第32話 初めての焼肉店
じゅうううう…。
どす黒い血が
「神代さん!焦げて来てますよ!早く取って。」
「あ…。」
一之瀬は鉄板の上に手早く肉を並べながら、ゆづりの皿に焼けた肉を移した。
「はい、焼けてるから。たくさん食べよう。」
「はい、ありがとうございます。」
ゆづりは一之瀬が皿に乗せた肉に視線を移した。
「あの…これってどうやって食べるんです?」
口に肉を入れかけた一之瀬は、吹いてしまった。
「ご、ごめん。」
「私、こういうお店に来たことがなくて。」
「え?あ!あぁ~…。」
何も考えずに焼き肉屋に来てしまったが…一之瀬はゆづりを見た。
正装しているわけでもないのに気品が溢れていて、店の中でもかなり目立つ…。
ゆづりだけが浮いてキラキラしているように見えた。
遡ること30分前。
「神代さん、付き合ってくれないか!(栄養を摂るなら焼肉でも食べに行こう!)」
「付き合う…。(誰かを殺しに行くのね。)」
ゆづりは左手に持っていたバイオリンのケースを腕に抱え
「準備はOKです。」
と言った。
「せっかくここであったんだし、神代さんにいつかお礼をしたいと思ってたから。(なぜバイオリン?)」
「それで、(
「ここから割と近い場所にあるんだ。」
「はい!ではお供させていただきます。」
一方、まわりで見ていた学生たちは、ゆづりが交際を申し込まれOKしたように見えた。
「ゆづり様が!交際!!」
その噂はあっという間に広がっていった。
(考えてみれば、一之瀬さんが私の正体を知っているわけでもないのに、どうして復讐しに行くと勘違いしてしまったんだろう?)
(神代さんに焼肉屋へ行こうって言わなかったから、もしかしたらレストランでフルコース食べるのだと思ったんじゃないだろうか。申し訳ないことをしてしまったな。)
「あの…!」
同時に言葉が出た。
「一之瀬さんからどうそ?」
「あ、はい。あの…また食事に誘ってもいいですか?今度は焼肉じゃなくて、おしゃれなレストラン探しておきます。」
ゆづりは笑った。
「あの、焼肉ってこんなに楽しくて美味しいんですね。私は、まだまだ世の中のことを知らないみたいです。」
「楽しいですか?」
「はい、まわりのみなさんはビール飲んでますけれど、私たちも飲みませんか?ウーロン茶は置いといて。」
「お、ビールいっちゃいますか。神代さんはお酒飲めるんですね?」
「もちろんです。」
1時間後、一之瀬は酔いつぶれていた。
「神代さん、お酒強いんですねぇ。」
ゆづりは酔った風もなくケロっとしていた。
「一之瀬さんが弱いんですよ。」
「いや、そんなことはない!はず…だ。」
クス…顔を赤くして酔っていないふりをしようとする一之瀬がかわいらしく思えた。瞬間、気配を感じて入り口を見た。マーティンがこちらの様子を伺いながら立っていた。目が合うとゆっくりとゆづりの席に近づいてきた。
「珍しいですね。こういったお店も、一之瀬刑事と一緒だということも。」
「相変わらず、私がどこにいてもすぐに駆けつけてくれるんだから。マーティン、過保護すぎよ?」
「おや、デートの邪魔でしたかな?」
マーティンが悪戯っぽく笑い目を細めた。
「いいえ、一之瀬さんが酔っぱらっちゃったから助かったわ。家まで送りましょう。」
「かしこまりました。」
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