第27話 一之瀬亮

 ズル…ズッ、ズル…ズッ…

 足取りが重い。

 ポタッ…ポタリ…

 大きなしずくが地面に落ちていく音がする。

 行かなくちゃいけない。



 一之瀬亮が行方不明になってから2週間ほど経過した。兄である一之瀬晃も、ゆづりもそれぞれに手掛かりを探していたが掴めない。

「いったい、どこへ行ってしまったんだ。」

「いったい、どこへ連れてったというの?」


 無事でいて…


 大学の前でゆづりは車から降りた。

「マーティン。なにかわかったら、すぐに連絡して。」

「はい。では、また後程。」

 大学の購買部の横を通り抜け、左側にある総務室の建物を通り過ぎようとした時だった。

「きゃあー!!」

 たくさんの大きな悲鳴が、購買部の方から沸き上がった。

 ゆづりは、来た道を走りながら引き返した。途中で携帯電話が鳴る。聞きなれない音。それはデリアからの緊急発信音である。

(こんな時に…!)

「もしもし?」

『久しぶりだね、ゆづり。』

「デリアおば様、申し訳ないんだけれど今…。」

『お待ち、近くに行ってはならないよ。』

「なぜです?大きな騒ぎがあったようなので確かめに…。」

『何のために、電話したと思ってるんだい?緊急だよ。まあ、できればその近くにいる人を非難させられればいいんだけどね、時間がない。』

「どういうこと?」

『爆弾だよ。範囲10メートルほどの時限爆弾の信号をキャッチした。』

「え、じゃああの騒ぎは。」

『あんたをおびき寄せる罠かもしれないね。何にどう仕掛けたか、こちらからは確認できない。』

「時間はどのくらいあるの?」

『10分もあるかどうかだ。』

「わかったわ、近くのみんなを避難させる。」

『マーティンもこの記録を聴いてるはずだから、すぐに行くはずだ。』

「ありがと、デリアおば様!」


 ー時限爆弾ー

 (話している間に3、4分は経過してしまったか。)

「みんな、危険だから近づかないで!逃げて!できるだけ遠くに離れ…。」

 ゆづりの言葉が吞み込まれた。

 

 爆弾?あれが…時限爆弾だというの?


「やぁ…かみ、しろ…ゆづり、さん…。」

 そこに全身血だらけの一之瀬亮がいた。

「一之瀬君…。」

 まわりは混乱状態で大騒ぎだったが、ゆづりには一之瀬亮の言葉しか聞こえなかった。

「ここに来るように言われて、ね。じゃないと家族をまた僕と同じようにするって。」

 そういいながら一之瀬亮はその場に倒れこんだ。

「一之瀬君!」

「だめだよ…それ以上僕に近づい、たら。僕のお腹に…爆弾…が仕掛けら…れている。」

 一之瀬亮はシャツをめくりあげた。そこには、生々しい大きな傷になにかが埋め込まれ、雑に縫い合わせられた間から内臓が見え隠れし、血が流れだしていた。

「そんな、酷い…。」

「切る…のは好きだけど、裁縫は苦…手なんだって。」

 一之瀬亮はかすかに笑った。

「誰がそんなことを!」

 ピーピーピーピー音が鳴り、かすかに見えるタイムが10からカウントが始まり、一之瀬亮の顔色が変わった。

「逃げて。逃げろおー!!」

「嘘、そんな。」

 マーティンが飛び出し、ゆづりを抱えて走った。

「ダメよ、マーティン!一之瀬君を助けなきゃ。」

「もう、彼は…手遅れです。」


 どぉおおん!

 ビシャビシャッ!

 血しぶきと肉の破片が飛び散った。我先にと逃げ惑う者、その場で吐いている者や気絶している者で大混乱となった。

 遠くでパトカーやレスキュー、救急車のサイレンが聞こえている。そしてゆづりの耳に、もう一つ…楽しそうな笑い声が聞こえていた。

 クス…クスクス…


 

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