第31話 疑惑
凜が病室から姿を消して、1週間が過ぎようとしていた。なにも手掛かりはない。多分、今回も手掛かりひとつ残してないのだろう。
「ゆづり様、松村警部が来ました。」
「リビングへ案内して。」
「かしこまりました。」
「やあ、度々申し訳ない。」
「いえ。妹の為に動いてくださって、ありがとうございます。」
「その妹の凜さんなのですが、病院から周辺の目撃者もなく防犯カメラにも映ってないのですよ。犯人は素人じゃないようですが、心当たりはないですかねえ?」
「松村さん、それは私たちが犯人を知っているという意味に聞こえます。」
松村とゆづりの視線がまっすぐにぶつかる。
「不思議なんだ。妹が2回も行方がわからなくなっているのに、君はいつも通り冷静だってことが。普通なら寝込んでしまったり、あるいは不眠で顔色が悪くなったりするもんだが…。」
「つまり私は普通じゃないと?」
「何か知っていそうだなって思ったんでね。」
「残念ながら知りません。」
「そうか、失礼なことを言って申し訳ない。そういや、執事のマーティン・ホフマンさんはいつから神代家に仕えているのかな?」
「それは、ずっと前から…。」
ゆづりはそう言いかけて、ふと考えた。
(いつからだったっけ?)
考えたとたん、頭が重くなった。
「う…。」
「お、大丈夫か?」
「大丈夫。やっぱりちょっと疲れてるみたいです。今日はこの辺でよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ。無理させて悪かったね。マーティンさんを呼んで来よう。」
目の前がぐらぐらする。耳障りな音が聴こえる。
松村はマンションを後にし、振り返って見上げる。
(神代家ももう少し調べた方がよさそうだ。)
大学の入り口付近にはたくさんの花が飾られていた。一之瀬はそこでしゃがみ込み、手を合わせていた。弟、亮の無残な死。痛くて辛かっただろう。こんな目に合わせた奴に復讐してやりたい。そう思うのだが、自分はやはり刑事である。犯人を捕まえて法で裁かなければ、と自分に言い聞かせた。
立ち上がって振り向くと、神代ゆづりが立っていて軽く頭をさげた。
「神代さん、いつからそこに?」
「ちょっと前から。今日は非番ですか?」
ゆづりは一之瀬の服装を見て、そう言った。ジーパンにロンT、パーカーを羽織っていた。こうしてみると、その辺の大学生とそう変わらない。最初にあったころよりも痩せたように見える。
「刑事さんは体力勝負でしょう?栄養つけてくださいね。失礼します。」
あまり親しげにするものではない、そう思って足を進めた時だった。
「神代さん、付き合ってくれないか!」
一之瀬が後ろから叫んだ。
「はい?」
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