第25話 妹

 カッツカッツカッツカッツカッツ…

 総合病院の白い廊下にヒールが鳴り響いた。

「待ってください、神代さん!まだ患者様は安静にしなくてはいけな…」

 ナースステーションで引き留めようとする看護師の声は遠くなった。


 509…510…511…

 

 512号室の前でゆづりは止まった。

 ガラッ…

 息を切らしながら、病室のスライドドアを開けた。以前、ゆづりが入院した時と同じタイプの個室だった。

 ここまできて、足が震える。ゆっくりと白いカーテンに手をかけ、そっと引いた。

 

りん…。」

 そこには愛らしい少女が静かに眠っていた。ゆづりの目から涙があふれ我慢できずに、そのまま眠っている少女を抱きしめた。

「よかった…無事で。会いたかった!凜!」

 少女はゆっくりと目を開けて、ゆづりを見た。

「おねえちゃん?」

「凜!おねえちゃんだよ。わかる?」

「うん、おねえちゃん…でも重いし苦しいよ。」

「あぁ、ごめんね。大丈夫?」

 姉妹の感動の再開もつかの間。追ってきた看護師がやってきた。

「もう!困りますよ。神代さん!…あら、目が覚めたのね。さ、神代さんは一度、表に出てくださいね。」

「はい、すみませんでした。」

「おねえちゃん、また、あとでね。」


 部屋から追い出されたゆづりは、コミュニティルームに向かった。

「あ…。」

 一之瀬晃がコーヒーを飲んでいた。

「おはよう、神代ゆづりさん。」

「おはようございます。あの、一之瀬さんが凜を見つけてくださったんですね。本当にありがとうございます。」

 一之瀬晃はゆづりの顔をじっと見つめていた。

「あの、なにか?」

「いや、失礼。いつも君のクールな顔しか見てなかったから、今日みたいな表情もするんだなと思ってね。」

「失礼ですわ。」

「いや、でも妹さんが見つかってよかった。かなり長い間、行方不明だったよね?」

「ええ、神代の屋敷の火事の時以来なんです。今までいったい、どうしていたのか。一之瀬さんはどうして妹と遭遇したのです?」

「偶然だよ。帰ってこない弟を探しがてら、トレーニングに出てたんだ。そしたら住宅街で倒れてる女の子を見つけたんだ。」

「え、一之瀬…亮君が帰ってないんですか?」

「ああ、さっきもおふくろに連絡したけど、まだ帰ってきてないみたいだ。」

 偶然と言えば偶然だ。しかし、凜が見つかったと同時とは…。少し気になる。

「心当たりなんて…ないよな。」

 そう言いながら一之瀬晃は苦笑した。

「そうですね。大学の友達…くらいしか思いつきませんね。」

「だよな~。全く、亮の奴。心配かけるなよな。」

「ふふ、今は刑事さんじゃなくて、普通のお兄さんですね。」

「君もだろ。普通のお姉さんだ。」


 その時、ゆづりは視線を感じた。

 だが、振り向いてもそこには誰もいなかった。


「じゃ、僕はもう少し亮の奴を探しに行ってくるよ。代わりにあとで松村刑事が来るから。」

「はい、ありがとうございます。そして、お兄さん頑張って弟さんを探してくださいね。」

「ああ。じゃあまた。」

 後ろ手を振る一之瀬晃を見送った。と同時にマーティンがゆづりのそばに来た。

「マーティン、一之瀬亮が…。」

「はい、探ってみます。に巻き込まれてなければよいのですが。」


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