#5 絶望の侵攻

戻ってきたヘインは焦った顔で、大丈夫とは言えないような形相だった


「殺したって…どういうことですか!」


ヘインは忌々しそうな顔をして舌打ちをしながら言葉を綴った


「アイツ、位置情報魔法をつけられてやがった。対象の位置を術者が把握できるっていう魔法だ。…おそらく、人間の兵士どもがここに来るだろうな…チッ…クソが…」

「そんな…」


メディさんは顔を青ざめてとても信じられないという顔をしていた


「…メディ、コイツらを連れて逃げろ。時間は俺が稼ぐ」

「何言ってるんですか!ヘインさんも…!」


おそらく、一人で人間の軍勢を相手するとなると、いくら強くても、異形であろうが命はないだろう。メディさんも、それを理解しているようだった


「死なないって約束はできねえな。だが、お前らが遠くに行くくらいの時間なら稼ぐのは簡単だ。分かったら行け!俺のことは構うな!」


外で爆音が鳴り響く、敵の足音と、発砲音だろう


「もう時間がねえんだ!さっさと逃げろ!」


ヘインは大声をあげて、この場にいる全員に言った。


「っ…!必ず、必ず生きてください!」


メディさんはそう言って私たちを連れて外へと逃げた

瞬間、ヘインの口元が緩んで、微笑んでから


「だから、約束できねえって言っただろ」


と、ヘインがそう言ったのが聞こえた

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「…さて、殺しに行くか。俺の死に場所にも、丁度いいかも知れねえな」


どんどん、音が近くなってくる。俺たち異形いらないものを殺しにきた人間忌々しいやつらが近づいてきている


「ああやって啖呵を切ったんだ。ゴキブリみてぇに泥臭く、しぶとくいってやるよ。」


人間たちの姿が見えて来た。そして俺を見るなり


「…逃がしたのか。仲間を。」

「ああ、逃した。それがどうした?お前たちには今、殺すべき相手が目の前にいるだろ」

「一人でこの軍勢を相手にするつもりか?なんと無謀な。」


兵士が鼻で笑う。おそらく、小隊長だろう。いちいち言う言葉が鼻につく。


「異形の愚かさもここまで来たらもはや呆れだな。自分は強いと思い上がってるのか?残念だが、我々は帝国の精鋭。貴様1人、一瞬で首を刎ねてやる。」

「口だけじゃないってこと、証明して見せろよ。雑兵どもが。」


戦いの、火蓋が切られた瞬間であった。


「『帝一太刀みかどのひとたち』!」

「『腕棘アームニードル』」


俺の腕が、小隊長の腹を突き抜く


「あっ…がぁ…」

「口だけなのはさっきの奴らと一緒ってわけだ。全員殺してやるよ。死ぬ気でこい!」


目の前のゴミ人間どもに分からせてやらねえといけねえからな。全員殺す。たとえ俺がここで死のうとも。


「はぁっ!」

「おせえよ!」

「ぐぅっ…」


戦いは数より質だ。そのことを理解していない馬鹿どもがどんどん自分の墓地に来る。


「学ばねえ奴らだな。小隊長がやられた時点で、お前らには勝ち目なんてねえんだ。しかもここには仲間だったものの死体があるだろ?なのになぜ向かってくる」

「それは…」

「私が答えよう」


その声が聞こえた瞬間、凄まじい魔力の圧を感じた


「お見事だ。人間ならざる者よ。ここまで1人で殺すとは、相当な強者ということだな。」

「お前は…なるほど、本物の帝国精鋭か」

「本物の、などと…あまり可哀想なことを言うんじゃない。彼らも立派な精鋭さ」

「はっ、心にねえことをぬけぬけと言いやがる」


こいつは少なくとも、ここにいる兵士たちを見下している。それが雰囲気で見て取れた


「さあ、さっきの質問の答えだ。理由だろう?それは、皇帝の勅命だから。さ。」

「くだらねえ理由だな。そんなもんで自分の命を無駄にすんのかよ?」

「皆覚悟が決まっているのだ。それに皇帝の、帝国のために命を落とすのは我々帝国兵士にとって本望。我々帝国の兵士は、皇帝へ忠誠を誓っているからな」


どう考えてもその思想を押し付けているようにしか見えない。反吐が出る


「さて、私の部下を散々殺したのだ。己が殺されても、文句は言えまい?」

「最初っから文句を言うつもりなんてさらさらねぇ。それに俺は端から死ぬ覚悟でやってんだ。俺のことを殺しにくるんなら、お前もその気でこいよ。」

「ふっ、面白い、貴様、名前はなんと言う?」

「ヘイン・トラスト。…お前たちが忌み嫌う『スパイク』だ。お前は?」

「冥土の土産だ。教えておいてやろう。私の名は『ネクス・ワフル』。帝国守護騎士団ガーディアンズ第二戦闘部隊隊長『旋風のネクス』。覚えておけ」


そして、俺とネクスがぶつかり、そこに轟音が起こった。第二幕の、開始の合図であった。

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両者の戦いは、互角だった。技と技のぶつかり合い、だが僅かに、ネクスがヘインを上回っていた


「『嵐斬あらしぎり』!」

隆起する棘ウェイクニードル!」


ヘインはこの戦況を冷静に見て、不愉快な気持ちになっていた。


(クソが、ジリ貧だな。持久戦に持ち込まれたら負けるのは確実に俺の方だ。)


ネクスも、この異形の本気を見て、少々驚いていた


(ここまでやるとはな、正直驚いた。だが、長期戦に持ち込めば私の勝ちは確実だ。ただ…)


ネクスは、違和感を覚えていた。何故ここまで持久するのか。単純に決め手になる一手を持っていないのか。あるいは…ネクスの頭の中には様々な憶測が流れている。


「やるな!異形!私とここまでやり合えた異形はこれまで会ったことがない!」

「お世辞をどうも…!『伸縮する棘イレイスシティスパイク』!」


ネクスの顔の横を極太の針が剛速で横切る。それをネクスは間一髪で避けることができたが、ネクスは顔に軽い切り傷を負った


(速い!反応し切れなかった!こいつ、やはり少し力を溜めている!)


ネクスは驚愕の表情を見せ、それを見たヘインは笑った


「はっはは!やっとその真顔を変えてくれたな!嬉しいぜ!」


顔を傷つけられたネクスは、怒りの表情を…ではなく、喜びの表情を見せていた。


(腹立たしい…そのはずだ…だが今はなぜか、非常に喜ばしい…!)


ネクスはなぜ喜びを抱いているのか、それは自分自身にもわからなかった。だが、これだけは確実に言えた


「異形…お前になら…本当の本気を出せそうだ…!」

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