

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「大丈夫ですかね…」


お茶を嗜む薄桃髪の少女メディは、その翡翠の瞳に心配そうな感情を浮かべていた。その心配の対象は最近知り合ったばかりのメイプルという名の少女を心配してのことだった。


「大丈夫じゃねえか?ヘインの野郎は確かに厳しいが、流石に新人にはすこしは優しくするだろ」

「それがそう言うわけでもないんですよ〜…」


ヘインは鬼。それは言葉通りの意味で、そもそもとして元の種族が人間ではない。だからこそ彼は人間の基準を知らない。厳密に言えば知っているがその鬼としての感覚の方が強いと言った方が正しい。彼はほとんど『鬼族オーガ』の基準で話している。


「心配しすぎだと思うけどな。少なくとも俺はあいつのことを信用してるし、疑心なんかこれっぽっちもない。メディさんも、もう少し肩の力を緩めてもいいんじゃねえか?」

「そうなんですかねえ…」

「あははっ、大丈夫だって!いくら元が『鬼族オーガ』とはいえ、そこら辺は理解してるはずだ。人里に住んでた時間も短くはないし、性根は優しいやつだ。だから心配には及ばないと思うぜ。」


その言葉を聞き、緊張の糸が少し緩んだのか、メディはふわっとした笑みを浮かべた。


「そうですね。ちょっと思い詰めすぎてたみたいです。ありがとうございます。レツハさん♪」

「どうってことないぜ!さ、修行するやつとしないやつで選別を始めるぞ!メディさんも、少し手伝ってくれないか?」

「わかりました!では早速始めましょうか!」


少年と少女はそうして作業に取りかかるのであった

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