第36話 撒かれた餌
待ち合わせしたコーヒーショップは、ゆづりの家から約1キロほど先にある。一之瀬は入り口からやや離れた歩道の端で、ゆづりを待っていた。
ーこれ以上は危険だー
それは一之瀬の本能のようなものだった。
場合によっては神代ゆづりを警察で保護した方がいいのかもしれないが、警察で守り切れるのか…。敵はどこにいるのかも、わからない。仲川の件もある。そう考えていたその時だった。
「助けて!!」
遠くからかすかに、助けを求める声が聴こえた。あたりを見回す。車の走る音や店の音楽でかき消されている。だが、確かに聴こえた。
「助けて!!」
あっちからか。くそっ!こんな時に!
ゆづりのケータイに『ごめん、事件かもしれない。』とメールを送信し、助けを求める声が聞こえた方へと走って行った。
ゆづりがコーヒーショップへ到着したころ、一之瀬の姿はなかった。白いデニムジャケットのポケットからケータイを取り出すと、一之瀬からメールが届いていた。
『ごめん、事件かもしれない。』
このタイミングで?
急いでマーティンに連絡をする。
「マーティン、この近くで事件があったか確認して。一之瀬君が巻き込まれた可能性があるわ。」
『承知しました。あとデリアに依頼した件の報告があります。』
「た、たすけて。」
道が
「大丈夫ですか⁉」
一之瀬は駆け寄った。振り向いたその顔は…。
『ゆづり様、近くで事件らしい事件は起きてないようです。デリアに監視カメラを追ってもらってますが、一之瀬さんは監視カメラのない方へ誘導されたと思われます。』
「餌を撒かれたのね。たぶん、この行動も筒抜けてる。ここから監視カメラのない方向は何通りある?」
『お待ちください。…3通りに絞られます。』
「この場所から一番近いところから探すわ。餌ならそんなに遠くまでばら撒かないでしょう。」
マーティンのナビゲーションで、通りを進んでいく。すれ違う人は全員怪しく見えてくる。
私はきっと監視されてる…。気が抜けないわね。
『ゆづりさま、次を右に』
「ええ、わかったわ。」
路地を曲がった瞬間、ケータイが振動する。メール着信だ。
『ー取引ー 一之瀬か警視庁か 』
一之瀬の携帯からメールが送信されてきた。
なんてくだらない!どっちにしろ、一之瀬を助けられない。
路地を曲がった先は袋小路になっていて、そこにはなにもなかった。
「マーティン、ここから半径100メートルにある監視カメラに…。」
言いかけてやめた。半径100メートルに写った車を全部調べろだなんて、無理がある。
『ゆづり様、今、そちらに向かってます。デリアの報告は中でお伝えします。』
「わかったわ。」
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