第34話 最期の依頼

「おや?久しぶりに足跡が残っているじゃないか。」

 多種多様なコンピューターのモニターを眺めながらデリアは呟いた。

「申し訳ないがね~、の痕跡や周りの痕跡だけは残せないから。ま、だけど覗いた履歴からは拾えるようにしてあるんだけど、ね!ぽちっとな。」

 カチャッ。キーを押してからホットコーヒーをすする。

 後ろのドアからノックの音とともに、女性が入ってきた。いつも表向きの店頭で接客担当の香川みなみ。長い髪を後ろできちんとまとめられた、スーツがよく似合う30代後半の女性だ。

「マダム、ここに依頼と資料置いておくわね。」

「そろそろさ~…。」

デリアが言いかけると

「無理無理!私はマダムの代わりになんてなれないわよ。引退なんてくだらないこと考えてないで、仕事しましょう!はい、これ。」

 香川みなみはポケットからショコラクッキーを3つ、デリアのデスクにあるホットコーヒーの隣に置いた。

 デリアは即座にそれを口に入れ、モゴモゴと

「こんなんじゃ、あたしゃ釣られないからね!」

 と言った。

「仕事を引退なんてしたら、すぐにボケちゃうわよ。じゃあ、もどるわね。」

「フン!」

 デリアはきびすを返し、モニターを眺めた。途端、再びドアは開き

「あ、その依頼マーティンからのだから!じゃ、よろしく~。」

 香川みなみはそう言うとドアを閉めた。

「はぁ…。はやく平和になってくれないかね…。」



「ゆづり様。依頼が届きました。」

 部屋でバイオリンを弾いていると、マーティンが入ってきた。

「依頼…。場所は?」

 マーティンはためらった。

「場所は?今度は誰?」

「警視庁の…。」

 ゆづりはマーティンを見つめた。

「断るわ。」

「承知しました。」

「どういう意味か、わかったのかしら?」

「決心なさったかと。」

「今夜、決行するわ。急いでデリアに情報をもらって。」

 マーティンはうなづき部屋を出て行った。同時に、一之瀬晃からメールが届いた。


『君に確認したいことがあるんだ。今日、時間もらえないかな?』


(はぁ…。こっちの気も知らないで。まあ、知らないわよね。仕方ないか。)

『10分くらいでいいなら。』

 ゆづりはメールの返信を済まし、出かける支度をした。リビングに行くとマーティンがデリアへ依頼をかけていた。

「どちらへ?」

「一之瀬さんに呼ばれたわ。」

「お待ちください。今は危険な状態かと。」

「大丈夫よ。私が守るから。」

「ゆづり様も危険です。私が一緒に行きましょう。」

「マーティンはデリアからの連絡を待って。それと万が一、のことを考えて私にGPSを。ついでに一之瀬さんにもつけてくるわ。今、一番危ないのは彼でしょう。」

「では、くれぐれも無理をなさらず。」

 ゆづりは背を向けたままピタリと止まった。

「餌をかれたのか撒いてくるのか…。」

 そう言ってエントランスへと向かった。

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