#6 本気のぶつかり

(嘘だろオイ…あれで本気じゃなかったってのか…!)


ヘインは本気で焦りを感じていた。死ぬ準備はできている。だがそれ以前に、このものにここを抜けられることに対しての危機感を感じ始めていた


「感謝するぞ。忌み者よ…!私はまた、もう一つ上の段階へと至れそうだ…!」

「少なくとも、今は至らないでくれよ…クソ…!」


焦り、だが、ヘインはすぐに持ち直す


(いや、取り乱すな。冷静さを失えばそれこそ本当に負けが決定してしまう。心を鎮めろ…)

「『刃風一閃じんふういっせん』」

「チッ!」


ヘインの横を音速にもいたろうかという速度でネクスが横切る。ヘインは咄嗟に腕でガードするが、腕が切り落とされた


(はやすぎる…反応できねぇ!)


皮肉にも、先のネクスと同じ反応、そして同じ状況だった。ネクスの心境をヘインは感じることができないが、状況が逆転したことに対して、ヘインは不愉快さを募らせていった


(ジリ貧なんてレベルじゃねえな。強すぎる。よくて相打ちか…悪くても負け…最悪のパターンは、メディたちを殺されることだな…それだけは絶対に避ける!怖気付くな!)


ネクスは、気分が高揚していた。だからこそ、今のネクスには隙しかない、それは反応できるという自信からくるのか、それとも無意識なのか。どちらかは分からないが、まだ、ヘインに勝算がないわけではなかった


「流石だな…お前は強い。人間の中でも指折りの実力者なんだろうな…だが、勝つのは俺だ。いくら強さの階段を踏めたとしても、信念がなけりゃ勝負には負ける。…勅命とか言うふざけた理由で戦うやつなんかには、負けてられないんでね」

「腕を切り落とされて尚、そんなことが言えるのか…その口の大きさには恐れ入るな。だが、お前は勘違いしている。私は…お前より圧倒的に強い」

「そんなことはわかってんだよ…だからこそ、次で終わらせる。」

「面白い。なら私の最強、最高の技をもってして、貴様を滅して見せよう。」


ネクスとヘインは睨み合う、そして、両者、踏み込み、決死の、全力の一撃を持って相手を葬ろうとしていた


「『龍破暴風滅斬アハレイトディストラクション』!」

「『刺突しとつ針地獄はりじごく』!」


両者の最高の技が衝突する。威力は拮抗している…ように見えた


(クソが!地味にこいつの方が威力が高え!)


そして、ネクスが持っている武器がヘインへと迫った


「私の勝ちだ!異形の者よ!」


ザクッ…っと肉を鉄が貫いた音がした


「ぐっ…がは…」

「お前は強かった。相手が私じゃなければ、勝っていたやもしれぬな」


ネクスの剣がヘインを貫く。刺し口からだらだら血液が流れているのを見て、ネクスは勝利を確信した。ほしてヘインを突き刺した剣をゆっくりと抜こうとした…が、ネクスはそこで違和感に気づく。剣が抜けないのだ


「抜け…ない…!?」

「刺し殺せ…『無慈悲無尽の刺殺ルースレスマーダー』」

「なっ、!ぐぅっ!?」


ネクスの体を無数の針が貫く。ヘインは死んでいなかった。勝とうとする意志も含め、全てに執着していたのだ


「勝って兜の緒を締めよ…聞いたことないか…この言葉」

「私が…油断していたとでも言うのか…!?」

「俺程度の存在の違和感なんざ、お前にとっちゃ何も思わないんだろうな。だからこそ、俺はこうやって不意打ちの一手を取れた。…最初から、俺1人で勝とうなんざ思っちゃいねえよ」


ヘインは、最初から自分の勝利を狙っていなかった。格上だとわかった時点で、相打ちへと考えを切り替えたのだ


「お前はこのまま串刺しにされて俺と一緒にここで朽ち果てるんだ…そう言う運命なんだよ…ぐふっ…」

「貴様っ…!自分の命が惜しくないのか…!かはっ…ぐっ、なぜ、そこまでできる…!」

「大切なもの守ってるからに決まってんだろ…そのためなら命なんざ惜しくねえ」

「この、命知らずが…!」

「はっ、どうとでも言えばいいさ…がはっ…」

(クッソ、再生が追い付かねぇ、こりゃマジで死ぬな…あんの風、剣が突き刺された時に内臓含めて中の肉少し抉りやがった…)


異形の再生力、生命力をもってしても、ヘインは死を悟るほどの致命傷を喰らっていた


(やばい…な、意識が朦朧としてきた…血ィ、出しすぎたな…クソ…)


意識が遠のいていく、そんな中で、ある人の声が幻聴として聞こえてきた


『必ず、必ず生きてください!』

(最期に聞こえてくる声が、お前の声なんてな…すまん、約束…守れなかった…あとは任せたぞ…メディ…)


そこで、ヘインの意識はプツリと、まるで機械に繋がれた導線が切られたかのように、ブラックアウトした

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

目の前の異形を見ると、すでに動かなくなっており、目の光も消えていた


「死んだ…か…ぐっ…がはぁっ…」

(私も、もう長くは持たんな)

「え〜!ネクス隊長!どうしたんですかその怪我!」


聞き覚えのある、憎たらしい声が聞こえてきた


「…アノー…」

「はい!帝国守護騎士団ガーディアンズ第二部隊副隊長『光速のアノー』!基、『アノー・グルーミー』です!」

「名乗るな…分かっている…」


やはり、体中に傷ができていて、そこから大量の血が流れ出ているのにもかかわらず、こいつの鬱陶しさは変わらんな…そう言う謎の安心感を得てから、アノーに頼み事をする


「…お前の光魔法で、私のことを治癒できないか…?」

「言われなくてもお任せください!『光の羽衣』…あれ?光魔法が…効かない…?」

「…やはりな…かふっ…」


アノーはきょとんとしているが、すぐに治癒魔法を発動する


「治癒魔法『豊穣の泉』…よかった、治癒魔法は効くんですね」


アノーの魔法により、私の傷は癒えていっていた


「助かった。礼を言う。」

「いやいや!隊長が無事でよかったですよ〜!」

「撤退…だ…スマン…血を流しすぎた…少しの間、頼ん…だ」

「え〜!?!?隊長〜!?ちょっと〜!!」


アノーのその声を最後に、私の意識は途絶えた

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