第38話 屋敷跡地

 お父様はいつも凜を褒めていた。

 先日の子犬の件も、凜が楽しそうに話した時も

「よくやったな。」

 褒めていた。その様をみてゾッとしたものだ。

 その後も私がペットを飼うと、全て凜のおもちゃにされた。

 だからもう飼わない。

 私に友達ができて家に遊びに来た時も…。いつの間にか友達は家に帰ったことになっていて、翌日から学校へ来なくなっていた。

 屋敷で働いていた使用人たちも、いつの間にかいなくなってることもあった。

 私が愛する者、接する者、すべていなくなる。いずれお母様も、同じような目に遭ってしまうかもしれない。


 私は孤独になった。


 いえ、凜だけだった。私は凜だけを可愛がった。それでうまくいくようになった。誰もいなくなったりしなくなった。はずだったのに…。

 あの頃の私は幼かった。そして、また今回。凜が戻ってきたとき、凜だけを精一杯愛し、残酷なことはさせまい。そんなのは甘かった。現実を見てなかったのは私だった。


「ゆづり様、これからなすべきことをしましょう。」

 ふいにマーティンが声をかけてきた。

「マーティン、超能力でもあるの?」

「そんな顔をされてたら誰でもわかりますよ。それに超能力者はゆづり様じゃありませんか。」

「あ、私って超能力者?…うん、そうね。」

 それにしても…。

「マーティン、あなたはいつから屋敷に仕えてたの?」

「ゆづり様が小さな頃からですよ。」

「嘘ね。小さな頃の記憶にあなたはいない。あなたが一緒にいたのは、屋敷が火事になった日からよ。でも、初めてじゃない。もっと前にも会ってたわね。」

 マーティンはフッと笑った。

「答えなくていいわ。私がそこまでわかってるってことを知っていて欲しかっただけだから。」


 話しているうちに、車は目的地に到着した。

 火事で燃えてしまった屋敷の跡地。

「あの時のトラウマがあったから、ここに来ることなんてなかったわ。」

 目の前には空き地があった。が、しかしそこには小さな物置ほどの小屋が建っていた。

「こんな小さな小屋でも堂々と建っていたなら、なにか保管しているのだろうと近所の人さえ気にも留めないわね。」

 ゆづりは小屋に向かって進んだ。この小屋が入り口なのだろう。

「ゆづり様、なにか仕掛けてるかもしれません。私が先に進みます。」

 少し先の地面を見ると、確かに雑草の生え方がおかしい。一度掘り返してから綺麗に雑草を植えたようだ。

「落とし穴?まさかそこまで…。」

 まさかそこまでとは。凜は変わってない。ずっとずっと、あの子犬を殺した時のまま成長していない。だから一之瀬君も…。

 小屋の傍まで近づいた時だった。

「ゆづり様、そのままストップで。わずかに火薬の匂いがします。」

 さすがに微量の匂いでは、ゆづりには嗅ぎ分けられなかった。しかし…。

「この小屋そのものがトラップ?」

「たぶんそういうことでしょう。ドアを開けると間違いなく爆発しますね。」

「振り回されてる感、半端ないわね。」

 ゆづりはため息をついた。

 

 

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