第33話 ゆづりの忠告

(この事件はもみ消されます。これ以上の捜査は無駄になります。私に近づかないで。)


 ハッと気が付くと、自室のベッドの上だった。以前…、初めて神代ゆづりに会った時に、彼女はそう言った。

 バカだな。近づくなと言いながら、自分は何かを知ってると言ってるようなものじゃないか。頭のいい彼女が、何故あんなことを言ったのだろう?

 着替えてからリビングに行くと、母がソファに座っていた。

「起きたのね。朝ごはん食べる?」

「食べるよ。」

 母は亮を失ってから酷くやつれ、何も手につかなくなっていた。それでも、最近は少しづつ家事ができるようになった。

「昨夜は酔っぱらってふらふらだったわねぇ。」

 そう言われた瞬間、ご飯を喉に詰まらせた。

「うっ…。」

「お茶飲みなさい。神代さんというお嬢さんと、お父さんかしらね?送ってくださったのよ。」

「覚えてないな…いや、なんとなく思い出してきたかも。」

「お二人とも美形で品がよくて、素敵な親子ね。」

「いや、親子じゃないよ。」

「あらそうなの?よく似てるのに。」

(似てる…?)

 神代ゆづりの両親は屋敷が火事になった時に亡くなったが、顔写真を確認したことはなかった、ということに一之瀬晃は気が付いた。

「仕事、行ってくる。」

「あら、今日は休みじゃなかったの?」

「あ、ああ…。職場にまともな挨拶してなかったから、ついでに仕事してくる。多分、山ほどたまってるよ。」

「そうなの?じゃあ、気を付けていってらっしゃい。」


「おまえ、今日休みなのに何しに来たんだ?」

 松村がいぶかし気な顔をした。

「ちょっと調べたいことがあります。」

「ふうん?何を調べるつもりだ?」

「神代家の火事の時のことを。」

「まあ、いいか。」

「ありがとうございます。あ、そうだ。これ、母がお礼だそうです。」

 一之瀬が松村に差し出した紙袋の中には、上等な包み紙の菓子が入っていた。

「お礼って…事件はまだ解決してなくて、なにもこんな…。」

「受け取ってあげてください。母も少しづつ元気になってきていますんで。」

「そうか、じゃあ有難くいただくよ。」

「では、失礼します。」

(あいつも痩せたな。)

 松村は一之瀬を気にかけた。


 一之瀬はデスクにつくとパソコンを立ち上げ、ファイルを開き専用パスワードを入れた。クリアされ、事件簿ファイルに年数とキーワードを入れる。ざっと1,000件は超えているがさらに絞り込んでいく。

(神代…。あった。)

 火事跡の現場検証の何十枚もある画像の中に、高校生の頃のゆづりの写真があった。そして、神代毬絵かみしろまりえ。白衣を身に着けた、ゆづりの母の写真を見つけた。

(あれ?外国人?)

 髪色はマーティン・ホフマンと同じ銀色だった。顔はゆづりと似た面影がある。一度クリップして、その他の画像をスライドさせていく…が、しかし。父親の写真は一枚も出てこなかった。そして妹やマーティン・ホフマンの写真も。


 これは一体どういうことだ?


 一之瀬は別のファイルから名前を検索した、が。三人とも名前はエラーサインが出た。途中で誰かが削除したのか?それとも機密情報なのか…。何気に閲覧履歴を探ってみた。そこには仲川の名前が記されていた。

(仲川…。)



 

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