第24話 マーティンの秘密

「たぶん、心当たりがたくさんあると思う。」

 ゆづりは目を閉じ、ゆっくりとした口調で言った。


「モスクワの事件も情報が流れてた。橋本の時もそばに仲川がいたのに、あなたが気が付かなかったなんて、ね?それに私が仲川の情報を得たとき、すぐに仲川から連絡が来た。デリアに依頼した情報が流れるなんてのよ。誰かが漏らさない限り。でも、私はマーティンを信じたいの。だって、あなたは…あなたは、私が生まれたときからずっと一緒にいたんだもの。」

「ゆづり様、今は答えられません。もうしばらくお待ちください。いずれわかる時が来るでしょう。」

使は、裏社会での名前。本当は、まだあるはずよ。別の名前がね。だってあなたは任務とはいえ、毒ガスなんて一度も使ってない。似たような小細工はしても。それに、あの火事での出来事もまだ…。」

 マーティンはゆづりの言葉を優しくさえぎった。

「ゆづり様の洞察力にはかないませんな。分かれた組織の一つが、橋本と仲川を使い捨ての駒に使ってきた。そしてそうじゃない駒もいますから、今はを焦って出すわけにはいけません。」

「それが、今、精一杯出せる答えなのね。」

 マーティンは頷いた。



 休暇を出された一之瀬晃は、自分の部屋のベッドでうつ伏せに寝ていた。22時を過ぎてもまだ眠くならない。いつだって仕事の事で頭の中はいっぱいだった。そこへノックの音が聞こえる。

「まだ起きてるよ。」

 返事をすると母が入ってきた。

「あのね、晃。また亮が帰ってきてないの。もしかしたらまた、どこかで倒れてるとか…ないわよね?なんだか心配で。」

「母さん、亮だってもう20歳だからね?また連絡し忘れてるんじゃない?」

 とは言ったものの…以前倒れた時に、記憶が曖昧になった件もある。

「ん~わかったよ。どうせ眠れないしっていうか、寝るにはまだ早いから、ちょっと散歩がてらその辺を探してくるよ。」

「お願いね。」

 母は心配そうな顔をしていた。ちょっとやつれたようにも見える。

 部屋着からトレーニングウェアに着替えて、外へ出た。秋風で空気がひんやりとしている。


(亮を見つけたら、遅くなる時は連絡を入れるように言っておかないとな。久しぶりに、一緒にコンビニでもいって買い物するのもいいか。)


 ついでのトレーニングがてら走る。亮の姿は見当たらない。そんなにすぐに見つかることもないか。事件とかでなければ…。と、すぐに事件に結びつけてしまう自分に呆れた。

 しばらく走ると、小さな古いほこらがある。その角を曲がった先に人が倒れているのが見えた。


 まさか!


 しかし、駆け寄ってみると倒れていたのは若い女性だった。

「もしもし!大丈夫ですか?」

「う、うう…。」

 見た感じ外傷はないようだったが、念のため救急車を呼んだ。そしてそのまま付き添って救急車に乗ったため、母に連絡を入れた。それから事件性があるかもしれないと、松村に連絡を入れた。


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