第35話 デリアと香川みなみ

 デリアは独身だった。こんな仕事していたら、としても結婚どころか恋愛関係さえ皆無だ。それに家族が巻き込まれ、危険な目に合う可能性もある。(と言い訳をしていた。)

 例えば、もし万が一?結婚したとして…。新婚生活?新妻?主婦?キッチンに向かってご飯を作っている想像さえできない!というかしたくない。多分、デリアに関わる人物…そうマーティーだって、そんな想像は1ミリもしたくないはずだ。

 今でこそ、安全の為に地下に引きこもるデリアだが、30代くらいまでは地上で暮らしていた。30歳ともなれば、『もはや行き遅れたか』とおせっかいな親戚なんかは、お見合い写真など持ってくる。(はずだ。)そう、普通なら。

 でもデリアは普通じゃない。だからお見合い写真を撮る事もなく、お見合い話を持ってこられることもなかった。

 多々多様なコンピューターが、デリアにとって家族だ。こいつがあれば、儲かる仕事がたっぷりと入ってくる。それで満足だった。

 

 ある日、デリアが依頼で仕事に出かけた時の事だった。

 建物の近くで突然、銃撃の音が鳴り響いた。

「なにごと⁉」

 デリアは急いで周辺の監視カメラを拾い、状況を確認した。情報も入ってきたが、どうやらデリアの仕事に関係なく、起きた発砲事件が近かったらしい。

 まあ、関係ないならいいか…。

 繋いだ監視カメラを切ろうとした時に、建物の片隅に小さなものが動いた。

「え、なに?犬?」

 なにやら黒い物体がもぞもぞと動いている。

 犬か~。うーん…。

 助けるべきか悩んだ。悩んだなら助けないときっと後味が悪い。もう一度、周囲の状況を確認した。発砲した者は仕事が済んだってとこか、すでに姿はなかった。

「よっこらしょっと。」

 立ち上がって、犬の救助に向かう。のたのたのた…デリアにとっての最速で。日頃から歩いているわけじゃないので、走る事さえままならない。

「いぬー、どこだー?おーい。たしかこの辺りだったんだけど。もう逃げたかな?」

 すると後ろの大きなポリバケツからゴソゴソと、は出てきた。

「は…?」

 犬だと思ってたそれは、泥で真っ黒になった子供だった。

「これはいったい、どうすれば…。」

 子供は今にも泣きだしそうだったが、ずっと唇を噛みしめて我慢していた。そこへちょうどパトカーが到着し、警察官へ事情を話すと…。

 !!

 それでも警察か!!と言いたいのを呑み込み、保護を頼んだ答えは

「わかりました。この子は多分~施設行くと思うので、お預かりします。」

 それはもう嫌そうな顔だった。まあ、こんなに泥にまみれていちゃ当然と言えば当然なのだが。

 子供の顔をちらっと見た。嚙みしめていた唇から、うっすらと血が滲んでいた。

「いや、この子はしばらくウチで預かる。とりあえずこのままじゃ、風邪ひくだろう?連絡先はここ。そっちでなにか手続き必要だったら送るから。」

「あ~でも、それもちょっと僕があとから言われますよね~?」

「うるせえ!知るか!!」


 こうして連れて帰ってきた子は、実は女の子だった。

「おお、洗ったら綺麗になったじゃないか。」

「おばさん、口が悪い。」

「おばさん~⁉おばさんだけど、おばさん呼ぶなぁ‼」

「じゃあ、マダム。私は香川みなみ。10歳。」

「生意気な子だねぇ。ま、嫌いじゃないよ、そういうのは。」

 

 こうして出会った二人は、約30年たった今も、飽きずに一緒に暮らしている。


 



 

 

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